第3話 魔剣面談
通常、面談室といえば机と椅子があるだろう。
しかしここにそんなものはない。
あるのは色んな機械とカプセルに収められた魔剣が一本。
そして何人かの職員。
「お疲れ様です。対話は?」
「可能です。群星さんが対応してくれる魔剣はいつも状態が落ち着いてて助かりますよ」
「あんまり乱暴、したくないですから」
魔剣も暴れたくて暴れている訳ではない。
勿論、中にはそういう輩もいるが……殆どは環境の変化で魔力が制御できず、暴走しているだけなのだ。
そんな自分から周りを守る為のダンジョンは優しさでできている。
「いざという時は、お願いします」
職員は僕とベルを交互に見て頭を下げた。
そんなことにはならないと思うが、万が一と言うこともある。
さぁ、面談を始めよう。
カプセルの前に立った僕は中の魔剣をジッと見つめる。
「こんにちは」
「あ……あ……、あ、あー……うん」
話しかけると発声練習が始まる。
綺麗な声だ。
カプセル越しで少し篭って聞こえるが。
「あんたはさっきの?」
「うん。乱暴してごめんね。僕は群星昴。君は?」
「私は……カペラって名前みたい」
みたい、というのは星座達に植え付けられた地球の知識から引っ張ってきた最適解を選んだからだ。
元々星に名前はない。
名前をつけたのは地球の人間だ。
だからそこから自身につけられた名前を選び、名乗るのだ。
時には名前のない星もある。
人類がまだ発見していないか、それに満たないものだったのか……。
実はベルもその類である。
彼女に関してはまた別の理由だが。
「
隣で計器をガチャガチャしている職員が教えてくれる。
なるほど、御者が馬を操る鞭が転じて鉄鞭の魔剣となったのね。
「カペラ、よろしくね。それでいくつか聞きたいことがあるんだけどいいかな」
「えぇ、大丈夫よ」
人格が現在進行形で形成されていくから口調がコロコロと変わる。
さっきまでは少し生意気な女の子のようだったが、今はちょっとませたレディのような口調に変化している。
「君は人類に対して敵意はあるかな?」
「ないわね。まったく」
「じゃあ、僕達に協力してくれる意志はある?」
「何をするの?」
ジッと見られている感覚がある。
見定められている。
一呼吸おいて、僕はその問いに返答した。
「君たちのように苦しむ流れ星を助けたいんだ」
「いつか、空に帰れる……?」
流れ星たちはそれを切に願っていた。
自分がいた場所に帰りたいのだ。
それが叶わないと知ると、暴れ出す者も少なくなかった。
「正直、僕達の技術ではまだ叶えられていない。でも、必ず絶対に帰すと、みんな昼も夜もなく頑張っているよ」
「そっか、帰れないんだ……」
そう呟いた瞬間、計器から甲高い音が鳴り始める。
赤色灯が回転し、非常事態を示唆し始め、職員が血の気の引いた顔で慌て始めた。
何を感知してそうなったか……その正体は『魔力』だ。
魔剣なのだから魔力があって当然。
警報は世界を変える力の暴走を感知して鳴り響く。
……が、それは数秒で収まった。
僕もベルも身動ぎひとつせず待っていた。
この魔剣は暴れないと、話した様子から判断できていた。
「……まぁ、しょうがないよね。遠いもん!」
「しばらくはここで暮らしてもらうしかないけど、いいかな?」
「えぇ、よろしくね。しばらくして色々安定したら人化させてもらえると思うから」
「はーい」
面談が終わり、部屋から退室する。
これで完全に業務終了だ。
隣を歩くベルが大欠伸をする。
「ありがとね、いてくれて」
「いーよ、別に」
本来は封剣作業員と面談者は別だ。
何故ならば、痛めつけられた相手と素直に話すことは難しいからだ。
けれど僕はどうしても最後まで自分でやりたいと無理を言って、やらせてもらっている。
そんな危険作業だからベルは護衛としてついてきてくれていた。
同じく痛めつけた者が揃っているのだから危険だし、むしろ来るなって言っているのだが聞いてくれない。
怠惰の魔剣はとても優しい奴なのだ。
「午後からはどうする?」
「今日はダラダラ過ごす」
「いつもじゃん」
「うっせぇよ」
隣を歩きながら、ボーッと考える。
「ちょうどお昼だし、ご飯でも食べに行こうよ」
「ぁあ? めんどくせーな……まぁ、腹はめちゃくちゃ減ってるけど」
「じゃあシャワー浴びてカウンターに集合ね」
「いや、迎えに来い。忘れそう」
「めんどくさ……」
「うっせぇよ。来いよな」
二人して並んで歩き、突き当たりで揃って曲がる。
少し進むと自室に到着した。
「じゃあまた後で」
「おう」
素っ気ない返事をしたベルは隣の部屋へと入っていった。
隣でも面倒臭いもんは、面倒臭いよね……ふぅー。
次の更新予定
まけんの窓口 ~こちら異星迷宮処理機関魔剣課です。事件ですか?魔剣ですか?~ 紙風船 @kamifuuuuusen
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。まけんの窓口 ~こちら異星迷宮処理機関魔剣課です。事件ですか?魔剣ですか?~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます