第3話「ちいさな才能」

1、人狼部・部室(数日後の放課後)


部室。円卓。ホワイトボードに「対真昼・連敗記録:7」と書かれている(燐の字)。


燐「なーんでよ!! なんで勝てないのよあんたにー!!」


燐、狼耳をむしり取って円卓に突っ伏す。向かいで真昼がおろおろしている。


真昼「ご、ごめんなさい!? あの、でも、わたしもなんで勝ったのかよく……」

栞「謝る側と謝られる側が逆です……」


※コマ:ホワイトボードの戦績表。最初の数戦は「真昼:処刑」がずらり、途中から「真昼:人狼を看破」がぽつぽつ増えている。絵で成長を語る。


雫「──面白いのは、勝ち方よ」


雫、壁際の椅子で本を閉じる。


雫「燐、さっきの試合、どこで負けたと思う?」

燐「そりゃ最後の投票でしょ。真昼がいきなりあたしを指した」

雫「真昼さん。なぜ燐だと思ったの」

真昼「え、えっと……その…………」


真昼、うーんうーんと唸って、両手をわたわたさせて──


真昼「……二日目の燐先輩の『わたし村人だよ』が、三日目の『わたし村人だってば』と、ちがう感じがして……」

燐「同じこと言ってんじゃない!!」

真昼「ちがうんです! 二日目のは、ほんとに言ってて……三日目のは、言い直してるっていうか……あぅ、うまく言えない……」


栞、はっとして手元のメモ帳をめくり出す。


栞「……ほんとだ。二日目の燐先輩は『村人だよ』のあとすぐ議論を進めてます。でも三日目は『村人だってば』のあと、誰も疑ってないのに、もう一回弁明してる」

燐「げっ」

栞「疑われてない人狼が、先回りして守りに入った……発言記録を突き合わせれば、たしかに歪んでます。……真昼さん、これ、憶えてたんですか? 全員の発言を?」

真昼「お、憶えてるっていうか……みんなの言うこと、ぜんぶ聞いてたら、ぜんぶ入ってた……?」


しん、とする部室。


燐「……こわ」

栞「わたし、メモ取ってやっとですよ……」


雫、静かに立ち上がり、ホワイトボードの前へ。


雫「──種明かしをしましょうか。真昼さんの強さの正体」


※ここから見開き〜1ページの図解パート。雫の講義。この作品の「才能の説明書」なので丁寧に。


雫「わたしたちは、疑いながら聞くの。『これは嘘かも』『これは罠かも』──疑うことは、情報を選別すること。選別すれば、必ず取りこぼす」


※図解コマ:雫や燐の頭のイメージ。発言の吹き出しが「重要」「無視」と仕分けられ、半分がゴミ箱へ。


雫「でも、この子は疑わない。ぜんぶ、本当として受け取る。だから捨てない。全員の、全発言が、そのまま積もっていく」


※図解コマ:真昼の頭のイメージ。吹き出しが一枚も捨てられず、地層のように積み重なっていく。


雫「そして人狼の嘘は、どれだけ上手くても──積もった『本当』の地層と、どこかで必ず食い違う」


※決めゴマの型・ここで確定:積もった発言の地層から、一枚だけ浮き上がる吹き出し。それに真昼が「……あれ?」と気づく画。(以後、真昼の勘が働く場面はこの演出で統一)


雫「疑う者は選び、選ぶ者はこぼす。信じる者だけが、すべてを拾える。──真昼さん、あなたの武器は、記憶力でも観察眼でもない。誰の言葉も疑わずに聞く、その耳よ」


真昼「…………」


真昼、ぽかんとして、それから、じわじわ赤くなる。


真昼「あ、あの、それって……ほめられてます……?」

燐「褒めてる褒めてる! 超褒めてる!」

真昼「えへ、えへへ……わたし、はじめてかも。嘘つけないこと、ほめられたの……」


※コマ:くしゃっと笑う真昼。この笑顔は本物。シーン2の「上手すぎる笑顔」との対比で。


雫「──ただし」


雫、マーカーをことんと置く。


雫「弱点も、もう分かってるわね。地層は、積もるまで役に立たない」


2、練習試合(真昼の敗北)


栞「では次の一戦──」


カード配布。真昼のカード──村人。ほっとする真昼。


栞「朝です。議論を──」


燐「はい、真昼が狼。以上!」


真昼「ふぇっ!?」


※コマ:議論開始3秒。びしっと指を差す燐。


栞「早すぎます! しかも根拠がゼロです! ワンナイトは一戦ごとに配役が振り直されるんですよ、前の試合で真昼さんがどうだったかは、今回の判断材料になりません!」

燐「そーね。ぜんぜん根拠ないわ」

栞「開き直らないでください!」

燐「でもさ」


燐、にやりと笑って、指をそのままに。


燐「いま、この卓でいちばん"何か言ってる"のは──真昼の顔じゃない?」


※コマ:真昼。汗、泳ぐ目、震える口元。指を差されただけで、盤面唯一の"情報源"になってしまっている。


真昼「ち、ちがっ……わたし、村人です、ほんとです、ほんとに、ほんとにほんとです……!」

燐「ほら泳いだ」

真昼「これは地の目です!! いつも泳いでるんです!!」

栞「(いつも泳いでる……)」


真昼(モノローグ)(言い返さなきゃ。栞ちゃんが庇ってくれてるのに)

(でも、なにを言っても──わたしの顔が、勝手にしゃべる)


※コマ:真昼の脳内。地層はまだ一枚も積もっていない。からっぽの地面。


栞「……論理では、真昼さんを疑う理由はありません。でも」


栞、言いにくそうに、けれど正直に。


栞「情報が何もない朝に、たったひとつ観測できたものが、真昼さんの動揺なんです。……ごめんなさい。わたしも、それを無視できません」

真昼「そ、そんなぁ……」

雫「投票を」


一斉投票。──真昼、処刑。カード公開:村人。


燐「よし、読み外れ!」

真昼「よしじゃないですー!!」


※以下、既存どおり(雫の勝利〜チョコに手が伸びない〜「最終日にならないと届かない」)


燐「──でもね真昼。大会でいちばん多い吊られ方が、これよ」

栞「議論が始まる前に、いちばん動揺した人から消える。人狼の、いちばん理不尽なところです」


──そのまま試合続行。数コマ後、勝敗表示:人狼陣営(雫)の勝利。


燐「あーもう、部長が狼の回は勝てる気しない」

栞「……真昼さん、大丈夫ですか」


真昼、壁際で膝を抱えて落ち込んでいる。※例のコミカル泣き顔で。ただし今回は、チョコに手を伸ばして──途中で、下ろす。


※この「お菓子に手が伸びない」1コマ、第2話の「落ち込んでも食べる」との対比。今回は本当に効いてる、を絵だけで。


真昼「……わたしの武器、最終日にならないと、届かないんだ……」


3、部室(日暮れ・ふたり)


燐と栞は先に帰り、部室には雫と真昼だけ。真昼は円卓で戦績表をじっと見ている。雫は衣装ラックの整理をしている。


真昼「……先輩は、すごいなあ」

雫「なにが」

真昼「初日でも、二日目でも、いつでも戦えて……嘘も、ほんとも、ぜんぶ使えて。わたし、先輩みたいには、なれないや」

雫「──なる必要が、ある?」


雫、狼耳をケースに仕舞う手を止めずに。


雫「初日のあなたを守る術は、これから覚えればいい。発言の量を増やす、質問で場を回す、疑われる前に印象を作る……ぜんぶ技術よ。技術は教えられる」

真昼「……!」

雫「けれど、あなたの耳は教えられない。わたしが逆立ちしても手に入らないものを、あなたは最初から持ってる。──羨む方向が逆よ」

真昼「せ、先輩がわたしを羨むことなんて、あります……!?」

雫「…………さあ」


※コマ:ラックの奥。整理の手が、一瞬だけ止まる雫の横顔。表情は見せない。


真昼「あっ、いまの間、あやしいです! 地層に積みました!」

雫「生意気」


真昼、えへへと笑って、それから、ふと戦績表に目を落とす。


真昼「……あのね、先輩。わたし、ちっちゃい頃から、ずーっと不思議だったんです。なんで、わたしだけ嘘がつけないんだろうって」

雫「──だけ?」


真昼「あ……えっと。お姉ちゃんは、嘘つくの、すごく上手いんです」


※コマ:何気なく、少し誇らしげにすら言う真昼。このセリフの重さを、真昼だけが知らない。


真昼「双子なんですよ、わたしたち。顔、そっくりで。……でもお姉ちゃんは、サンタさんの正体も、飼ってた金魚のことも、わたしが泣かないように、ぜーんぶ上手に嘘ついてくれて」

雫「…………」

真昼「いまは、その、離れて暮らしてるんですけど……えへへ、なんの話でしたっけ! そうだ先輩、発言の量を増やす技術って──」


雫「──真昼さん」


雫、ラックの整理を終えて、振り返る。


雫「その姉と、人狼をやったことは?」

真昼「え? ……ない、です。一回も」

雫「……そう」


※コマ:雫の目。何かを計算しかけて──やめる。


雫「なんでもないわ。帰りましょう、戸締まりするから」


4、帰り道〜翌日の部室(引き)


夜道をひとりで帰る真昼。スマホの家族写真フォルダを開きかけて──開かずに、ポケットに仕舞う。


※説明なし。この仕草だけ。


(場面転換)翌日の部室。栞が一枚のプリントを円卓に広げている。


栞「──というわけで、正式な承認申請、出してきました。……が」

燐「が?」

栞「実働4人では、審査で『活動実態が弱い』と言われる可能性が高いそうです。それに、そもそも──」


栞、指を折る。


栞「占い師、人狼、狂人……役職を全部入れた本格戦は、最低5人から。いまのわたしたちは、本当の人狼を、まだ真昼さんに見せてあげられてません」

真昼「ご、5人……」


真昼、ちらりと、誰も座っていない5脚目の椅子を見る。


真昼「……あの。前から気になってたんですけど、お休み中っていう、もうひとりの部員さんは──」


燐と栞、同時にぴたりと止まる。


燐「「…………」」

栞「……その、ですね」

燐「〜〜〜っ、よし! こうなったら新入部員、探すわよ!!」

真昼「あ、あれ!? 流された!?」

燐「作戦名『5人目大捕獲作戦』!! 明日から勧誘よ勧誘!!」


※コマ:拳を突き上げる燐、苦笑いの栞、きょとんとする真昼。──その騒ぎの外で。


最後のコマ:雫だけが、5脚目の椅子を静かに見ている。


(ナレ)5人目を探す旅が、はじまる。


(ナレ)──その椅子の持ち主のことを、真昼はまだ、知らない。


第3話・了

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