第3話

さっきのフェスたんの発言は、まるで神の啓示のように、私の暗く沈んだ世界を照らした。照らしたんだッ! まさに荒野に架かる月のように。


 剣沢さんとの縁が薄くなって以降、なりをしずめていたけれど、本当の私はいつも、前のめりでテンションが高い。やるんだッ! 行くんだッ! と、いつも小さい「ツ」が心の声に入っている。


 そう。神の啓示によれば私は、「青春」して「ヒトとなる」ところから始めなければならない。これまで手に取ったこともないけど、ギター練習して、バンド組んで、誰かと何か、やってみようかな。


 思い立ったら即行動してしまう私は、さっそくネットで検索した。

『フェスタ ギター』

 すぐに答えと画像が並ぶ。


 フェスたんの持つギターは「シグネイチャ― ミカヅキモデル」として、約二十万円で売られていた。オレンジのボディに、見ていると不安になるような独特のタッチの三日月が極彩色で描かれたそのギターは、「ミカヅキモがいっぱいいるみたい」というコメントとともに、多くのファンに所有されている。

 私は、連載していた頃の印税で、このギターを買うことにした。もったいなくて使えなくて、数字のまま私とともに灰になりそうだったお金で。


「教則本、その他初心者セットつき? これにしよ」

 通販は便利だ。深夜のテンションで、新しい一歩を踏み出せてしまう。

 ラジオを聴きながら、私はすっかり上機嫌になって、青春する妄想に耽っていた。


 バンド組んだことどころか、ギターに触ったこともないし、そもそも音楽なんてアニソンとFranZ―WaltZしかろくに聴いていないのに……である。

 妄想の中の私は、フェスたんと同じ赤いピックを高速で動かし、ご機嫌なダイダイ色のギターをジャカジャカ弾いている。


「楽しみだなぁ」

 ギターが届くのは、明後日の予定だ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ガルバン荒野に架かる月~漫画家として全否定されちゃったんでバンド組んで青春学ぶわ!~ 国府春学 @syungaku-kou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ