幽霊が人間に勝てるわけないんだよな

白川津 中々

◾️

 失業して金がねぇなぁという事で事故物件に入居したところ早速のラップ音で熱烈な歓迎を受けたのだった。


「どうせならビートルズでもかけてくんねぇかなぁ!」


 そう文句をつけるとぴたりと止まる。腰抜けがよぉ。これは調子乗っても仔細あるまい。


「幽霊ごときがよぉ! なめてんじゃねぇよポケがぁ」


 ふぅ! 気持ちいい! 普段の鬱憤が解消される! 反撃される事のない一方的な攻撃ってのは最高だな! もっとやったろ!


「地味な怪異起こしやがって! どうせしょうもない理由で死んでメソメソしてやがんだろカスがぁ! ダセェ死に様かましてやってる事が音立ててますってお前、哀れすぎて大爆笑だぜ! "僕はここにいますぅ〜"ってアピってんのか気色悪ぃ! 幽霊でメンヘラとかマジ終わってんなぁ!」


 あ、なんか空気がぷるぷるしてる! ぜって怒ってんじゃん! ウケる! そうそう。こういう陰湿なストレス解消が一番心にキまるんだよな。最近はみんないい子ちゃんで困る。これからは定期的に虐めて……うん? なんだ? なんか、目の前に人影が……いや、人だわこれ。多分幽霊が現れたわ。だっていきなりだもん。戸締りもしてるからほぼ確だわ。


「うらめしやぁ」


 ほら! うらめしってる! 絶対幽霊だよこいつ……っぶね! 突進してきやがった。んだよまったく……うん? なんか、腹が痛い……あ、切れてる。血……出てる……


「うらめしやぁ」


 ナイフ持ってるわ、あいつ。

 え、困った。幽霊とナイフ、どっち怖がればいいんだろう。いやいや、怖がっている場合じゃない。この状況は、つまり……


「……やるしかないってことね」


 突然のバトルタイム。相手は幽霊。しかし、獲物を使ってくるという事は不思議パワーで攻撃される可能性は低いだろう。


 ならば、勝てる。


 所詮は霊体。悪霊なんざに精神力で負ける気がしねぇ!


「分かった。やってやるよ。かかってこいクソ雑魚がぁ。さっさとバトんぞ」


 生者と亡者。

 存亡をかけた闘いが今、始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幽霊が人間に勝てるわけないんだよな 白川津 中々 @taka1212384

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ