第3話 裏切り
夜になり、宿舎で宴が始まる。
食料を放出してくれたらしい。それと、料理人が多数いる。
「何時もは、煮込み料理だけだったけど、今日だけは特別なんだな」
俺は、穀物料理が食べたい。
米をスプーンで食べる。
「うん、美味しいな」
「よう、レイ。楽しんでいるか?」
少佐が来た。一応、俺の上司だ。
「いただいています。他の皆は、どうしていますか?」
この宿舎には、〈称号持ち〉は俺しかいない。『七剣』『七盾』『七杖』を見かけなかった。
いるのは、士官学校を卒業した、尉官だな。
知り合いがいなかった。
「司令部で、事後計画の作成だ。気にするな」
違和感を感じる……。
今回だけ、俺を除け者にする意味があるのか?
俺だけ、宴に参加?
防空は、俺が担当していたけど、呼ばれない理由になるのか?
「酒は飲むか? ジュースがいいか?」
「俺は、酒を嗜みません。ジュースで」
少佐が、異世界人から鹵獲した戦利品のジュースを注いでくれた。
コップで飲む。
「……炭酸ですか。また、高価なモノを」
「特務大尉を労うには、安過ぎるくらいだ」
炭酸飲料を作る技術は、まだ入手できていない。
帝都で売れば、大金が手に入るのにね。
──クラ、カラン
なんだろう……。意識が
スプーンを落としてしまう。
いや……、体中に力が入らない。
──バタン
そのまま、椅子から床に倒れてしまった。
「ふう……。運び出せ」
最後に、少佐の声が聞こえた。
毒でも盛られたかな。理由は……、思いつかなかった。
◇
「……」
目が覚めたようだ。
状況を確認する。
まず椅子に縛られている。手足4本、別々にだ。それと、魔力阻害の首輪もされている。
(これは、逃げられないね。手段を選ばなければ別だけど)
そして、場所だ。見覚えがある。
(指令所だよな……。久々だけど、覚えている)
「目が覚めたかね」
視線を上げる。
この基地の司令官──少将が、椅子ごと振り向いた。こんな上からの命令だったのか。
「司令官……。理由を聞いてもいいですか?」
「貴官には、早めに死んでもらいたかった……。だが、スナイパーライフル銃を与えれば、『七杖』に選ばれるほどに活躍した。それで、終戦まで働いてもらったのだ」
理由を付けて殺そうとしたけど、有能だったから使ってやった?
「理由になっていないのですが?」
「貴官の父親だ。異世界人と交流を持とうとした……、と言えば理解できるかな?」
父親? 異世界人と交流?
それで、研究資料を没収されたのか?
「俺は、異世界人とのミックスですか?」
少将が笑う。それと、背後からも声が聞こえた。
視線を背後に移すと、〈称号持ち〉が数人いた。俺と親しくしていたメンバーはいないらしい。
だけど、序列上位のメンバーだな。
「そこまで発想が飛躍するとは、思わなかったよ。そうよな、貴官は自分の母親を知らないんだったな」
「一応、王族の一員だとは聞きましたよ? 研究機関で、父親が見初めたとか聞きました」
「なんだ、知っていたのか。では、その質問はないのではないかな?」
つまらない雑談で、逃げる算段を立てたかったんだけど、現時点で無理があるな。
次の瞬間に、ミンチ肉になってもおかしくない状況だ。
「貴官の父親の研究だが、この戦争で実に役に立った。貴官の狙撃手としてもだがね。親子で帝国に貢献してくれたのは、感謝している」
物思いに
考えるけど、何が言いたいのかが分からない。
「親の罪を子が、引き継ぐのですか?」
「とぼけているのか……。本当に知らないのか。単刀直入に聞こう。『魔王の心臓』は、何処にある?」
『魔王の心臓』……。父親が研究していたアーティファクトだな。
古代遺物であり、動かせなかったはずだ。
そして、誰からも見向きもされなかったモノ──だった。
だけど、今更? 探している?
記憶を辿る……。
「帝国に研究資料を没収された時には、父親は持っていなかった……。それ以前……、一年前までは、ペンダントとして身に着けていたのを覚えています。何処かに出かけた時に、置いてきたのかな?」
少将が、舌打ちを鳴らす。
そこまでは、調べていたんだろう。
「貴官は、持っていなんだな」
「身辺調査とかは、終わってますよね? この戦場に7年間いたんだし。俺の持ち物の中になければ、ないと思いますが?」
「空間魔法の〈収納〉があるだろう?」
「この首話を外してくれれば、全部出しますけど?」
──カチ
ここで、俺の首元に剣が触れた。髪が数本落ちる。
「少将……、無意味だって。こいつも何度も死にかけているんだし、『魔王の心臓』を持っているなら、一度は使っているさ」
「ふぅ~。時間の無駄だったか」
おいおい、何も分かんないんだけど。使えるモノなのか?
効果を知っているなら、教えてもらいたいくらいだ。
「せめて、処刑理由くらいは教えてくれてもいいんじゃないんですか?」
更に笑われる。
「君ら親子は、帝国に逆らった。なので、処刑させてもらう」
ため息しか出ないよ。何をもって『逆らった』になるの?
俺は、7年も命を張っていたのに。
「『魔王の心臓』を出せば、案外助かるかもよ?」
『七剣』の一人が、囁く。
「つまらないな……」
俺は、魔力を開放した。
即座に、俺に剣が振り下ろされる。
だけど、その剣は、俺に当たる事はなかった。
〈魔力阻害の首輪〉があるので、今俺は魔法が使えない。だけど、以前から溜めている魔法であれば……、別だ。
俺は、背中に魔方陣を描いていた。固定された魔法しか起動できないが、俺の最終手段だ。
〈転移〉で下の階へ移動する。全身の服を捨てて。縄も椅子も、首輪も〈転移〉で捨ててきた。これで、魔法が使える。
そのまま、ショートワープを繰り返して、地下倉庫へ。
〈収納〉を展開して、スナイパーライフル銃を取り出し、頭上に構えた。
だけど、一瞬の
「魔法陣最大数起動。魔力……充填完了。フルファイア!」
次の瞬間に、指令所が爆破される。建物が、数メートル浮かんで、横倒しになった。
「まあ、『七盾』がいるだろうし。少将は無事だろう……。生死を確認する意味もない。逃げよう」
誰に喧嘩売ったかを、思い知らせてやる。
俺は、〈転移〉を発動させようとした。
だけど……、止まってしまった。
「ごふっ……」
吐血した。
視線を下げる。
俺の背中から胸にかけて……、剣が生えている。振り返り、その人物を確認した。
「リアとフィアか。そうか、『七盾』の〈未来視〉と『七剣』の〈絶剣〉が組めば、最強だよね」
「ううっ……。レイ、レイ」
1~2歳年上の、姉の様に慕っていた2人が、泣いている。
この2人なら、俺が殺される理由を知っているかもしれない。だけど、聞く気にはなれなかった。
俺が殺されるのであれば、この2人は最善かな。
屈辱にまみれての死亡や、拷問なんかは受けたくないし。
そのまま崩れ落ちる。
剣は、俺の肩口まで傷口を広げていた。切れ味が、鋭過ぎる。
人間をゼリーの様に切り裂けるんだし。
〈絶剣〉──なんでも切り裂ける剣。敵に回したくなかったよ。
(これは、致命傷だな。回復は間に合わない)
もう少しすれば、少将が来るだろうな。
だけど、そこまで意識を保っていられなかった。
(即死させてくれたのは、温情なのかもしれないな……)
そこで、意識が途切れた。
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転移魔法持ちの狙撃手~回帰したので、ちょっと異世界行って来ます~ 信仙夜祭 @tomi1070
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