『も』が消えた話
氷山アキ
『も』が消えた話
か めは困っていた。
確かに自分は空を飛ぶ鳥だったはず。
なのにどうしてか、今は地上でのろのろと歩く生き物になっている。
ぐらは悩んでいた。
確かに自分は穴を掘りまくり、地下帝国を築いていたはず。
なのにどうしてか、今は双子の野ねずみの片割れになっている。
く は悩んでいた。
確かに自分は美しい巣を張り、悠々自適の生活をしていたはず。
なのにどうしてか、自分が何なのかすら分からない。
彼らは悩み、そして気付いた。
「「「『も』はどこ行った?」」」
か めと ぐら、そしてく は、『も』を探す旅に出た。
ぐらとく を背中に乗せたか め一行は、ゆっくり野を越え山を越え、昼を見送り夜を過ごして朝を迎えて進み続ける。
しかし彼らの『も』は、見つからない。
疲れがピークに達したか めは、「少し休ませて」と言って足を止めた。
く が頷く。
「そうしよう」
ぐらはか めの背から飛び降り、「食料を探してくる」と言って、すばしっこい動きで野原に消えた。
しばらくして ぐらは、いい匂いのする木の実を抱えて来た。
か めとく は初めて見る木の実に興味津々。
「これは?」
ぐらが得意げに言った。
「すももだよ」
それを聞いたか めが「あっ!」と声を上げる。
「『も』がふたつ見つかった!」
く と ぐらが「ほんとだ!」「やった!」と大喜び。しかし見つけた『も』はふたつだけ。
「あとひとつ、探そう」
か めはみんなとすももを背中に乗せ、また歩き始めた。
どれくらい歩いただろう。
か めの背中に揺られていた ぐらは、遠くで困っている様子の誰かを見つけた。
「どうしたの?」
く が話しかけると、それは
「体がずしりとして飛べなくなった」
と泣く。
「君の名前は?」
それは泣きながら言った。
「こおもろぎ」
名前を聞いたく が首を傾げる。
「君はたぶん、こおろぎだよ」
ぐらが手を叩く。
「ずしりとしたのは『も』が君にくっ付いちゃったせいだよ」
「良かったら、僕らがその『も』を取ってあげる」
「本当に?お願い、取って!」
みんなで力を合わせ、こおもろぎにくっ付いた『も』を引っ張った。
『も』は抵抗したが、か めと ぐらとく の力には敵わない。『も』はぽんっ!と音を立てて外れ、か めにくっ付いた。
「かもめだ!君はかもめだったんだね!」
『も』が取れたこおろぎは、目を丸くして飛び跳ねる。 ぐらとく だってびっくりしたけど、「よかったね!」といい笑顔。
「さっきのすももの『も』は、君たちが使って」
かもめに言われて早速 ぐらとく は、すももを食べて『も』を手に入れた。
「野ねずみがもぐらになった!」
「やあ、君はくもだったんだね」
みんな、元の姿に戻って大喜び。
しかし彼らの足元には、『も』をふたつ無くしたす の種が落ちている。
「……ごめんね」
す を済まなそうに見つめ、かもめが胸を張った。
「ぼくが飛んで、す の『も』を見つけるよ」
もぐらがうんうんと頷く。
「僕は土の中を探す」
くもが空を見上げる。
「巣を張って『も』を捕まえてやる」
こおろぎが翅を震わせる。
「その間、僕はここです と一緒にいるよ」
「じゃあ、見つけたらここに集合だ」
こおろぎとす に見送られ、かもめは空へ、もぐらは地中へ、くもは木の枝へ向かうのだった。
彼らが『もももんが』と『なまけももの』に出会うまで、あと十日である。
『も』が消えた話 氷山アキ @hiyama_akira
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