無味転生

ぬぬぬぬぬ

第1話

「う,ぅ... おかぁさん,つらいよ...」

「頑張ってねリク,もう少しでお医者さんが来るからね.」

「うん,がんばる...」

そうして,僕は高熱により気絶するのであった...


『はぁ,クソ. なんで俺が首になんなきゃいけねぇんだよ.』

—なに,これ...だれ...?


『はぁ...ガチャ,回すか...』


『あぶない!お兄さん! ちょっと!?』


『——ぇ?』


その人の体が宙に飛び,ドシャ,と嫌な音を立てて地面に落ちる.

その人は体のあちこちがひしゃげていて,生きているようには見えなかった.


その人を殺した魔道具はとてもおっきくて,まるで馬がなくても走る馬車みたいだ.


その瞬間,僕の頭にものすごい量の情報が流れてくる.

何もしなくても物が冷える箱型の魔道具, 空を飛ぶ巨大な鉄の鳥,

町中を駆け回るあの魔道具.

そして,特に目を引いたのは何でもできる板状の魔道具.

薄くて,それなのに遠くの人と話せるし顔を見せると模様が変わる.

これはケータイっていうらしい.

箱型のはレーゾーコ,鉄の鳥はヒコーキと言って鳥ではないらしいし,あの魔道具はクルマ,中でもあの人を殺した魔道具はトラックというらしい.


す,すごい...!


あんな魔道具がありながら,それを使って私利私欲のために人を殺す人もほとんどいない.それに,同じような魔道具があふれている.


みんな幸せそうで,とってもうらやましかった.


そして,僕は決意した. この夢に出てきた魔道具を作って,みんなを幸せにしたい,って.


それと,あの死んだ人は自分の前世?らしい.

あの人が死んだ後,神様とあの人は会ってて,そこで神様に転生がどうしたこうした,って教えられてた. 変なの.



――そして,僕は目を覚ました.


「リク! よかった,目が覚めたのね...!」

「あそこから目を覚ますとは,奇跡ですよ! 神様がきっと味方してくれていたのでしょう.」

「おかーさん,ぼく,決めたよ!」

「急にどうしたの?リク.」

「僕ね,立派な魔導技師さんになって,便利ま魔道具をいーっぱい作って,みんなを幸せにするんだ!」

「そうね,リクならきっと,きっと立派な技師さんになれるわ.それなら,お勉強頑張りましょ?」

「うん!僕,がんばる!」

「でも,今はしっかり休むのよ. 頑張りすぎてまた熱出しちゃったら,大変でしょ?」

「うん,わかった!」


「おやすみ,リク.」

「おやすみ,お母さん.」


「それでは,私はここで.」

「はい,ありがとうございました治癒術士さん.これ,お代です.」

「それでは,また.」



―――そんな感じの,随分と懐かしい夢を見た. 俺は明日15歳になって,成人の儀を受ける. この儀で成人した人間は全員スキルを授かる.

魔術系のスキルを授かれればいいんだけど...まあ,運,ってやつだね.


「母さん.明日の成人の儀,いいスキル授かれるかな...」

「大丈夫よ.リクなら,きっと立派なになれるわ.」

「は? 母さん,今冒険者って...」

「リク,何言ってるのよ. 冒険者になるなんて当たり前でしょ?」

「え,でも,俺魔術技師になるって...」

「そんな戯言何時まで言ってるの!!!」

「はぁ? 母さんだって,応援してくれて...」

「子供の冗談に答えない親がどこにいるの? まあいいわ,リクは立派な冒険者になるのよ?」

(何言ってんだ,母さんは...)


—そしてついに,成人の儀が執り行われるときになった...


(ん?ん?え? あ,あの男...神聖な儀になんで正装で来てないんだ!? )

「おい,お前...!」

「あ?どうしたんだよ」

「なんで成人の儀なのに正装をしてないんだ?」

「え? ...はぁ,お前馬鹿なの? それってさ,普通にコスパ悪ぃじゃん.」

「コスパ...? お前は何を言っているんだ?」

コスパとやらはわかる. 俺の前世でそんな言葉がはやっていたらしいから.

確か意味は...費用対効果,だったか? つまりこの男は, この儀式に金をかけるのは無駄だと言っているのか!?

「わかったらさっさといけ. 対話はコスパが悪い.」

「...はぁ,わかったよ.」


今の会話でわかった. こいつ,話が通じない.

普通だったら晴れ舞台...そうだな,俺の前世にあった結婚式とやらは,私服で来るのは失礼にあたるそうだ. 俺の前世はぼっち,とやらで友達が一切いなかったらしいのでよくわからんが.


それをこいつは...もういいか,めんどくさい.


「次! アルク・マジスター!」

お,あの対話不可能が呼ばれたみたいだ.


「な!? き,貴様...!!! この神聖な儀式にそんな服で来るとは何事だ!神を冒涜しているのか!」

なんていうのかと思っていたら,


「スキルは...こ,これは...! 「勇者」!「勇者」」が誕生したぞ!」


「はぁ?」


周りが歓声を上げている中,俺は一人間抜けな声を上げる.


勇者が生まれたことはどうでもいい.人類の敵なんて今は居ないし,魔王が治める魔国とは同盟を結んでいるから少なくともこの国は侵略されない.

というかそんなことは問題ではなくて,問題は司祭の方だ.

神聖な儀式に正装で来ないやつがいるか!? それに,指摘しない司祭も司祭だ.

この儀式はスキルを授かるためだけの物じゃない. 主な目的は15まで生き延びれたことを神様へ感謝するとで,

スキル頂戴の目的は神からの最後の頂き物を活用して神へ御恩を返すことを示す重要な物だ.

そんな神聖な儀式を冒とくされているに等しい行為をされているのに,

なぜ司祭が指摘しない!? 司祭は神への忠誠を誓う協会の神父のみがなることができるとても重要な役職のはず. どうしてそんな神への冒涜を許すことができるんだ!?


...などと考えていたが,不意に俺の名前が呼ばれて俺は現実に戻る.


「リク・アルベティア!」

「はい!」


俺は立ち上がり,壇上へ上がる.


「リク・アルベティア,お前のスキルは...「技術補正」!」

「技術,補正...?」

「ああ,技術補正という名のスキルだ. 早く席に戻りなさい.」

「あ,はい!」


司祭さんは俺が聞き返したのをうまく聞こえなかったと解釈し,言い直してくれた.


でもあの対話不能人とのやり取りは意味不明だったけどな.


それにしても技術補正は良かった.ちょうど欲しいスキル...いや,それ以上のスキルだ.


俺が欲しかったのは「技巧」スキル.

このスキルは手先が器用になる程度のスキルだ. それでも,手先の細かい作業が多い魔術技師には有用なスキルと言えるだろう.


しかし! 俺が実際に授かったのは「技術補正」スキル.

このスキルはとんでもない. 俺も詳しくは知らない.

なぜなら,このスキルを持つ者は大体技術者だが,

この狂った世界では技術者は蔑まれている.

この世界の奴らは全員冒険者を目指しているし,

冒険者が一番の職業だと考えているし,

何なら冒険者に使えないスキルは外れスキル扱いされている.


なんでみんながみんな好き好んで日雇い労働者になりたがってるのは知らない.

というか意味が解らない.

ただの日雇いなら理解はできる. 嘘,やっぱできない.

まあ数万歩譲って理解はできる.共感はできないが.


冒険者は,森の奥へと探索していき,魔法生物から魔石を採取して一攫千金を狙う.

これだけ聞いたらロマン有り,一攫千金のチャンス有り,成り上がりチャンス有り,とかなり魅力的な職業に聞こえる.しかし冒険者とは死の危険が常に付きまとう職業だ.

冒険者は危険な魔法動物,前世で言うところの魔物ってやつだ.

それを討伐し,心臓にある魔石というものを取って換金する.

人型の魔法動物もいるし,そのほとんどが人間よりはるかに強い.

あと盗賊退治だったり,偶に戦争に呼び出されたりする.


そんな職業になぜなりたがるのだろうか.

普通安定していて収入も良い官僚だったりを目指すと思うのだが...


「リク! あんた...」

「なに?母さん.」

「なんで,技術補正なんてゴミスキルを授かったの! お前みたいな無能はいらない!追放だ!出て行け!」

「...わかったよ,母さん.」


ね?トチ狂ってるでしょ?

...それに追放じゃなくて勘当じゃない?



そんなわけで,俺は家から追い出されたのであった

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