エピローグ 第五話
あの絶望的な中学二年生の十一月から、さらに六年の時が流れた。
わたしは、二十歳になった。
成人式を終えたばかりの、新しい冬。わたしは、自室のベッドの上で、冷たい天井を見上げていた。
わたしが思い描いていた二十歳のわたしとは、全然違った。
わたしが理想とした二十歳の自分は、都会の大学で楽しく学び、サークル活動に勤しみ、友達と笑い合って、未来への希望に満ち溢れている「普通」の女性だったはずだ。
しかし、現実のわたしは、中学時代と変わらず、家からほとんど出ない。
あの頃、「時間が経てば解決するかもしれない」という、根拠のない淡い期待を抱いていた。だが、現実は残酷だった。
時間が解決してくれたのは、「環境」だけだ。母のヒステリーは完全になくなり、父は理解を示し、家庭内の空気は穏やかになった。
しかし、わたし自身は、あの頃と何も変わらない。いや、むしろ、抱える荷物は増えた。
わたしは、中学時代に得た「普通になれない」という絶望と、「他人を信用できない」という猜疑心を、今も重荷として抱えて生きている。
あの頃、リビングの時計を見て絶望したように、わたしは、今も、この生きる時間の長さに怯えている。
何度も、何度も、睡眠薬を手に取った。
あの九九パーセントの痛みは、時間が経っても消えなかった。すべてを終わらせて、この苦痛から解放されたいと願う衝動は、常にわたしのそばにある。てばなせない。
それなのに、結局、わたしは実行には移せない。
母の顔が、頭をよぎる。そして、わたしを「百パーセントの痛み」に到達させない、最後の良心と中途半端な依存が、わたしを留める。
わたしの痛みは、減ることもなくて、増えることもなくて、わたしは中途半端だった。
あの九九パーセントの痛みは、わたしを「生かし続ける」ために、絶妙なバランスを保ち続けている。
中学を卒業した後、わたしは頑張って、普通の子が行く高校へ進学した。特例校から出たことで、「普通」に戻れる最後のチャンスだと思ったからだ。しかし、高校でも、わたしはまたいじめられて、すぐに居場所を失った。
それでも、わたしは「普通」の体裁だけは守らなければならなかった。形だけでも系列の大学に進学したけれど、当然、通えない。
わたしの大学生活は、ほとんどが休学と、自室での孤独な時間で構成されている。
窓の外を、風が通り過ぎていく。
わたしは、二十歳の大人になっても、まだ、「普通になりたい」と願い続けている。
それは、もう叶わない呪いのような願いだ。
わたしは、重荷を抱えたまま、この「中途半端な生」を、あと七十年近く、細々と続けていかなければならない。わたしは、自分の未来に、何の希望も見いだせないまま、ただ、時間が過ぎるのを待っている。
〈了〉
九九パーセントの痛み 如月幽吏 @yui903
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