祈りの果て 

闇は、かつて光と心であった。

人の嘆きに裂かれ、光は大地へと堕ちた。 

人のは血を流し、光は闇へと沈んだ。

光を喰らうは人の性。見下ろす心に影を引く。

闇の覆いし果てに、心は声となる。

祈りは、風を渡る。

放つ先は、おこ

焔は、声に導かれ、至った。





陽光。人の世に注がれる光。それは、遮られた。

命を育むその上に、影が差す。

漆黒。取り込まれた光は、闇と混ざり、眠る。

その闇は、光をむ。むさぼり、膨れる。


──ちた日を想い、果てを彼方へ──


裂けた地より、闇が生じた。人の顔を模して。

髪は無く、眼窩は闇をはらむ。青白き肌。紅無き口が、開く。うたう。それは嘆きだった。

人の世の行き着く先への。絶たれた繋がりへの。死んだ大地への。

想う。故に、謡う。うたい、うたう。


鎧はただ、進む。人の丈を越える闇に。歩みに乱れは無く、視線に揺れは無い。

ただ真っ直ぐ、愚直に。顔の前に立つ。闇より響く、幾重にも重なる声。

何者にも非ず。されど、誰かを支えし者達。闇は、うたった。


「灯よ。人の嘆きに熾りし灯火とうかよ。お前は何故なにゆえ、人を焼く?」


「命を焼き、世を焼き、想いを焼く。灰へとかえしながら、何故人の祈りに応えるのだ」


鎧は闇を見据え、発する。


「我が炎は、滅ぼすにあらず。還す為に在る」


闇は謳い続ける。声色は変わらない。


「何を還す。世は終わり、人は滅びる定め。闇に抱かれた命は、永久くおん微睡まどむ。そこに果ては無い」


「──否」言葉は鋭かった。


「命とは、終えるもの。終えるとは、託す事。託すとは、つむぐ事。想いは形を変え、のこる」


「我は熾り、声に引かれ、人を知った」


闇は嗤った。鎧の隙間から漏れる熱と光を浴びながら。


鎧は、闇に触れた。





風が、大地を撫でる。

焔は去り、声は残った。

我は声。果てを見届けしものなり。

時はめぐる。声は文字となり、果てを綴った。

果てを記し終えた声は、音もなく去った。





──光あれ

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祈りの果て 花山 華残 @hanayama-kazann

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