第四話:聖夜の小さな灯火

 聖夜。イルミネーションに彩られた街で、アンナは言いようのない孤独を感じていた。腕の中のアンバーの温もりだけが、現実感を繋ぎとめている。

 教会のミサを物陰から覗いていると、あの青年消防団員の姿が目に留まった。偶然の再会。アンナの心に、名前のない感情がさざ波を立てる。

 その時、古い教会の配線から火花が散り、本物の火事が起きた。逃げ遅れた子供たちを見て、アンナは迷わず炎に飛び込んだ。しかし、子供たちを逃がしたところで燃え落ちてきた梁に退路を塞がれ、煙に巻かれてしまう。

 薄れゆく意識の中、力強い腕が彼女を抱きかかえた。青年消防団員だった。

 屋外に運び出され、激しく咳き込むアンナに、彼は言った。

「大丈夫か!?君、どこかで…。そうだ、ポルト・マリーノの火事の時、君に似た人を見た気がする」

 アンナは心臓が跳ねるのを感じた。正体がばれるわけにはいかない。

「…人違いですわ」

 そう一言だけ告げると、アンナは人混みに紛れて姿を消した。

 後日、焼けた教会に最高額の匿名寄付がなされた。

『おばあちゃん、送金お願い』

『またかい?甘いねぇ』

『彼が…あの消防団員さんがいる街だから。少しは安全に投資してあげても、いいでしょう?』

 通信の向こうで、おばあちゃんが珍しく何も言わずに、深くため息をついたのが分かった。

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