第6話 優秀なカメラマン
「さあ、そろそろ戦闘準備よろしくね」
魔物を避けながら、二時間ほどかけて五階層まで降りてきたところで、リーダーの遠見やさんがメンバーに声をかけているのが聞こえてきた。いよいよこの階層から魔物と戦うようだ。
現場の緊張感が俺にも伝わってきて、水を飲もうと持ったペットボトルが小刻みに震えていた。
「正面、ゴブリン三匹」
先頭を行く盗賊の黒影さんの静かな声が飛んでくる。向こうはまだこちらに気がついていないようで、視界の先にある少し開けた空間でうろうろしていた。
百花繚乱のメンバーがすかさず陣形をダイヤモンド型に変更する。先頭は姫花で、その左右に槍術士の遠宮さんと盗賊の黒影さんが、一番後ろに火魔法士の暁さんが控えている。その素早い動きをしっかりと映像に収めていく。
そのままじりじりとゴブリン達に接近していく。おそらく、火魔法士の暁さんの射程まで気付かれずに近づきたいのだろう。そう思い、ドローンを暁さんの正面に移動させたときだった。
ギギ!
ゴブリン達がこちらに気がついた。あっ!? しまった、ドローン音で気がつかれてしまったのか!?
「紅羽!」
先頭にいた姫花がさっと後ろを振り返る。そこには呪文を詠唱している暁さんがいた。
「ファイアーボール!」
暁さんが杖を前方に突き出す動作が合図となっていたのか、それを見た姫花が右へと飛んだ。その動きに合わせたかのように、火の球がこちら目がけて走ってくるゴブリン達の元へと飛んでいった。
俺はその火の球をドローンで追いかける。
ドガァァァン!
棍棒を振り上げ勢いよく走っていたゴブリン達は、かなりのスピードで飛んでいった火の球を避けきれなかったようだ。先頭のゴブリンに着弾した火の球が大爆発を起こす。
そこに間髪入れず飛び込んでくる姫花。それに気がついた俺は、ドローンを素早くゴブリン達の背後に動かし、正面から姫花の勇姿を捉える。
「やあ!」
勇ましいかけ声とともに、舞うように双剣を扱いゴブリン達を切り刻んでいく姫花。
「せい!」
さらに姫花の背後から槍が突き出され、反撃しようとしていたゴブリンの胸を貫いた。なかなか、グロテスクな映像だがこれはこれで需要があるそうな。まあ、全年齢にするならモザイク処理は必須だな。
それより、この百花繚乱のメンバーは美人揃いだから、戦っているときの表情なんかを多めに撮っておくとするか。そっちの方が再生回数伸びそうだし、収益が増えれば姫花達も大喜びだろう。
それぞれのメンバーが活躍する姿を十分撮影したところで戦闘が終わったようだ。相手はゴブリンとはいえ、無傷での勝利はさすがDランクといったところか。それにしても、俺の失態で大事に至らなくてよかった。これからは、ドローンの音に気をつけていかねば。
俺は戦闘を終えた遠宮さんの前にドローンを移動させ、伝わるかどうかわからないが『すまない』の意味を込めて、ライトを四回点滅させた。
「ああ、大丈夫。今回は大事に至らなかったからな。だが、次は気をつけてくれよ!」
どうやら遠宮さんに俺の意図が伝わったようだ。その上で、笑顔で許してくれた。なんとありがたいことか。
さて、気を取り直して撮影を開始しよう。せっかくだから、移動中のたわいのない会話も撮っておくか。需要があるかもしれないし。
俺は会話が聞こえる位置までさりげなくドローンを近づけた。
「ねえねえ、ダンジョンマートの新作スイーツ食べた?」
先陣を切って会話を始めたのは姫花だった。あいつは元々明るく活発な性格だったからな。こういう誰とでも仲良くなれるところが人気だったんだ。しかし、ゴブリンを惨殺した直後にスイーツの話か。いい感じで探索者してるな。
「ボク食べたよ。生チョコもっちりクレープがおいしかった」
すぐに反応したのは黒影さんだ。その小柄でクールな見た目の上に、一人称がボクだった。これはその手の趣味の方々から絶大な人気を得てそうだな。
「あ、私も食べました。私は粒あんとホイップのどら焼きが好きです!」
清楚な和風美人の遠宮さんは、イメージ通りの和菓子好きでした。
「そのスイーツはどちらで購入できますでしょうか?」
「あはは、暁さんは住む世界が違うから、コンビニのスイーツなんて見たことないかもね!」
「失礼ですわ! わたくしだってコンビニエンスストアに入ったことがありましてよ!」
おっと、暁さんはいいところのお嬢さんなのかな? コンビニを略さずいう人なんて、今時珍しいぞ。
それぞれ個性がある美人の女性四人組が、薄暗い洞窟内で楽しそうに会話している。なんか凄いギャップだけど、女性陣の素顔が見れたみたいでありがたい反面、盗撮みたいでちょっとうしろめたかったりもする。
「それにしても、あのドローン凄く性能よくないです?」
遠宮さんの発言から話題は俺のドローンへと移っていく。
「ボクも思ってた。アレ、一千万円以上するタイプ」
思いの外ドローンに詳しかった黒影さんの発言で、俺は自分のドローンの価値を知ることになった。けど、まじか。確かに素晴らしい性能だとは思っていたが、こいつそんなにお高い機体だったのか。こいつに巡り会えた俺は幸運だったようだ。
「気がついたら、ゴブリンの後ろに回り込んで正面から撮影していましたしね。普通のドローンならずっと後ろから撮ってることが多いですから、どんな映像になっているのか楽しみです」
くっ、遠宮さんが無邪気にハードルを上げてくる。編集も頼まれているから、レンタルドローンとは一線を画すような仕上がりにしなくては。
「ところで姫花は、この持ち主の方とお知り合いなのですか?」
「えっと、そうですね。ちょっとした知り合いというか、昔から知ってるというか……」
暁さんの質問に歯切れが悪くなる姫花。すまない。俺が正体を隠したいと言ったばかりに。
「もちろん動画の出来映えにもよりますが、条件も悪くないですし、姫花の知り合いかどうかは別としてまたお願いしたいですね」
おお、遠宮さんが嬉しいことを言ってくれる。ここのシーンは絶対使わせてもらおう。いい宣伝になってくれそうだから。
「……このドローン、どうやって動かしてる?」
あっ、黒影さんがまずいところに気がついてしまった。頑張れ姫花! 何とか誤魔化すんだ!
「ええと、それは、企業秘密だそうです!」
おい! それじゃあみんな納得しないだろう!
「そうだよね。それがわかったらみんな真似しちゃうもんね」
「知りたいけど我慢」
「わたくしには難しいお話ですわ」
おっと、なぜかみんな納得してくれたようだ。たぶんこの人達はみんないい人なんだな。
「おしゃべり終了。右から魔物」
楽しくおしゃべりしているかと思ったけど、周辺への警戒は忘れていなかったみたいだ。黒影さんの一言で、瞬時に陣形を整える。
「ゴブリン五匹、うちアーチャー一匹」
次の戦闘はさっきよりも激しくなりそうだ。そんな予感を感じながら、俺はドローンをいったんパーティーから離れるように動かした。
次の更新予定
戦闘では役立たずのレアジョブ『ドローン操縦士』を手に入れた俺、配信やら輸送やらの仕事をしていたらいつの間にか最強の艦隊を手に入れてました ももぱぱ @momo-papa
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