概要
冗談の下手な男の、一世一代の片想い。
篠原造酒助——実務家肌で、無駄口を叩かない、あの侍大将。
安田喜三郎はたった一度陣中で飯を共にしただけの男に、想いを寄せていた。生真面目で、冗談が下手で、輪の中にうまく入れない自分にも、困ったような顔で笑ってくれた。それだけで救われた。
誰にも知られてはならない想いだった。武士として口にすることさえ許されない情だと、分かっていた。それでも想いは消えなかった。
砦が囲まれていると聞いたとき、真っ先に浮かんだのは、義でも忠でもなかった。また会える――その、恥ずかしいほど単純な喜びだった。
峠には、何かが待っていた。
意識が薄れゆく中、彼が最後まで手放さなかったのは、自分の名前でも、生まれた村の記憶でもなかった。ただ一つ、あの人の名前だけだった。
一度も届かなかった想いが、最後にどんな
安田喜三郎はたった一度陣中で飯を共にしただけの男に、想いを寄せていた。生真面目で、冗談が下手で、輪の中にうまく入れない自分にも、困ったような顔で笑ってくれた。それだけで救われた。
誰にも知られてはならない想いだった。武士として口にすることさえ許されない情だと、分かっていた。それでも想いは消えなかった。
砦が囲まれていると聞いたとき、真っ先に浮かんだのは、義でも忠でもなかった。また会える――その、恥ずかしいほど単純な喜びだった。
峠には、何かが待っていた。
意識が薄れゆく中、彼が最後まで手放さなかったのは、自分の名前でも、生まれた村の記憶でもなかった。ただ一つ、あの人の名前だけだった。
一度も届かなかった想いが、最後にどんな
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