第5話 初仕事
姫花との打ち合わせが終わった後、急に緊張感が増してきた。一応、やり取りは全てネットで済ますために、今はホームページを作成している。
ジョブについて詮索されたくないので、むろん偽名を使う予定だ。俺は名前をつけるセンスがないようなので、姫花が考えてくれた『SS』という名前にした。単純に俺の名前のイニシャルだ。なぜこれを俺が思いつかなかったのか……
ホームページを作成したついでに、姫花が所属するパーティーについて少し調べてみた。
パーティー名は『百花繚乱』となっているな。女性ばかりの四人パーティーで、リーダーは
他にも、ジョブ盗賊の
全員Dランクという実力と女性だけという構成から、人気急上昇中のパーティーらしい。全部遠隔操作でよかった。知らない女性が目の前に三人もいたら、緊張で動けなくなる自信がある。
ホームページが完成し、ミスがないかチェックしていると、姫花から電話があった。パーティーメンバーの許可が取れたということで、俺の初仕事は三日後になるそうだ。
場所は富士山に現れたダンジョンになるようだ。ここから近くてありがたい。たぶん、近くに持っていかなくても、この家から飛ばしても問題ないだろう。俺は今のうちから高尾山から富士山までの飛行許可を取っておいた。
「だいぶ、遅くなっちゃったな」
色々やっていたら、すでに深夜になっていた。俺は海美が用意してくれたチャーハンを食べて、シャワーを浴びてすぐに布団に入るのだった。
▽▽▽
あれから三日後、いよいよ約束の日がやってきた。朝から緊張気味の俺は、起きてから三回はトイレにいっている。海美は小学校に行ってるからしばらくは大丈夫だろう。
集合時間は午前九時。俺の目が覚めたのは四時半だった。あー、緊張する。
集合時間の十分前には着くように、ドローンを自宅から飛ばす。直前に思いついたので、ドローンの本体に小さな袋をくくりつけて、ドローンを買ったときにおまけでつけてくれた低級ポーションを入れておいた。せいぜい血止めくらいにしか使えないが、ないよりはマシだと思ったのだ。
この三日間で、かなり細かな操作までできるように練習した。上手くいく自信もある。だけど、ダンジョンの中は初めてだから油断は禁物だ。特に魔物には気をつけないと。
そんなことを考えつつ、目の前の二つのスクリーンを見ながら富士山ダンジョンを目指す。時速二百キロメートルも出るから速い速い。ダブルスクリーンにもだいぶ慣れたから、後は緊張せず、油断せずに
山を越え、ダンジョンの入り口が見えてきた。俺のドローンに気がついた人達もいるようで、こちらを指差している。その中で、両手を大きく振っている女性を見つけた。あれが姫花だな。律儀にも布のようなものを広げて、着陸地点まで作ってくれている。
それじゃあ、せっかくだからそこにピンポイントで着陸させてもらおうか。
俺はドローンの勢いを落とすことなく、高速で接近し布の真ん中にピタリと着陸させた。このドローンの動きに周りからざわめきが起こる。
よしよし、つかみはオッケーだな。こういう細かな演出が口コミになって広がっていくはず。レンタルドローンと同じ動きなら、わざわざ依頼しようと思わないだろうからね。
「今日はよろしくお願いします、SSさん。こちらの声は届いてますか?」
リーダーの遠宮さんが一歩前に出て、ドローンに話しかけてきた。
俺のスキルは、向こうからの声はドローンを通して聞こえるが、なぜかこちらの声を伝えることができない。
よって、あらかじめ決めておいたサインで簡単な意思疎通を行うことにした。
ライトを二回点滅させ、聞こえていることをアピールする。
「うん、大丈夫そうね。それじゃあ、今からダンジョンに入るからついてきて」
彼女の言葉に従って、ドローンを浮かせ百花繚乱の後をついていく。彼女達は普段は別のダンジョンに潜っているそうだが、今回は俺の家が近いということでここ富士山ダンジョンに来てくれている。
姫花はいつから来るつもりだったからと言ってくれていたが、俺のためにわざわざこっちに来てくれたのはありがたい。あいつには感謝しかないな。
「はい、探索者カードを確認しました。気をつけてください」
ダンジョンの入り口で探索者カードを提示して、中に入っていく百花繚乱のメンバー達。事前に申請していたので、俺のドローンも問題なく入ることができた。
初めてみるリアルタイムのダンジョンに、俺はちょっと感動していた。富士山ダンジョンの中は、大きな洞窟になっている。ダンジョンは別空間。それは最初からわかっていたし、配信動画でも何度も見てきた。だけど、実際にリアルタイムで見ると全然違って見えた。
さて、そうはいっても今日は仕事で来ている。期待された以上の成果を出すためにも、これしきのことで浮かれている場合ではない。
百花繚乱のメンバーは全員Dランクの実力者だ。ここ富士山ダンジョンもDランクではあるが、低階層ではFランクやEランクの魔物が多い。
したがって、低階層ではなるべく戦闘を避け、下に降りる階段へと向かう。その間、ほとんど戦闘がないので、俺はダンジョンでも問題なく操作できるのか色々確かめながらついていった。
結論、問題なくこの高性能ドローンをコントロールすることができた。今更ながらに、このスキルの有用性に驚いた。
俺はなぜもっと早く、このスキルの可能性に気がつかなかったのだろうか。戦闘能力がないことばかりに目がいって、それ以外の可能性を自ら潰してしまっていたのだ。
だが、今からでも遅くはない。この仕事を完璧にこなして、実績を作ればしっかりとお金を稼げるかもしれない。いや、母さんを助けるためにも稼ぐしかないんだ。
強い覚悟と冷静な心を持って、俺のドローンはダンジョンの中を順調に進んでいくのであった。
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