第五話:ケチな貴族と燃えるオペラハウス
文化都市ヴァイスブルクの新しいオペラハウス。アンナがその杮落とし公演のチケットを入手できなかったのは、オーナーのヴィルヘルム貴族が、自分のお気に入りにしか席を融通しない俗物だったからだ。
「最高の芸術を独占するなんて、それこそが最大の罪よ」
アンナは調査を進め、貴族が舞台装置の防火設備を著しくケチっていることを突き止めた。
計画を練っていた矢先、思わぬ協力者が現れる。主演の歌姫、イザベラだ。貴族から執拗に愛人契約を迫られていた彼女は、彼を破滅させる機会をうかがっていた。
「あなたの噂は聞いているわ、火付けの魔女さん。手を組まない?あの豚を社会的に抹殺する、最高の舞台を演出しましょう」
楽屋で交わされた女同士の契約。計画はより大胆で、芸術的なものへと昇華した。
公演当日。イザベラの歌声がアリアの最高潮に達した瞬間、アンナが仕掛けた装置が作動した。それは、舞台照明の熱を利用して特殊な薬品を反応させるトリック。深紅の、しかし無害で美しい炎が舞台を包み、観客はそれを演出の一部だと信じて熱狂した。
しかし、次の瞬間、天井から吊るされたシャンデリアのロープが燃え始め、パニックが起きる。その大混乱の中、イザベラは貴族のオフィスから彼の不正の証拠を盗み出し、アンナは駆けつけた消防隊の前で、無能な防火設備の欠陥を糾弾した。
結果、貴族は破滅。アンナは市からオペラハウス全体の防火システムの改修契約を取り付け、イザベラからは報酬と、彼女専用の永久特等席チケットを手に入れたのだった。
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