第2話 戦争の終結

 俺の名前は、レイ・タスクペイン。家名は一応名乗れるだけの没落貴族だ。

 絶賛戦争中だった帝国の、防衛軍に従事している。

 まあ、最精鋭なんだけどね。階級は、特務大尉らしい。俺は士官学校を卒業していないので、軍曹とか曹長にしかなれなかった。だけど、戦果を上げ過ぎて、特別に階級を作ってくれた。


 正直俺は、出世には興味がない。戦争も終わったしね。

 部下は……、皆死亡してしまった。

 俺だけが、一部隊として数えられている。


「〈転移ワープ〉できる、狙撃兵。時空間魔法──空間魔導師が、スナイパーライフル銃を持ったら生き残れた」



 父親は貴族位を持っていたけど、帝都を追放された時に爵位を最下級まで下げられた。それと、財産没収だ。

 母親は、俺が幼い頃に亡くなっている。

 3年間、僻地で暮らしていたけど、突然父親が逮捕された。

 理由は、聞かされていない。つうか、父親の人生に関して、ほとんど教えてもらえていない。


 父親の研究は、古代文字や技術の解明だった。

 滅んでしまった文明の、誰も読めない魔法文字の解読……。俺はそれを引き継ぐ予定だった。

 だけど、帝国の憲兵が来て、父親の研究資料を全て没収してしまった。

 研究を失った父親は、憔悴してしまい……、食べなくなり10日後に亡くなった。


 後から聞かされた話だけど、母親を生き返らせる研究をしていたらしい。

 一緒に住んでいた、俺だから言える。


「そんな研究など、していない」


 理由は、今俺が使えている魔法にあるんだし。

 そもそも、時空間魔法でも属性が違う。


「父親は異世界人が残して行った武器を使えるようにして、日銭を稼いでいただけなのに、何で研究を没収されたんだ? 中央に招けば、武器の量産も可能だったろうに」


 父親が亡くなると、俺はよく知らない男爵家に引き取られた。

 一回だけ家族全員が集まり、ディナーを摂ったんだけど、名前も顔も覚えられなかったな。

 なにせ次の日の朝には、召集令状がきて、鞄一つで戦地行きだったし。


 あの男爵家は、身代わりをほしがっていたんだろうな。

 その時の俺は、13歳だった。

 男爵領から他に4人の男児が集められて、戦地に送られた。

 俺以外は、全員18歳以上なんだそうだ。


(帝国のお偉い誰かが、俺を殺そうとしたのかもな……)





 帝国というか、この世界は異世界より侵攻を受けていた。

 異世界人の敵は、魔力を持たないけど、科学力を持った只人ただびとだった。

 その科学力が、脅威だったんだ。


 『次元の裂け目』ができてから、数日で陣地を構築されてしまった。

 9年から10年前の話らしい。

 その陣地が、街へと変わって行った。

 帝国は、各国に救援を呼びかけ、異世界人の侵攻を止めようとした。

 判断としては、正しい。脅威を正確に分析して、初動で後れを取らなかったのは、賞賛に値する。


 でも各国の足並みが揃うまで、3年の月日が流れたらしい。3年で攻防が拮抗しだしたんだとさ。

 何処かの誰かが、異世界人の科学技術と俺たちの世界の魔法技術を融合させた。

 それでやっと、反転攻勢に出れたんだそうだ。


「まあ、その『誰か』は、父親なんだろうけどね」


 異世界人が、捨てていった武器を解析して、足りない部品を魔力で補う。

 そして、異世界人以上の武器の使い方を考案した。

 『弾切れしない魔力銃』は、重宝されることになる。


 異世界人が、投入してくる武器を解析するだけでもなかった。

 他人の記憶を読み取る〈魔術師〉が重要視されると、こちらの戦力は飛躍的に向上した。敵の文化水準を知れたのが大きかったらしい。

 そして、技術の独占をさせまいと、各種族が手を取り合った。


 帝国の良い点は、技術協力を惜しまなかったところだな。

 各国もそうだ。

 異世界人の侵攻を防いだ後──を、考えていない筈はない。

 そこまで脅威だったんだろう。





 そして俺は、最前線に立たされたわけだ。

 初日に、知らないリーダーを含めた6人で組まされて、索敵任務に赴いた。

 リーダーは、半年は戦場で生き抜いた人物だったそうだ。


 ──ブーン


 機械音が、聞こえた。

 俺は咄嗟とっさに、魔力障壁を展開した。

 リーダーは、地面に伏せている。

 他の4人は、反応できていなかった。


 一瞬4枚羽の空飛ぶ機械見えたと思ったら、次の瞬間に爆発した。

 あれを人間の動体視力で捉えることは、不可能に近い。常時、肉体強化状態でないと、詰むことが理解できた。

 俺は吹き飛ばされたけど、奇跡的に無傷だ。

 一緒に来た4人は、手足が散らばっていた。


 リーダーは……、下半身がない。

 血を吐きながら、何かを呟いている。数分後に息絶えた。


 俺は、可能な限り『元仲間の一部』を集めて、陣地に帰還した。



 初日を乗り越えれば、後はなんとかなった。

 とにかく防御優先で、敵が飛ばしてくる武器を防げばいい。

 教官達は、それすら教えないつもりらしい。


 選別を兼ねているとでも、言いたそうだな。


 一日生き延びる度に、魔力が強化されることが分かった。

 命の危機に瀕していると、魔力の成長が速いみたいだ。

 そして一カ月後、俺に武器が支給された。


 使い方は……、知っていた。


「ライフル銃ですか……」


「知っているのか?」


「他の人が使っていたので、知っているになるのかな?」


 とぼけたら、会話を打ち切られてしまった。

 本当は、父親が解析して俺が試し撃ちをしてたんだけどね。

 ここにいる誰よりも、銃の構造には詳しい。


 後は、魔法だな。

 俺は、〈空間魔導師〉だった。魔法は、物質には作用させられない。

 だけど、絶対防御の〈盾〉を作れる。これは、空間を断絶させている。俺は、魔力障壁と呼んでいる。

 それと、〈転移〉だな。始めは、ショートワープだけだったけど、生き延びるには、長距離移動が必要不可欠だった。少しずつ距離を伸ばして行く。

 最後に〈収納〉だ。容量が少ないので、そんなに使い道がなかった。鹵獲した武器を保存しておくくらいだ。


 時空間魔法は他にもあるけど、覚えても使えるようになるまでは時間がかかる。

 俺は〈転移〉をとにかく鍛えた。ショートワープを、0.1秒で発動できる……。

 それだけで戦場を生き残れたんだ。


 他に得意分野と問われれば、『並列処理』になると思う。魔法陣で固定された魔法を同時に100個発動できる。この100と言う数字だけど、俺以上の数を発動させる人物には会った事がない。

 まあ、帝都にいけばいそうだけど、特技だとは思っている。


 俺の苦手分野としては、魔力の物質化や操作だ。

 大昔に、剣を物質化──具現化した達人は、山を切り裂いたそうだ。その山は、今も残っている。

 操作系は、動植物を操れるらしい。もちろん人間もだけど。

 〈死霊使いネクロマンサー〉は、敵兵の死体を操って、一度は異世界人を全て押し返したらしい。集中砲火を食らって、今はいないけどね。



 自己紹介はこれくらいにして、次は戦場での経歴だ。

 俺はライフル銃を支給されたけど、練習もなしに実戦に投入された。


「新兵の死亡率とか、考えているのかな……」


 俺のノルマは、敵の機械を1機は撃ち落すこと。防空だな。

 ライフル銃では届かない距離を飛ぶ、飛行機の狙撃……。

 だけど、魔力弾を使えば届くことが、立証されている。


 狙撃班は、各自高所に陣取って連携もなく撃っている。

 俺も見習いながら、高所に登った。

 そして……、撃つと狙われることが分かった。

 戦車の砲弾が、狙撃手一人のために消費される……。異世界人も何を考えているのか分からない。野戦砲による集中砲火なら、理解できるんだけど。


「勇んで、真っ先に撃たなくてよかった」


 銃を持ったら撃ちたくなるけど、初日を慎重に過ごしたのが、幸いした。

 俺の配属初日、狙撃班のメンバーは、3人が亡くなった。



 撃ったら、〈転移〉で移動する。

 それを繰り返した。それだけで、狙撃班では撃墜王になれた。

 だけど、命中率が良くなかったので、魔法と魔法陣を改良する。追尾機能だったり、視線誘導だったり、とにかく試行錯誤を繰り返した。

 狙撃班は、日を追うごとに数を減らし、半年もすれば俺一人になった。

 そして、司令部は狙撃班を増やさない決定を下した。

 ライフル銃を扱える奴は、野戦砲を与えられて、街の防衛だそうだ。

 余っているライフル銃は、街の防衛に回すので回収される。


 俺は、いくつかの銃を使ってみて、今の愛銃に辿り着いた。

 〈収納〉の中には、無許可で回収した銃が大量に眠っているのは、誰も知らない。


「俺一人で防空は十分って、判断なのかな……」


 気が付いた時には、俺は『七杖』の一人に数えられていた。

 前線の〈魔導師〉のトップ7に入れたらしい。

 他には、『七剣』と『七盾』がいる。


 この21人を中心にして、戦術を組んで行く。

 もう中途半端な戦力は、前線には来なくなった。賢明ともいえる。

 この数年で、新兵を多く失ったからね。


 そして、『次元の狭間』を空間的に隔離して、戦争が終わった。



 この時の俺は、解放されるモノだと思っていた。

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