ネムルの街の0番街

吾郷夜

図書館の帰り道

 ネムルの街には9つの街。でも知ってるかい?

 あの街にはもう1つ「0番街」があることを。


 全くどこを探したって見つからない。すぐに見つかるものでもないのは分かっている。けれど、僕があの日見たものが何だったのかを確かめたいんだ。


 夕刻、図書館からの帰り道。交差点で立っていると、肩をパンッと叩かれたので後ろを振り返ると、ユージンがいた。

 「おい、カナタ。お前また図書館に入り浸ってたのか?」

 「ああ、ユージン。いつものとおりあれを探してたんだ。それにネムルの図書館は大きいんだ。僕が探しているものの手がかりもきっとどこかにはあるはずだ」

 「まったくお前も変な奴だよな。0番街に興味を持つだなんて。あれは都市伝説だって言ってるだろ。関わったって碌なことにはならない。そんな類のものだぜ」


 0番街。ネムルの街の幻の街。

 1番街から9番街の9つの街で構成されているこの街には昔から、「0番街」というあるはずのない街の噂が囁かれている。 まあ、それ以外は住みやすい良い街だ。


 僕とユージンの通う学校は3番街にある。図書館もそこだ。ユージンは生粋のネムルっ子だが、僕は一度この街を離れた。

 でもどうしても「0番街」を見つけたくて、街を離れて5年経った昨年、この街の学校に入る形で帰って来た。そこで昔からの知り合いのユージンと再会した。


 「それにしてもカナタ。今日はいつもにも増して眠そうな顔をしてんな」

 「まあね、せっかくの休みに早起きをして1日中図書館に籠った結果、成果なしとも来れば眠くなるよ」

 僕はあくびをしながら答えた。


 信号が変わった。

「そうか、まあ気を付けて帰れよ。お前の今の家は7番街だったよな。今度遊びに行かせてくれよ。またな来週」

 ユージンはそう言って去って行った。ユージンの家は2番街。僕が前に住んでいた家もそこだ。


 ユージンと別れて駅まで向かう。5年ぶりに来たこの街は変わっていないようでどこか変わった気がする。

 まあ成長期の5年は大きい。物が見える高さから違うのだから。以前は見えなかった景色が僕にも見えるようになってきた。


 ネムルの街の主な移動手段は電車とバス。3番街と7番街を行き来する僕の移動手段は大体電車だ。

 駅のホームは珍しいことに人がまばらだった。そこそこ大きな街だからそれなりに人もいるけれど、まあそんな日もある。


 7番街へ向かう電車をホームで待ちながら、ぼんやりと考える。

「ネムルの街の0番街」というのは、外でもそれなりに有名な噂だった。 曰く、「0番街」に行って帰ってきた者はいるとかいないとか。行って帰ってきたという人の多くは「白昼夢のようだった」というばかりで、どんな街だったのかは要領を得ない。「0番街にはネムルの街の秘密が眠る」なんて噂もあったけれど、果たしてどうなのか。そして、僕があの日見たものは一体何だったのか。


 ホームに電車が入って来る。赤いふかふかの座席に木製の窓枠。そして年季の入った床と天井の装飾たち。

 ネムルの街は古くからある街というだけあって、歴史のある構造物が多い。電車だってそう。もう何十年も動いていそうな車体で、それでいて古いとはあまり感じない。


 ふんわりと包んでくれるような座席に座り込むと眠気が増してきた。車両の乗客も今日はまばらだ。

 まあいいや。7番街に着くまで目を閉じて休むとしよう。心地よい疲れもあったためか、僕にしては珍しくすんなりと眠りの底へ落ちていった。



——

 あの時、もし僕が眠らずに起きていたのなら、僕は今ごろ、何をしているだろうか。


 0番街。ネムルの街の幻の街。

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