概要
付き合ってはいない。ただ、毎晩どちらかの部屋にいる。
築二十年、家賃四万二千円。壁の薄さだけが取り柄のアパートの隣室に、七年ぶりの幼馴染が越してきた。
七瀬凛。小学六年の三月に町を出ていった、二軒隣の女の子。汗だくで段ボールを運ぶ彼女を手伝って、名乗って、そこでようやく気づいた。俺は、この女のことを何ひとつ覚えていなかった。
壁が薄いから、生活が全部わかる。ドライヤーが止まる時刻も、深夜に何かを倒す音も。冷蔵庫の距離で暮らしていれば、いつか手も触れる。
やがて俺たちは、名前のない関係になった。
「名前つけたら、いつか終わるじゃん。始まったものは終わるでしょ。始まってないものは、終われないから」
七年前の三月二十六日、彼女は神社の石段で二時間、俺を待っていた。俺は行かなかった。忘れていたからではない。
七瀬凛。小学六年の三月に町を出ていった、二軒隣の女の子。汗だくで段ボールを運ぶ彼女を手伝って、名乗って、そこでようやく気づいた。俺は、この女のことを何ひとつ覚えていなかった。
壁が薄いから、生活が全部わかる。ドライヤーが止まる時刻も、深夜に何かを倒す音も。冷蔵庫の距離で暮らしていれば、いつか手も触れる。
やがて俺たちは、名前のない関係になった。
「名前つけたら、いつか終わるじゃん。始まったものは終わるでしょ。始まってないものは、終われないから」
七年前の三月二十六日、彼女は神社の石段で二時間、俺を待っていた。俺は行かなかった。忘れていたからではない。
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