第2話
「つっても,どうすっかなぁ...」
魔術技師になるためには学園へ行って技術を学ばなければいけない.
もちろん技術だけでなく知識も必要だが,基礎的な知識は大体頭に入っている.
...問題は,学費だ. 本来なら母に援助してもらう約束だったのだが,当の本人があれではまあ無理だろう.
...しょうがない,最終手段だ.
冒険者になろう. あんな日雇いは死んでも嫌だったが,金がない今となってはなりふり構っていられない.
ほかにしっかりとした仕事もあると思ったが,俺の知る限りどの店もどんなに人手不足でも絶対に正規雇用以外雇わない. なんでだ.
「...すぅ,はぁ...よし,行くか.」
決意を固めて,俺は冒険者ギルドの扉を開く.
まず最初に流れ込んできたのは,前面に出てくる酒臭さと見るからに真面ではない格好の荒くれ者共.
一歩踏み込んで建物の中に入ると,中は魔石を換金する冒険者に,
鍛冶場と書かれている看板の先から漂ってくる鉄錆と鋼鉄の混じった独特の金属臭.
ほんのりと香る血なまぐささに,それを押しのけるほどの汗臭さ.
...こいつ等,真面な生活してんのか? なんて思うくらいには,汗の匂いと酒臭さが充満していた.
そんな中の人混みを避け,受付カウンターへと歩みを進め,カウンターの前で立ち止まってとある方を向く..
そこでは,大柄な男が普通の背格好の男に自慢をしていた.
俺はふと気になり,其方へ歩いていき,野次馬の一人に尋ねる.
「おい,あれどうしたんだ?」
「ん?おまえ...ははん,その格好,登録に来たってところか. じゃあいいぜ,教えてやるよ.」
「助かる.」
「あいつはCランク冒険者のガイル. 最近ランクが降格して苛立ってるのか,新人の弱そうなやつ脅してボコしてんだ.」
「最低だな.」
「おれもそう思うけどよぉ,あいつには向かうと何されるかわかんねぇんだよ.お前も気を付け...は,はぁ!?!?!?!?」
「おい,何が...!?」
俺と野次馬Aはギョっと目を剥く.なぜなら,そこでは信じられないことが起こっていたからだ.
小柄な男が殴ったと思われる体制で立っており,その男の前でガイルとやらが壁にめり込んで気絶していた.
ガイルの顔面はそりゃもうすごいことになっており,鼻は折れてひしゃげており,
口からは血が出ている.
ひしゃげている鼻からはもうとんでもないほど血が出ている.これ死ぬんじゃねぇのかって心配になるくらいには.
...なんだあの男,こわ...
そして,周りがざわついている中その男は腑抜けた声でこう此方に問いかけてくる.
「あの~... また俺,なんかやっちゃいました?」
と.
なんかやっちゃったどころの話じゃねぇだろ!目の前で男が気絶して死にそうなくらい血流してんだぞ! なんかやっちゃったで済む訳ねぇだろ!
...なんて言いそうな口を押える. あれを見てなんかやっちゃいましたで済ませる男だ,きっとあの対話不能男と同じで異常者だ. 気に食わない発言をしたやつを殴り殺すに違いない. 怖え~...
そして俺は,今までの光景を見なかったことにしてカウンターへ戻った.
オレハナニモミテナイ.
「こんにちは,今回のご用件は何でしょう?」
「冒険者登録をしに来ました.」
「わかりました.ではこちらのギルドカードに血印を.」
「はい.」
おれは親指の腹に傷をつけ,あふれる血を親指で押さえつけて血印をギルドカードとやらに残す.
...魔術っていう便利なものがあるんだし,それ使わないんですか? まあきっと,こちらの方が確実なのだろう.知らんけど.
「ありがとうございます,ではこちらの紙にお名前とスキルを.」
「はい,わかりました.」
俺は紙に情報を書いて職員に渡す.
「ありがとうございます,ではギルドカードを作成してまいりますので少々お待ちください.」
そうして待っていること数分,ギルドカードができたようで俺はカウンターに呼び出される.
「こちらがリク様のギルドカードです. こちらは大切なものとなっていますので,なくさないようにお気をつけ下さい. それと,ランクについてご説明は必要でしょうか?」
「頼みます.」
「かしこまりました. ランクとは冒険者の実力を示す一種の指標で, Fから始まり,E,D,C,B,Aと来てSが一番高いものとなっております.」
「わかりました.ありがとうございます.」
俺はギルドカードを受け取り,ギルドを後にする.
臭かったわ,あそこにはもう二度と行かない.
「すいません,アルジスまでの馬車って出てますか?」
「アルジス,ね...? 相乗りならもうすぐ出発するよ.」
「それじゃあ,チケット一枚お願いします.」
「あいよ. 1シルヴァね.」
「1シルヴァですね,これで.」
「きっかり1シルヴァあるね,ほら,チケットだ. 早く行きな.」
「ありがとうございましたー」
そんなわけで馬車に乗った.馬車はそろそろ出発するようで,人がそこそこ乗ってきている.
俺が今から向かう都市はアルジス.
此処から一番近い都市で,俺が目指す学園のキャンバスがあるとともに,その他複数の学園が存在している. 人呼んで,「学園都市」.
しかし,アルジスには黒い噂もある.例えば,頭に打ち込んで新たな魔術を使えるようにする外部魔道具が秘密裏に流通しているとかなんとか...便利そうだし浪漫もありそうだけど,なんか怖いね.
そんなことを思っている間に俺は寝てしまったようで,起きた時にはアルジスが見えていた.
「よい...しょ,ありがとうございましたー」
馬車がアルジスに着き,俺はチケットを箱に入れ馬車から降りる.
それにしてもこの町は大きいし,にぎわっている.
大通りに出る度,それが顕著に感じられる.
どこもかしこも人でにぎわっており,道の中心には屋台がずらりとならんでいる.
そんな中で,俺は一つ不思議な屋台を見つけた.
大して大きくもない道なのに,ポツンと道の端でやっている屋台.
俺は,好奇心に駆られてそこへ近づいた.思えば,これがそもそも間違っていたのだろう.
「すいません,ここって何の屋台ですか?」
「ここかい? ...ああ,ここはね...
「マギホルダー? まあいいか,値段は?」
「安いので1ゴルドだ. 安いだろ?」
「いや,安くないです! 買うのは諦めます.」
「そうかい,また来るんだよ.」
そうして屋台を離れ,大通りに戻ろうと路地を歩いていた時,
裏路地から悲鳴が聞こえてきた.
「キャ ―——— ッ!!!!」
「⁉」
悲鳴が聞こえた俺は,一目散に其方へ向かった.
そうして,その路地に着いた俺は,少女が男...それも,チンピラと言えるくらいの
軽薄そうな男たちに囲まれていた.
「いや,やめ... そ,其処の人! 助けて!」
「あァ? んだオメェ...ははっ!正義の味方気取りかァ!?」
「いや,そういうわけじゃないが...」
「んだよ,じゃァなんで来たんだァ!?」
「いや,悲鳴が聞こえたから...」
「しゃぁねェ,お前は...殺す.男に興味はねェ」
「え,そ,そんな...! 私何でもしますから,どうか,どうかその人だけは...!」
「衛兵さぁぁぁぁぁん!!!!!!!!」
俺は,路地裏に響き渡るほどの大声で衛兵を呼んだ.
辺りに一瞬静寂が走る. が,その静寂は一瞬でかき消された.
なぜかというと...衛兵複数人がやってきたからだ.
チンピラたちは逃げようとしたみたいだが,一瞬で取り押さえられてた.ザッコ.さっきイキってたのは何だったんだよってくらい雑魚くてびっくりしちゃった.まあ俺相手だったら一瞬で勝てそうだけど.
「あ,あの,ありがとうございました...!」
「ん?ああ,いいよ.俺衛兵呼んだだけだし.」
「そ,それでも! 助けてくれたのは,あなたなので...///」
何だこいつ.なんか顔赤くね?
惚れてる? なんて考えるほど俺は
だとすると...
「熱ある?」
「え,いえ,そんなことぉ...///」
「そうか,じゃあな.」
「あ,あの!」
「何?」
「お名前を,教えていただけませんか...?///」
僕知ってる! 近所のモテモテお兄さんから聞いた!
こういう場合って惚れられてるんだって!
なわけあるかよ馬鹿.
「いえ,名乗るほどの物でもありませんので...」
「で,でも...!」
「それでは!!」
面倒ごとに巻き込まれそうな雰囲気を感じ取った俺は,その場から即座に逃げだした.
無いとは思うが,これはIFの話だ.
あの女がもし俺に惚れていたとしたら,だ.
魔法生物に襲われて大ピンチ!とかのときに救われたならまだわかる.
でも衛兵呼ばれたくらいで惚れるやっばい女になるんだが...
まぁ,そんなやばい奴いないだろうし,そんなことないか.
この時の俺は知らなかった. あの女がまさにそのやばいやつだということを―—.
無味転生 ぬぬぬぬぬ @hyuumu7
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。無味転生の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます