破る

塚本左中間

 

 14歳の夏のころだった。その夜、私は去年と同様、夏休みを使って父方の祖母の家に帰省していた。襖でリビングと区切られた、昔おばさんが使っていたという寝室で、一人で寝ていると、なにか下腹部に貫くようなひどい痛みが襲ってきて、目を覚ました。

寝る前に飲んだハーブティーの効能は一瞬にして消し去られ、頭の中は恐怖でいっぱいになった。

私は恐る恐るその痛みの根源を覗いた。ちょうど私のの筋から、友達と選んだかわいいパステルカラーのパジャマから布団へ、血だまりが広がっていっているのを知った。

なんで?

なにが?

どうして?

 私は祖母を起こし、知らせた。祖母は私の必死の訴えを聞いているうちに、なにやら納得したような表情を浮かべ、「自分も同じ経験をした」と教えてくれた。そして、明日は近くの産婦人科に行こう、と約束してくれた。


 女性の先生が対応に当たってくれ、すごく安心した。

 長い検査の末、「処女膜が破られている」ことが判明した。

私がハードな自慰行為を行ってしまったがためのケガではなく、刃物で切られたように、鋭く細く速く。

 祖母も父も私も、先生を疑うほかなかった。けれど、本当だった。

 帰ってきてから祖母の家の車庫、玄関、庭につけていた監視カメラを確認してみても、怪しい人間は何も映っていなかった。

 唯一「不審なもの」を挙げるとするならば、薄く黒い帯上の何かが動いたことぐらいか。


 父はその日の夜、晩御飯を食べた後、家の隣にある古い漆喰の蔵から、古い巻物を持ってきた。タイトルは筆でぐにゃりと書かれていてうまく読み取れなかったけれど、「妖」の字だけは把握できた。

 巻物には「妖」の名にふさわしく、数々の化け物の姿が描かれていた。人面の牛とか、柳の木の下にたたずむ女の幽霊などが描かれており、不気味に感じた。

父はその巻物に似合わない新しいピンクの付箋が挟んであるところまで巻物を広げ、止めた。ひどくゆがんだ顔で、右手に包丁を持ったがりがりの袈裟姿の男と、布団の上で血を流して倒れている若い女の人が描かれている。

女潰僧にょかいそう」という名前だそうで、日付が変わるころ、若く美人な娘のいる屋敷に忍び込み、まず彼女の処女膜を包丁で破る。次の日、彼女のを指でこねくり回し、慣らす。

最後に、彼女はどこかに消える。

彼女の捜索が打ち切られてから1週間後に、彼女のめちゃくちゃに犯された、土と葉と女潰僧の体液まみれになった遺体が、家の門の前に置かれる。


 それを聞いたとき、私のは燃えるように収縮し、身体が火照った。

興奮したのだ。ありえない存在に犯され、はめ殺しにされる伝説に。

興奮したのだ。ありえない存在に見初められ、数十年ぶりに彼の欲に火を点けられる肉体を持っていることに。


 私はその日のうちに祖母の家を出て、東京の家に帰った。

父には申し訳ないが、今年の帰省も、自分の娘は泊まらせないことにしている。

祖母と私に似て、彼女も美人だからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

破る 塚本左中間 @TsukamotoLCF0813

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画