　雪が降る夜、アンナは宿屋の暖炉の炎を見つめ、過去の記憶に沈んでいた。

　両親を亡くし、孤児院を抜け出し、都会の片隅で凍えていた、ただのマッチ売りの少女だった頃。けなげに貯めた銀貨を、悪徳商人ゴールドマンに目の前で踏みつけられ、奪われたあの日。生きる希望を失い、雪の中で死を待っていた彼女に、温かいお茶を差し出す一人の老婦人が現れた。それが、おばあちゃんだった。

「あんた、いい目をしてるね。それは奪われる者の目じゃない。奪い返す者の目だよ」

　おばあちゃんはアンナに、生きるための全てを教え込んだ。化学、物理学、心理学、そして世の中の悪党から金を巻き上げるための、ありとあらゆる詐欺の技術。

「いいかい、アンナ。あたしたちがやるのは、ただの犯罪じゃない。奴らが振りかざす『正義』や『常識』がいかに脆いものか、証明してやるためのゲームさ」

　数ヶ月後、見違えるように成長したアンナは、ゴールドマンの倉庫に狙いを定めた。復讐の夜。恐怖に震えるアンナの手を、おばあちゃんがそっと握った。

「大丈夫。お前が擦るその一本は、過去を燃やす火じゃない。未来を灯す火だよ」

　アンナは、強く頷いた。そして、マッチを擦る。その小さな炎が、彼女の紫色の瞳に、決して消えることのない決意の光を宿した。

　燃え上がる倉庫を背に、二人は夜の闇へと消えていく。その日から、彼女はただのアンナになった。マッチで未来を掴む、黒い炎のアンナに。

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