夜の帳の中に差し込む街灯の光のように、静かに、しかし鮮烈に読者を引き込む。冒頭では、狼の土地神・巴の視点を通して現代の街並みや人間の営みを描き、1000年以上の孤独を抱える神の視点と現代の普通とのコントラストを巧みに際立たせている。
文章の呼吸感──巴の独白や感情の揺れを丁寧に、ランダムに配置することで、神の長い時間感覚と現在の瞬間が交錯する不思議な臨場感を体感できように感じます。
葵という少女との接触や、知覚された瞬間の狼神の動揺を描くことで、神と人間の距離感、そして尊厳と好奇心のせめぎ合いが生き生きと表現されているように思いました。
文章の中で細部まで練られた表現も素晴らしく、高層ビルや飛行機、電車といった現代の象徴を神の目を通して描くことで、百年単位の時間を超えた視点と現代世界とのずれが巧妙に表現され、世界観に独特の厚みを持たせています。
全体として、物語の始まりから既に神秘的な魅力に溢れ、巴と葵の関係性の芽生えが、期待感を抱かせます。
まだ一章を読み終えたところですが、文章の丁寧さと感情の豊かさが相まって、物語世界にぐっと引き込まれる物語です。
誰にも見えない神様に、ひとりの少女だけが、声をかけた。
かつて山の神だった少女・澪は、1000年の時を土地神として過ごしてきた。
人の目には映らず、声も届かず、ただ街を見下ろす日々。
信仰が薄れ、神力も尽きかけ、
静かに『消える時』を待っていた。
そんなある日、
「聞こえてますよ」と声をかけたのは、陰陽師の血を継ぐ少女・葵。
彼女は澪を、名を、姿を、心を――すべてを知っていた。
一度だけ命を救われたあの日から、
少女は日記に想いを綴り続けていた。
再び会うために。力を手に入れるために。
神を『連れて帰る』ために。
けれど、それは祈りと引き換えに
神がこの地から『消える』ことを意味していた。
これは、
「誰にも見られなかった神」が、
たったひとりに『見つかってしまった』物語。