第2話「はじめての夜」

1、人狼部・部室(放課後)


放課後の部室。円卓。真昼が息を切らせて駆け込んでくる。


真昼「おはようございますっ! ……あれ、放課後だから、こんにちは……? と、とにかく来ました!」

燐「来た来た5人目……じゃなくて実働4人目! 待ってたわよ〜!」


円卓には既に燐と栞。卓上には伏せられたカードの束と、お菓子の山(個包装チョコ、駄菓子、ラムネ等)。


※コマの隅:円卓の椅子は5脚。1脚だけ、誰も座らず少し離れて置かれている。誰も触れない。説明もしない。


真昼「わ、お菓子……! 部費なんですよね、これ」

栞「はい。ただのおやつではなく、競技規定で認められた糖分補給です。人狼は議論の間じゅう、記憶と推理で脳をフル回転させ続けますから」

燐「要するに頭の燃料! 食べながらやるのが正式スタイルなの。ほら座って座って」


真昼、着席。目の前にカードが配られていく。


雫「──揃ったわね」


雫、準備室から出てくる。手にはルールブックと砂時計。


雫「今日は真昼さんの初講習。栞、進行をお願い」

栞「はい!」


栞、立ち上がって眼鏡を直す。すっ、と背筋が伸びる。(※説明モードの栞は別人のように凛々しい。ここ2回目なので、読者に「型」として認識させる)


栞「本来の人狼は5人以上で行いますが、今日は4人なのでワンナイト形式──夜が一度きりの、短期決戦ルールでやります」


※以下、栞の説明は黒板か図解コマに任せて、セリフは最小限に。

【枠外図解】カード5枚=人狼1・占い師1・村人3。4人に1枚ずつ配り、残り1枚は伏せて中央(墓場)へ。夜に占い師だけがこっそり仕事をし、朝になったら全員で議論→一斉に指差して投票。処刑された人が人狼なら村の勝ち、村人なら人狼の勝ち。


真昼「よ、よるにおしごと……ぎろん……ゆびさし……」

燐「大丈夫大丈夫、一回やりゃわかるって! これはチャンスね! 身内切りやりましょう身内切り!」

栞「先輩! 初心者に教えるための試合って理解してます!?」

燐「だってさあ! 占い師を騙ったあたしが、仲間の狼に黒を出して切り捨てるの! 身内を売って信用を買う……あの背徳の味をさあ!」

栞「今日は4人です。騙る占い師が仲間を売った時点で、村に狼が残りません」

燐「……あ」

栞「あ、じゃないです。」


※枠外注釈:身内切り=占い師などを騙る人狼が、あえて仲間の人狼に「人狼」判定を出して処刑させる戦術。仲間ひとりを失う代わりに「本物の占い師」としての信頼を得る、大人数戦の高等技術。


真昼「(燐先輩、楽しそう……)」

雫「──講習だから、配役は固定にするわ」


雫、カードを表にして配る。真昼=村人。栞=村人。燐=人狼。雫=占い師。


雫「ゲームの流れを一周、体で覚えなさい。……ああ、それと」


雫、衣装ラックを目で示す。


雫「役職を名乗るときは、衣装を着る。CO──カミングアウトの正式作法よ」

真昼「あ、演劇部……じゃなくて、じんろう部っぽい……!」

栞「ひとつだけ、最初に覚えてください」


栞、人差し指を立てる。


栞「衣装は『宣言』であって、『真実』ではありません。」

真昼「……?」

栞「──すぐに、わかります」


2、講習戦(ワンナイト・配役固定)


雫「では──夜になりました。全員、目を閉じて」


※コマ:円卓に伏せる4人。窓の外はまだ夕方なのに、部室の空気だけが夜になる。ここから数コマ、背景を夜の村のイメージに寄せてもいいかも(本作の試合演出の基本文法として)。


真昼(モノローグ)(よ、夜だ……目、閉じてるだけなのに……なんか、どきどきする……)


雫の声「占い師は目を開けて、ひとりを占ってください」


(※実際は配役公開済みの講習だが、所作は本番通りに。雫が静かに目を開け、真昼のカードを確認する仕草)


雫の声「──朝になりました。全員、目を開けて」


がば、と顔を上げる真昼。


真昼「ふ、ふぁい! 朝です!」

燐「元気な村ねえ」

雫「では議論を始める前に──」


雫、立ち上がる。衣装ラックからとんがり帽子を取り、ゆっくりと被る。ローブを羽織る。


※着替えの所作は丁寧に1〜2コマ。帽子の影が目元にかかる画。ここが本作の「変身バンク」の初出。被った瞬間、雫の纏う空気が変わる。


雫「占い師CO。昨夜、わたしは真昼さんを占いました」


真昼「(わ、わたし……!)」


雫、帽子の下から真昼をじっ、と見て──


雫「結果は、『人狼』。」


真昼「──────ふぇっ!?」


※大ゴマ:椅子ごとのけぞる真昼。


真昼「ち、ちが……わたし村人です! カードも村人でした! ほんとです! ほんとですってば!!」


真昼、涙目で自分のカードを掴んで振り回しかける。


栞「わーっ、カード見せちゃだめです!」

真昼「で、でもぉ!」

燐「あっはっは! いい反応〜!」


──と。


雫、すっ、と帽子のつばを上げる。


雫「……ええ。知ってるわ。今のは嘘。」

真昼「…………ふぇ?」

雫「本当の占い結果は──燐、あなたが人狼」

燐「ちぇーっ、バレてーら」


燐、悪びれず両手を上げる。真昼、状況が飲み込めず固まっている。


真昼「え……えっと……雫先輩は、本物の占い師さん、ですよね……?」

雫「そうよ」

真昼「本物、なのに…………嘘、つくんですか!?」


※コマ:真昼の心底びっくりした顔。この驚きが、そのまま読者の学習になる。


雫「つくわ。役に立つなら。」


雫、帽子を目深に直す。


雫「今のは『結果騙り』。わざと偽の結果を出して、全員の反応を観察したの。……そして観察していたのは、あなたの慌てぶりじゃない」


※回想コマ(数秒前):真昼が大慌てしているその脇。──燐が、ほんの一瞬、ふっと肩の力を抜いて笑った瞬間。


雫「疑いが他人に向いた瞬間、人狼はかならず、緩む。……ね、燐?」

燐「うぐっ。……くやしいけど緩んだわ〜。真昼が面白すぎて」

栞「というわけです。本物ですら、嘘を道具に使う。これが人狼というゲームです」


真昼、しばらく呆然と帽子の雫を見つめて──ぽつり。


真昼「……衣装は、宣言であって、真実じゃない……」

栞「! ……はい。そのとおりです」


※栞、ちょっと嬉しそう。教えたことが届いた顔。


真昼(モノローグ)(すごい。……こわい。こわくて、すごい)

(この人たち、嘘とほんとを、道具みたいに持ち替えてる──)


3、数戦のモンタージュ(テンポ重視・見開き〜数ページ)


※ここは短いコマの連打で。時間経過とともにお菓子の山が減っていく。


一戦目(ランダム配役):

燐「はい真昼、目が泳いだ! クロ!」

真昼「な、泳いでませ……(泳ぐ)」

──全員の指が真昼に。処刑。村人だった。


二戦目:

真昼「こ、今度こそ堂々と……わたしは、村人、です!」

栞「……本当に村人なのに、なぜ震えるんですか……」

──処刑。村人だった。


三戦目:

真昼、無言でラムネを口に詰めて何も喋らない作戦。

燐「黙りすぎも怪しい!」

──処刑。村人だった。


※コマ:机に突っ伏す真昼。「本日3回目の処刑……わたし、ぜんぶ村人なのに……」

燐、駄菓子をバリボリ食べながら「逆にすごいわよあんた」。

栞、個包装のチョコを几帳面に開けながら「で、でも、議論はちょっとずつ長く粘れてます……!」


※そして目立たない1コマ:雫の前の小皿だけ、お菓子が一つも減っていない。説明なし。置くだけ。


4、最終戦(ランダム配役)


窓の外、日が沈みかけている。


雫「──最後に、もう一戦だけ」


カードが配られる。真昼、自分のカードをそっと見る──村人。ほっとする真昼。


※読者には他の配役を見せない。ここから情報は真昼視点に固定。


雫「夜になりました」


暗転の間。……そして。


雫「朝になりました」


一拍おいて──雫が立ち上がり、とんがり帽子を被る。


雫「占い師CO。昨夜占ったのは──真昼さん」


真昼「ふぇっ!? ま、また、わたし……!?」


雫「結果は、『村人』」


真昼「…………」


※コマ:真昼、ぽかんとしている。


真昼「……えっ。え、ほんとですか? ほんとに村人でしたか?」


雫「あなた自身がいちばんよく知っているでしょう」


真昼「そ、そうでした!」


燐「ちょっとぉ! なんで真昼なのよ! 昼間さんざん占ったじゃない!」


雫「初心者に、白をもらう感触を覚えてほしくて」


燐「えこひいき!!」


栞「対抗COは……なし、ですか。占い師を名乗るのは、雫先輩だけ」


※枠外注釈:対抗CO=「自分こそ本物だ」と同じ役職を名乗り出ること。

      対抗が出ない占いは、通常かなり信用される。


栞「……となると、狼は燐先輩かわたしのどちらか。真昼さんは白進行です」


真昼「し、しろ……!」


※コマ:真昼、両手を胸の前で握る。ぱあっと明るくなる。

 ※作画:この子が卓の上で「疑われていない」のは、

  この作品で初めてです。ここは思いきり嬉しそうに。


真昼(モノローグ)(わたし、疑われてない……!

        うれしい……! 人狼、たのしい……!)


燐「うわ、めちゃくちゃ喜んでる」


栞「……真昼さん、白進行と確定白は違いますからね。

  占い師が偽なら、その白には何の価値もありません」


真昼「ふぇ」


※枠外注釈:白進行=真偽不明の占い師が出した白。

      論理的に村人と確定した「確定白」とは別物。


燐「ま、部長が真ならね。──あたしは疑ってるけど!

  結果騙りでしょ! さっきの講習と同じやつ!」


雫「講習と同じだと思わせる──その読みごと利用する騙りだったら?」


燐「うぐぐ……そういうこと言うから疑心暗鬼になるのよぉ!」


真昼、ぐるぐる考えながら、無意識にチョコを口に運ぶ。味がわからない。


真昼(モノローグ)(えっと……雫先輩が本物なら、狼は燐先輩か栞ちゃん)

(雫先輩が偽物なら……雫先輩が、狼)

(……わたしは、どっちにしても、村人)


※コマ:真昼、自分の手元のカードを見る。村人。

 ※作画:卓でただ一人、なにも失わない位置にいる子の絵。

  だからこそ、次のコマが効きます。


栞「……整理します。ですが根拠が、どちらにもありません……」


雫「あるわよ。わたしの結果は本当。それだけ」


※コマ:帽子の下の雫の目。静かで、揺るぎない。誰が見ても「本物」の目。


燐「〜〜〜っ、その顔で言われると自信なくなるのよね〜!」


雫「投票の時間よ。──せーの、で指を」


全員、手を上げる。緊張。真昼の手が、震えている。


燐「なんであんたが震えてんのよ、白でしょ白」


真昼「わ、わかんないから震えるんです……!」


真昼(モノローグ)(わかんない。わかんない、けど──)


※ここから真昼の脳内コマ:今日一日の断片が、ぱらぱらと再生される。

・講習で嘘をついたときの雫──「結果は、『人狼』」。声の温度。

・種明かしのときの雫──「ええ。知ってるわ。今のは嘘」。するりと軽い。

・そして、いまの雫──「わたしの結果は本当。それだけ」。


真昼(モノローグ)(……あれ?)


コマ:断片が、かち、と噛み合う音のイメージ。

 (※才能の初起動。派手にしすぎないこと。小さな「あれ?」でいい)


雫「せーの──」


一斉投票。


燐の指→栞へ。栞の指→燐へ。雫の指→燐へ。


そして、真昼の指は──


──まっすぐ、雫へ。


※見開き推奨。円卓の俯瞰。

 2本の指が燐に集まる中、1本だけが逆を向いている。


燐「へ? 真昼、あんたどこ指して……」


栞「え……燐先輩に2票、雫先輩に1票、わたしに1票……

  最多は燐先輩で、処刑は──」


雫「……待って」


雫、集計を制して、真昼をじっと見る。


雫「理由を、聞いてもいいかしら」


真昼「ふぇっ!? あ、あの、ご、ごめんなさい、その……

  りゆう、理由は……ないんですけど……」


真昼、指を下ろせないまま、しどろもどろに。


燐「ないんかい! っていうかあんた、部長に白もらってんのよ!?

  庇うならまだしも、なんで刺すの!?」


真昼「そ、そうなんですけど……!」


真昼「……えっと。うまく、言えないんですけど……」


真昼「雫先輩の『本当』が……きょう一日で、いちばん、

  本当っぽくなかった……です……」


※無音のコマ。


※コマ:雫の目のアップ。──わずかに、瞳孔が開く。


雫「…………」


雫、ゆっくりと自分のカードに手を伸ばし、卓の中央に、ぱたり、と表にする。


──人狼。


燐「「ええええええええ!?」」


栞「う、嘘……対抗なしの占いCOを、完騙りで……

  しかも、白を出した相手が──」


※コマ:栞、真昼を見る。


栞「真昼さん。あなた、今日いちばん安全な席に座ってたんですよ」


真昼「え」


栞「偽物の白でも、卓の上では効きます。

  占い師が白と言った人を、みんな進んでは吊りません。

  今日一日、あなたは疑いの外にいられた」


栞「それを──自分から、降りたんです」


真昼「お、降りた……?」


栞「わたしなら、できません。

  守ってくれてるものを、根拠もなしに手放すなんて」


真昼「そ、そんなつもりじゃ……!

  ただ、なんか、へんだなって思っただけで……」


燐「それが一番こわいのよ」


※コマ:燐、駄菓子の袋を握ったまま、真昼を見ている。

 いつもの騒がしさが、一段だけ引いている。


燐「あたし濡れ衣で処刑されてんじゃない!! 部長ひどい!!」


※作画:燐の「こわい」は一コマだけ。すぐいつもの調子に戻してください。

 この子は真顔でいる時間が短いほど、真顔の一コマが効きます。


騒ぐ二人。その中で。


雫は、真昼だけを見ている。


雫「……勝ったのは、わたしよ。あなたの一票は、届かなかった」

真昼「は、はいっ、すみません、へんな投票して……」

雫「──けれど」


雫、とんがり帽子を、ゆっくりと脱ぐ。


雫「この帽子の中を覗いたのは、今日、あなただけ」


真昼「……?? えっと、それは、ほめられて……?」

雫「さあ。どうかしら」


雫、視線を外し、卓の上のチョコをひとつ取って、口に運ぶ。


※燐と栞、それを見て、ぴたっと静止する1コマ。(意味は説明しない。ふたりだけが知っている「合図」)


燐「……ね、栞。部長って、あんな顔で笑うっけ」

栞「……初めて見ました」


最後のコマ:窓際で夕陽を背に、帽子を胸に抱えた雫の横顔。口元に、ほんとうに薄く──笑み。


雫(モノローグ)(──へえ)


第2話・了

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