第3話 裏切り

 夜になり、宿舎で宴が始まる。

 食料を放出してくれたらしい。それと、料理人が多数いる。


「何時もは、煮込み料理だけだったけど、今日だけは特別なんだな」


 俺は、穀物料理が食べたい。

 米をスプーンで食べる。


「うん、美味しいな」


「よう、レイ。楽しんでいるか?」


 少佐が来た。一応、俺の上司だ。


「いただいています。他の皆は、どうしていますか?」


 この宿舎には、〈称号持ち〉は俺しかいない。『七剣』『七盾』『七杖』を見かけなかった。

 いるのは、士官学校を卒業した、尉官だな。

 知り合いがいなかった。


「司令部で、事後計画の作成だ。気にするな」


 違和感を感じる……。

 今回だけ、俺を除け者にする意味があるのか?

 俺だけ、宴に参加?

 防空は、俺が担当していたけど、呼ばれない理由になるのか?


「酒は飲むか? ジュースがいいか?」


「俺は、酒を嗜みません。ジュースで」


 少佐が、異世界人から鹵獲した戦利品のジュースを注いでくれた。

 コップで飲む。


「……炭酸ですか。また、高価なモノを」


「特務大尉を労うには、安過ぎるくらいだ」


 炭酸飲料を作る技術は、まだ入手できていない。

 帝都で売れば、大金が手に入るのにね。


 ──クラ、カラン


 なんだろう……。意識が朦朧もうろうとしてきた。

 スプーンを落としてしまう。

 いや……、体中に力が入らない。


 ──バタン


 そのまま、椅子から床に倒れてしまった。


「ふう……。運び出せ」


 最後に、少佐の声が聞こえた。

 毒でも盛られたかな。理由は……、思いつかなかった。





「……」


 目が覚めたようだ。

 状況を確認する。

 まず椅子に縛られている。手足4本、別々にだ。それと、魔力阻害の首輪もされている。


(これは、逃げられないね。手段を選ばなければ別だけど)


 そして、場所だ。見覚えがある。


(指令所だよな……。久々だけど、覚えている)


「目が覚めたかね」


 視線を上げる。

 この基地の司令官──少将が、椅子ごと振り向いた。こんな上からの命令だったのか。


「司令官……。理由を聞いてもいいですか?」


「貴官には、早めに死んでもらいたかった……。だが、スナイパーライフル銃を与えれば、『七杖』に選ばれるほどに活躍した。それで、終戦まで働いてもらったのだ」


 理由を付けて殺そうとしたけど、有能だったから使ってやった?


「理由になっていないのですが?」


「貴官の父親だ。異世界人と交流を持とうとした……、と言えば理解できるかな?」


 父親? 異世界人と交流?

 それで、研究資料を没収されたのか?


「俺は、異世界人とのミックスですか?」


 少将が笑う。それと、背後からも声が聞こえた。

 視線を背後に移すと、〈称号持ち〉が数人いた。俺と親しくしていたメンバーはいないらしい。

 だけど、序列上位のメンバーだな。


「そこまで発想が飛躍するとは、思わなかったよ。そうよな、貴官は自分の母親を知らないんだったな」


「一応、王族の一員だとは聞きましたよ? 研究機関で、父親が見初めたとか聞きました」


「なんだ、知っていたのか。では、その質問はないのではないかな?」


 つまらない雑談で、逃げる算段を立てたかったんだけど、現時点で無理があるな。

 次の瞬間に、ミンチ肉になってもおかしくない状況だ。


「貴官の父親の研究だが、この戦争で実に役に立った。貴官の狙撃手としてもだがね。親子で帝国に貢献してくれたのは、感謝している」


 物思いにける少将。

 考えるけど、何が言いたいのかが分からない。


「親の罪を子が、引き継ぐのですか?」


「とぼけているのか……。本当に知らないのか。単刀直入に聞こう。『魔王の心臓』は、何処にある?」


 『魔王の心臓』……。父親が研究していたアーティファクトだな。

 古代遺物であり、動かせなかったはずだ。

 そして、誰からも見向きもされなかったモノ──だった。


 だけど、今更? 探している?

 記憶を辿る……。


「帝国に研究資料を没収された時には、父親は持っていなかった……。それ以前……、一年前までは、ペンダントとして身に着けていたのを覚えています。何処かに出かけた時に、置いてきたのかな?」


 少将が、舌打ちを鳴らす。

 そこまでは、調べていたんだろう。


「貴官は、持っていなんだな」


「身辺調査とかは、終わってますよね? この戦場に7年間いたんだし。俺の持ち物の中になければ、ないと思いますが?」


「空間魔法の〈収納〉があるだろう?」


「この首話を外してくれれば、全部出しますけど?」


 ──カチ


 ここで、俺の首元に剣が触れた。髪が数本落ちる。


「少将……、無意味だって。こいつも何度も死にかけているんだし、『魔王の心臓』を持っているなら、一度は使っているさ」


「ふぅ~。時間の無駄だったか」


 おいおい、何も分かんないんだけど。使えるモノなのか?

 効果を知っているなら、教えてもらいたいくらいだ。


「せめて、処刑理由くらいは教えてくれてもいいんじゃないんですか?」


 更に笑われる。


「君ら親子は、帝国に逆らった。なので、処刑させてもらう」


 ため息しか出ないよ。何をもって『逆らった』になるの?

 俺は、7年も命を張っていたのに。


「『魔王の心臓』を出せば、案外助かるかもよ?」


 『七剣』の一人が、囁く。



「つまらないな……」



 俺は、魔力を開放した。


 即座に、俺に剣が振り下ろされる。

 だけど、その剣は、俺に当たる事はなかった。


 〈魔力阻害の首輪〉があるので、今俺は魔法が使えない。だけど、以前から溜めている魔法であれば……、別だ。

 俺は、背中に魔方陣を描いていた。固定された魔法しか起動できないが、俺の最終手段だ。


 〈転移〉で下の階へ移動する。全身の服を捨てて。縄も椅子も、首輪も〈転移〉で捨ててきた。これで、魔法が使える。

 そのまま、ショートワープを繰り返して、地下倉庫へ。


 〈収納〉を展開して、スナイパーライフル銃を取り出し、頭上に構えた。

 躊躇ためらう理由があるとすれば、俺と親しかった人がこの建物にいるかもしれないことだ。

 だけど、一瞬の躊躇ちゅうちょが死を招く事を、戦場で嫌と言うほど教えられた。


「魔法陣最大数起動。魔力……充填完了。フルファイア!」


 次の瞬間に、指令所が爆破される。建物が、数メートル浮かんで、横倒しになった。


「まあ、『七盾』がいるだろうし。少将は無事だろう……。生死を確認する意味もない。逃げよう」


 鬱憤うっぷんはまだ溜まっている。ハラスメント攻撃で、苦しめてやろう。

 誰に喧嘩売ったかを、思い知らせてやる。

 俺は、〈転移〉を発動させようとした。

 だけど……、止まってしまった。


「ごふっ……」


 吐血した。

 視線を下げる。

 俺の背中から胸にかけて……、剣が生えている。振り返り、その人物を確認した。


「リアとフィアか。そうか、『七盾』の〈未来視〉と『七剣』の〈絶剣〉が組めば、最強だよね」


「ううっ……。レイ、レイ」


 1~2歳年上の、姉の様に慕っていた2人が、泣いている。

 この2人なら、俺が殺される理由を知っているかもしれない。だけど、聞く気にはなれなかった。

 俺が殺されるのであれば、この2人は最善かな。

 屈辱にまみれての死亡や、拷問なんかは受けたくないし。


 そのまま崩れ落ちる。

 剣は、俺の肩口まで傷口を広げていた。切れ味が、鋭過ぎる。

 人間をゼリーの様に切り裂けるんだし。

 〈絶剣〉──なんでも切り裂ける剣。敵に回したくなかったよ。


(これは、致命傷だな。回復は間に合わない)


 もう少しすれば、少将が来るだろうな。

 だけど、そこまで意識を保っていられなかった。


(即死させてくれたのは、温情なのかもしれないな……)



 そこで、意識が途切れた。

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転移魔法持ちの狙撃手~回帰したので、ちょっと異世界行って来ます~ 信仙夜祭 @tomi1070

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