【災害】救済の裏に隠された構造的な悪

晋子(しんこ)@思想家・哲学者

災害は本当に偶然なのか?

人間社会を振り返ると、ある奇妙な現象に気づく。それは不幸や災害はしばしば利益を生むという逆説である。被害を受けた人々にとっては悲惨でしかない出来事が、ある種の立場の人間にとっては稼ぎどころになる。ここには善と悪が複雑に入り混じった構造が隠れている。


もともと人の良い行いは目立ちにくい。未然に防がれた災害は「起こらなかった」という事実しか残らず、人々はその裏にどれほどの努力があったかを想像できない。だから感謝も報酬も生まれにくい。それに対して、実際に災害が起こってから救う行為は、人々の記憶に鮮明に残り、称賛や利益をもたらす。この構造を逆手に取れば、災害を起こし、被害を出し、その後で救うことこそが最大の利益になるという考え方が導かれてしまう。


たとえば政治の世界では、防災に地道な予算を投じるよりも、大災害が発生した後に「迅速な救助活動」を演出する方が支持率は上がる。医療の世界でも、病気を予防する仕組みより、病気になった人を治療する技術や薬の方がはるかに市場規模は大きい。軍事産業に至っては、戦争そのものが巨大な需要を生み出す。この構造は非常にシンプルだ。危機が存在すれば、人は誰かに頼らざるを得ないという人間心理に根ざしている。だからこそ、危機を未然に防ぐことよりも、危機を見せつけ、その後で助けることに価値が集中する。


ここで恐ろしい仮定が生まれる。もし災害が偶然ではなく、誰かの手によって意図的に作り出されているのだとしたら、という問いである。自然災害のすべてを操作できるわけではないにせよ、人為的な不幸や危機は歴史上いくらでも見られる。戦争はその典型だ。権力者にとって戦争は国民を恐怖で支配する手段であると同時に、敗者から奪い取るビジネスでもある。武器が売れ、復興需要が生まれ、愛国心を利用して政治的な支持を固めることができる。もし戦争が完全になくなれば、この莫大な利益の源泉は消えてしまう。だからこそ戦争は繰り返される。


また、疫病や医療の分野でも似た構図がある。予防ワクチンよりも高額な治療薬、健康な生活習慣よりも緊急医療の方が、人々の感謝とお金を集めやすい。つまり病気がなくならない方が儲かる仕組みが働く。これが意図的かどうかは断言できないが、少なくとも災害や病気を完全には解決しない方が利益が持続するという現実は否定できない。


災害を引き起こし、その後で救済する。この構造は単なる利潤追求ではなく、人の心そのものを支配する仕組みでもある。人間は苦しみの最中に差し伸べられた手に強烈な感謝を抱く。たとえその苦しみを作り出したのが同じ手であっても、助けてもらった瞬間に恩義を感じてしまう。これは心理学的な依存関係を生み、権力の固定化につながる。宗教や政治の歴史においても、この恐怖と救済の二段構えは繰り返し利用されてきた。地獄を説き、その救済を与える宗教。外敵の脅威を強調し、防衛や戦争を正当化する国家。すべては不幸を見せ、その後に救うことで人心を掌握する方法論である。


こうして考えると、本来なら尊ばれるべき防ぐ力や未然の善行が評価されず、むしろ不幸を利用する力が利益を生む社会の姿が浮かび上がる。そこでは善と悪が逆転してしまう。災害を起こす側が救世主と呼ばれ、災害を防いだ側は無関係な存在として忘れ去られる。この逆転は、人間社会に深く根付いた構造的な悪である。もし本当に災害を意図的に作り、救済によって稼ぐという仕組みが存在するとしたら、それは単なる陰謀ではなく、人間の認知と社会システムが生み出した必然的な現象なのかもしれない。


「人の良いところは見えにくく、悪いところは見えやすい」という単純な事実から出発すると、やがて災害をわざと起こし、その後で救済して感謝と利益を得るという恐ろしい可能性に行き着く。これは妄想ではなく、歴史や現代社会に実際に見られる構造である。もし私たちが本当に人類の幸福を求めるならば、災害を利用する者に依存するのではなく、災害を防いだ者にもっと光を当てなければならない。感謝の基準を変えなければ、この世界は永遠に不幸が繰り返され、救済の名のもとに支配されるという構造から抜け出せない。

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