1日目 午前0時
昨日、突然手紙を寄越し、連絡を取ってきた野上。
やついわく、小牧の事故はただの事故じゃない。お前も調査に協力しろ。と。
何を言うか。私はもう情報本部の人間ではない。
そう思っていたのだが、どうやらこの天命は、もう逃れられるものではないようだ。
『国分一尉、君に至急の用件がある。帰宅後で悪いが本部まで来てくれないか。』
そう電話を掛けてきたのは、宮永一佐だった。
地本からわずか1km西、中川区のワンルームで一人暮らしの身の上、それに仮にも上官からの呼び出し。
断ることは許されないであろう。
家に鍵を掛け、バイクに鍵を差し込む。
夜の名古屋は、実は車が少ない。
走り出せば速いもので、ささしまライブを横目に新幹線、JR、名鉄とガード下をくぐり、名駅通を南下。松重閘門を見上げ、名古屋高速4号線の高架を抜ければ地本だ。
「夜遅くまでお疲れ様です。ご要件は何でしょうか。」
特別職国家公務員、それも広報担当としてはあまり経験のないほどの残業をしている宮永一佐。
「君に辞令が下った。それも、陸幕長から直々にだ。」
「辞令って、異動ですか?それもこんな時期に?」
「ああ。君は現時刻をもって、防衛省情報本部統合情報部に異動となるそうだ。」
統合情報部、事実上の統合幕僚監部の情報部として運用される、緊急性の高い情報処理を担当する部署だ。
「なぜ私がまた情報本部に。」
「私も詳細はわからん。が、どうやらわが国の安全保障の一大事らしい。とりあえず、詳しいことは本日6時にここに来庁する情報本部の、君の同僚たちに聞いてみてくれ。」
「了解しました。」
どんな理不尽が降りかかるかと思えば、陸幕長から直々の辞令、それも異動先は情報本部。
全くもって難儀なものだ、自衛官とは。
明朝6時、地本のドアを叩く者たちがいた。
恐らく、一佐の言っていた情報本部の連中であろう。
「朝早く失礼します。情報本部から参りました。三曹の長森です。」「お久しぶりです国分一尉。三曹の鳥居です。」「士長の宮田です。」
顔馴染みの三曹が一人、いかにも陸上自衛官と言った風貌の士長が一人。そして、あまり自衛官らしく見えない三曹が一人。
「よろしくお願いします。本日付で情報本部統合情報部所属となりました。一等陸尉の国分道明です。よろしく。」
軽い挨拶を交わすと、自衛官らしからぬ三曹、長森が口を開く。
「早速になりますが国分一尉、これから我々4人はチームです。まずは一度場所を変えましょう。」
突然の訪問の次は、突然の移動のようだ。
「こちらの車にどうぞ。」
4桁ナンバーのセダン。自衛隊車両ではないようだ。
車は地本を出ると、松重橋で堀川を越え、そのまま堀川の東岸を北上していく。
大須通、若宮大通、三蔵通。
中部地方の経済の中心地、名古屋を4人乗りの車は駆け抜けていく。
名駅と栄の中間、ビジネス街に入ると、車は左折した。広小路通、納屋橋を渡り、笹島の交差点に出る。
モード学園に名鉄百貨店、まだ朝早い歩道にはランニングをする人々がまばらに見える。
右折したかと思うともう一度右折した車は錦通へ入り、そのまま名古屋高速に入った。
「なぁ、鳥居三曹。」
ひとまず、情報本部時代の顔馴染みに声を掛ける。
「何でしょうか、国分一尉。」
「一体全体どういうことなんだ。野上事務官から電話があったかと思えば数時間でこれだ。そもそも小牧の事故が実は事故じゃないとか、どうなっているんだ?」
これまで抱えていた疑問を一挙にぶつける。
料金所を越え、都心環状線に乗ったセダンはそのまま進み、明道町JCTで右折。別れていく6号清須線を脇目に返答を待つ。
「まだ本庁も詳細は掴めていないようですが、現在国内になんらかの武装勢力が浸透しており、小牧の一件も彼らが引き起こしたものとされているようです。」
「武装勢力…?他国の工作員か…?それに、なんでそれで私が、」
遮るように、助手席から発言があった。
宮田士長だ。
「上は国分一尉が適任と判断したもようです。それに、まだその勢力がどんなものなのかも分からなければ、目的もわからない。なんなら、事故にどう関与したのかも調査中なのです。そんな件にまともに人員を回す余裕はうちにはなかったみたいですね。」
「余裕がないって、なんでそれで私が。」
「とにかく、今から一度小牧へ向かいます。詳細はそこで。」
左手には名古屋城、愛知県警本部、そして官公庁、愛知県庁、名古屋市役所。
右手にはオフィスビルとマンション、アパートが入り乱れる市街地。少し奥に一際高く並ぶのは桜通沿いのビジネス街であろうか。
そのさらに向こうには名古屋テレビ塔、先日オープンしたばかりの超高層ビルも見える。
東片端で左折し1号楠線に入った車は、そのまま北上していく。
午前7時5分、小牧基地の正門に到着した。
事故発生からまだ2日。興奮冷めやらぬと言った感じではないが、まだマスコミは近隣に張り付いている。
正門に入り、脇の駐車場に車を停める。
常設展示されている、T-33A練習機に、S-62J救難ヘリコプター。
それらには目もくれず、基地司令部のある庁舎へと歩みを進めていく。
一室に通された私たちは、まずは事故に関する資料を確認することになった。
「一昨日、2026年2月19日。普段通り訓練を行っていた第一輸送航空隊飛行群第401飛行隊所属のC-130Hが、着陸寸前に通信が途切れ、その後滑走路上に墜落、と。」
事故の直後からずっと報道があった通りの内容だ。
「ここからが本題です。事故機の残骸を調査したところ、外部からの爆発痕が見つかりました。もちろん事故機の積載物に爆発物はありませんでしたし、外部にも引火誘爆するようなものはありませんでした。」
自衛官らしからぬ、すらっと長い風貌の長森三曹がつらつらと述べる。
「つまり、外部からの攻撃、と?」
「現段階では、そう想定もできる、というだけです。」
「そもそも何の変哲もない訓練中の戦術輸送機を攻撃する意図も掴めません。」
「つまり私たちの任務は、まずは事故原因の調査、そしてなんらかの意図があるとするならばその目的の特定、ということか?」
「そういうことになります。」
「何故、私なんだ?」
ずっと胸の中にあった思いをぶつける。
「国分一尉といえば、こっちじゃ伝説的人材なんですよ?ロシア極東での動きとか、お噂はかねがね。人材不足の中、そんな人が調査対象のそばにいたら、使わざるを得ないでしょう。」
「おい宮田、もう少し態度をだな、」
宮田士長の返答が終わるやいなや、鳥居三曹が注意をする。
「いや、構わないよ。まだ疑念は残るが、陸幕長からの直々の辞令だ。一旦は受け入れるしかなかろう。」
「ご納得いただけたようでよかったです。国分一尉。」
「では、現状わかっていることをすべて教えてくれ。」
「了解。」
情報本部時代を思い出す。ここからが私の仕事の本番のようだ。
内戦 @akky2812
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