第26話 執事の仕事って


「いい加減になさい!! 何度言えば分かるのです?!」


「何をでしょう?」


 とぼけた顔でコウジが返します。わずかでもエロが関わるとすぐに脱線するのは、もはや殿方の性なんでしょうか。


「どうしてそう、いかがわしいことに気を取られてしまうの?」


「スカルさん、それは愚問です。我々は年頃の男子高校生ですよ? しかもウチの学校は、令和では絶滅危惧種の男子校ときてます」


「だったらどうだとおっしゃるの?」


「エロは僕らのガソリンです!」


「はあ?」


「ですからエロは」


「おだまりなさい!!」


 めまいがしてきました。いい流れになって来たかと思えば、あっさり変な方向に引きずり込まれて。はしたないこと極まりありませんわ。


 そういえば、この学校には女性がいらっしゃいません。教員にすらひとりもいない様子です。つまり、ここはオスばかりが飼育されている檻も同然ということです。私はとんでもないところに転生したものです。


 盛りのついたオスという生き物は、私が想像しているよりも遥かに——


 ——どうしようもありませんわね。


「凌太朗!」


「あ、はいっ!」


 ここは凌太朗に、しっかりと役目を果たしてもらわねばなりません。


「あなたは私の執事でしょう? コウジに何とか言っておやりなさい!」


「無理です」


「はああ?! 本気で言ってますの? おかしなことを言う者への対処も立派な執事の仕事ですわよ?」


「おかしなこと……と言いますと?」


「その……、なにやらがガソリンとか、ってやつですわ」


「なにやらとは?」


「それは……その、……エロはガソリンという」


「はい! いただきました!!」


 突然、凌太朗が叫びました。何が起こったというのでしょう?


 訳が分からず、私があっけに取られていると、凌太朗が信じられないことを言い出しました。


「実はですね、この工作室にいくつかカメラを取り付けてありまして、作業の様子をずっと撮影していたんです」


「え?」


「もちろんSNSへの投稿用の撮影です。技術部が総力を挙げて協力してくれまして、作業風景を残しておいた方がいいと提案があったもので」


「ちょ、ちょっとお待ちなさい。では、これまでずっと撮影していたと?」


「はい、全部。しっかり記録してありますよ」


 何ということでしょう。これまで私がここの男たちにいいように扱われ、からかわれ、それに対する私の反応をすべて残していると?


「……それを全部投稿する気ではありませんわよね?」


「まさか! ちゃんと編集しますよ」


 編集すると言われましても、私の意見は聞き入れられないとなると——。


「……さきほどの言葉は?」


「エロはガソリンってとこですか?」


「ええ」


「もちろんカットせずに投稿します! 見せ場ですから」


 ああ、私はまた望まぬ姿を世界に曝されてしまう——。


 完全に油断していました。ハロウィンというお祭り以降、スマホなるもので撮影の素振りは見せていませんでしたから。工作室なら何でもできる、どなたかが言っていた気がします。気に留めておくべきでした。


 しかし、もう後の祭り。正しくは、祭りの後のですわね。


 せめてどうにか、凌太郎を止めなければ。


「凌太郎、貴方は私の執事として、本気で働く気がおありなのですよね?」


「それはもちろんです!」


「でしたら、主人の望みに完璧に応えるのが、執事の仕事の基本です」


「……そうなんですか?」


 耳を疑いました。今さらになって、何を言っているのでしょうか。


「貴方、仕事の基本も理解してませんでしたの?」


「いや、望みに応えるっていうのは分かるんですけど……。でも、具体的に執事の仕事って何をすればいいのか、実はよく分かってないんですよね」


「はああああ?!」


 もう何と言えばよいか、言葉が見つかりそうにありません。

 

「とりあえず、肉体造りをおもしろおかしく進めて行って、お嬢様にも楽んでいただけたらいいのかなって思ってました。どうせなら素敵なを、世界中の人々に知ってもらいたいですし」


 頭が真っ白になってきました。


 ああ、そうでした。私は骨体。すでに全身真っ白でしたわね。


 ——私、どうしていけば良いのでしょうか。


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2025年12月12日 07:00

令嬢スカルさんの屈辱~転生したら骨体だったのでポンコツ執事と肉体改造を始めます 有の よいち @yoichi_a

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