■祝福は続く
ハァハァハァ。
私は息を切らせながら、何とか山中を歩く。
登山なんてしばらくしていなかったので、少し進むだけでも一苦労だ。
場所は滋賀と京都の狭間にある●●山。
政府が総力を挙げて巫女である佐倉様を殺傷しようとしているポイントでもある。
ここまで来るのには本当に苦労した。
なぜなら、もはや国はその体制を維持することに失敗しつつあるからだ。
街を歩くと、死骸の山がうずたかくなっている。
それらは円形や串刺しなど、綺麗に配置されていて、供物であることが分かる。
そして、次の瞬間にはそれらは真っ白な糸のようなものに、地面に引きずりこまれて行く。
恐らく社稷に供物として奉じられたのであろう。
その食材を調理し、毒見の儀を通じて、佐倉様は死者である彼と逢瀬を重ねる。
ハァハァハァハァ。
私は更に息を切らせながら進む。
墜落した戦闘機。
マスコミのヘリコプター。
ばらばらになった自衛隊員の遺体などが散乱しているが興味はない。
オイルの臭いにむせながらも進む。
疲労のせいか、無意識に回想が脳裏を流れた。
―――――――――――――――――
山に入る前。街中を通ってきた。
朝とも昼ともつかない鈍い光が、曇った空から落ちていた。
空は全体的に煙っぽい。
そして街は。国は。焦げ臭かった。
消火が追いついていないのだ。
遠くで爆音が響いても、もはや不思議とは思わない。
駅前のロータリーは、人影だけがごっそり抜け落ちたようになっている。
車だけがそこに残されていた。
ドアは半開きで、エンジンはかかったままだ。
なぜか運転席には誰もいない。
一台だけではない。
街では、道の中央に放置された車が、どれも無人のままエンジンだけを唸らせている。
信号は一部が停止し、赤いまま点滅している交差点には、ぶつからずに静止した車たちが葬送の列のように不自然に並んでいる。
歩道の植え込みには、誰のものか分からない靴が片方だけ落ちていた。
そのすぐ脇には、片側だけのイヤホンが、まだうっすらと音を漏らしていた。
聞き取れないほど小さな、クスクスといった子供の笑い声のようなものが、イヤホンからうっすらと漏れている。
駅前の広場では、無数のスマートフォンが地面に散乱していた。
どれも画面にノイズ混じりの動画を再生し続けている。
音声は途切れ途切れだが、巫女様が調理されている姿が映し出されているのを垣間見た。
調理中の食材が上げる悲鳴のごとき判別しがたい音声が繰り返されている。
アーケード街のシャッターには、指の跡のような赤黒い線が何本も擦りつけられており、空を見上げると、どうやってひっかかったのか、電線につるされた遺体たちがゆらゆらと風に揺れていた。
少し歩いた先の小さな公園では、遊具の周りに子どもの靴やリュックだけが散らばっていた。
ブランコは誰も乗っていないのに、左右に揺れ続けている。
公園の真ん中あたりにあるベンチには、ピクニックシートがかけられており、その上にはコンビニのおにぎりと飲料水だけが置かれていた。
街を歩く。
死骸の山を見る。
それらは円形や串刺しなど、綺麗に配置されていて、供物であることが分かった。
横断歩道の白線の上に、等間隔で、同じ大きさの肉塊が並べられているところもあった。
標識のポールを串代わりにして、頭だけが刺さっている場所も見た。
それらはそのうち、真っ白な糸のようなものに地面に引きずりこまれて行く。
糸は蜘蛛の巣に似ているが、もっと太く、触手のようにぬらついていた。
引きずりこまれるたびに、アスファルトに細いひびが増える。
その隙間から冷たい風にのって腐臭が吹き上がった。
商店街のスピーカーは、誰も操作していないはずなのに、
「本日はご来店ありがとうございます」
というアナウンスと、防災放送の、
「外出を控えてください」
を交互に流し続けていた。
近くで爆発音がした。
ビルの谷間を抜けて、大通りに出たとき、ちょうどそれは目の前で起きた。
ゆっくり走っていたワゴン車が、何かを避けるように急にハンドルを切って、歩道へ向かって斜めに突っ込んだのだ。
私はたまたま運転席を見た。
運転手はハンドルを握ったまま、助手席の誰かに話しかけるように口を動かしていた。
彼の視線の先には、誰もいなかった。
車体は電柱に衝突し、フロント部分が押し潰れたその瞬間。
車の内部が、空気の抜けた袋のようにしぼんだ。
その瞬間、運転手の全身が、まるで運転席に咀嚼され、飲み込まれたかのように、忽然と消える。
座席には血も残っていなかった。
初めから誰もいなかったかのようだ。
次の瞬間、ワゴン車が爆ぜた。
それを見ていたわずかな通行人の中には、口を押さえてへたり込む者もいたが叫び声はあまり聞こえなかった。
みんな、疲れ切った顔で一拍置いてから、進行方向を変えるだけだった。
私も立ち止まって少し眺めた後、特に何も思わず、そのまま歩き出した。
途中、信号待ちの横断歩道で、誰も乗っていないベビーカーが、ゆっくりと押し出されるように交差点へ滑っていった。
中には何も入っていないはずなのに、ベルトだけが、何かをしっかり固定していた形で締まっていた。
空を見上げると、ビルの屋上の縁に、人影のようなものがいくつも立っていた。
飛び降りるつもりだろう。
だが、もはや今となっては珍しいものではない。
誰も止めようなどとは思わない。
私は、山へ向かうバスも電車も止まっていることを確認し、線路沿いの道を歩き続けることにした。
線路には、整然と切り揃えられた髪の束が、枕木ごとに置かれていた。
どこかでサイレンが鳴り続けていた。
私は立ち止まらず、淡々と歩いた。
―――――――――――――――――
回想をやめて山歩きに集中する。
そうこうして数時間進み、やっと開けた場所へ出た。
聖域だ。
佐倉様がいらっしゃる聖域である。
オオゲツヒメが奇跡を示し続ける場所だ。
場所についてはおおむね、政府からの発表や、佐倉様が更新していたブログで判明していた。
ただ、辿り着こうと政府が人員を派遣しても、ことごとく失敗し、辿り着くことはできなかったのだ。
しかし、私は辿り着いた。
私の名前は千葉 美継(ちば みつぎ)。
巫女に。
神様にお参りに来た者だ。
石室があるという、岩場の割れ目へと近づいていく。
すると、そこに一人の女性がいつの間にか立っていることに気が付いた。
優しく微笑み、こちらを瞬きもせずに見ていた。
私は彼女に息せき切って近づく。
駆け寄る。
そうして叫ぶようにして。
祈るようにして願い事を言ったのだ。
「私も巫女にしてください! 死んだ夫に会いたい! 巫女様のお手伝いをさせてください」
頭を地面につけて言った。
「私も毒見をさせて頂き、死者の国へお招きください!」
私が
_̷̢̨̨̡̨̛̞̠̟̞̠͓̹̘͆̓̽͛͋͘そう叫ぶように言うと、佐倉様は優しくうなずいた。
そうして気が付くと、周囲には_̵̡̢̨̢̝̠̲̲̘̱̝̟̘͒͗̐̕同じような女性たちがたくさん集合していることに気が付いたのだ。
ああ、そうか。
同じ思い_̷̢̨̨̡̨̛̞̠̟̞̠͓̹̘͆̓͛͋͘を持つ人たちはここにいたんだね。_̵̡̢̨̢̝̠̲̲̘̱̝̟̘͒͗̐̕
私は新しい仲間と_̶̧̨̨̛̛̪̩̪͈̲̹̝̜̀͗͌̾͘邂逅することができたのだ。
私の新_̷̢̨̨̡̨̛̞̠̟̞̠͓̹̘͆̓͛͋͘しい生活はこうしてスタートしたのである。
皆様。
この私のブログをご覧いた_̷̢̨̨̡̨̛̞̠̟̞̠͓̹̘͆̓͛͋͘だけましたでしょうか?
これから _̷̢̨̨̡̨̛̞̠̟̞̠͓̹̘͆̓͛͋͘ どうぞ
宜しくお願い致します。_̷̢̨̨̡̨̛̞̠̟̞̠͓̹̘͆̓͛͋͘
できるだけ _̵̡̢̨̢̝̠̲̲̘̱̝̟̘͒͗̐̕ 毎日更新_̶̧̨̨̛̛̪̩̪͈̲̹̝̜̀͗͌̾͘ して
_̷̢̨̨̡̨̛̞̠̟̞̠͓̹̘͆̓͛͋͘皆様 に感動を_̷̢̨̨̡̨̛̞̠̟̞̠͓̹̘͆̓͛͋͘
届け _̷̢̨̨̡̨̛̞̠̟̞̠͓̹̘͆̓͛͋͘ られる _̷̢̨̨̡̨̛̞̠̟̞̠͓̹̘͆̓͛͋͘ よ うに
_̷̢̨̨̡̨̛̞̠̟̞̠͓̹̘͆̓͛͋͘ 頑張ります。_̷̢̨̨̡̨̛̞̠̟̞̠͓̹̘͆̓͛͋͘
作成日:2026年1月1日
作成者:千葉 巫女見習い
(骸欠血損する食品群に関する一連の報告書:了)
骸欠血損する食品群に関する一連の報告書 初枝れんげ @hatsueda
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