Dive.15≪終≫【帰って来た仲間と日常……それぞれの、新しい明日へ。】
「酒が飲める酒が飲める酒が飲めるぞ───────ぃ!」
「真ッ昼間から飲むな」
「いいじゃないですかぁ
「飲まない。食わない」
「えー食べないとぉ~! まだ体力は全快じゃないでしょー?」
「今は眠い。少し寝かせろ」
「チェー……じゃあ
「白飯一合持ってきてー」
「
「駄洒落じゃねぇよ」
医療班が動かす医療ルーム。
「なぁ市豪ぉ。そう言えばあの後どーなったの?」
「あの後って?」
「
「あぁ。爆散したよ」
「マジ!?」
「最終的にはパイロットが自らの意思でって感じだけど」
「なーんだ。つまんな」
「はァ?」
「ジョーダン冗談。でも、これでひと段落って感じだな」
「あぁ。これで剣先さんも、みんなも救われるな」
「……お前、マジですげぇや。今回のMVPじゃね?」
「そうかな? そうかも」
「てかさー。
「一応生きてる。病室違うから分からんけど」
剣先、
「可下郎……すまない。私が出撃するなんて言ったから……お前は目を……」
「何言ってるんですか。こんなの、覚悟してたことです。ってか、両目なだけまだよかったなって思いますよ。一生寝たきりみたいなのはショックですけど、両目くらいじゃどーってことないです」
「そうか……そうか…………」
「あんまり、自分を責めないで下さいね。六波羅さん」
「そうですよ。形はどうあれ、こうして
「九条……あぁ。そうだな」
「あー! 九条さん! ここ禁煙ですよ!」
「ばっ、バレたか……!」
「いや隠す気ないでしょぉ! 火ぃ消して下さい!」
「そうだな……ごめん。煙ったいよな」
「いや! 報知器鳴っちゃいます!」
「そっち!?」
九条は剣先に撤退を命じられたことで無事だった。その後は前線を離れ、
「六波羅さんも剣先さんも、九条さんも、無事でよかったです」
「だな。可下郎も、本当によく頑張ったな」
「えへへ……六波羅さんに褒められると……なんか、変な気分になりますよ」
「そういえばだが、結局日本政府軍はどうしたんだ?」
「それが……実は停戦の申し出があってから、パッタリ音信不通なんだ。そしてそれと同じタイミングで、深瀬さんもどこかに行っちゃって……」
「どこかに行った……?」
「えぇ……すっかり連絡も来なくなってしまって……」
深瀬はあの後、剣先たちに「脳彗脊界での目的を達成した」とだけ語り、それ以降行方を眩ませてしまった。あの後から彼がどこに行ったのか、何をしているのか、誰も知らずにいる。彼と共に戦場を駆け抜けたリゼルグ・Lも剣先たちに任せると言い残し、開発センターに残している。
「深瀬さん的にはもう役割も終えましたし、もう我々が頼むこともないが……」
「そうですね……とにかく、今度会ったらお礼を言いましょ」
……それから二週間が流れた。戦闘に出ていた仲間たちは次々に復帰し、元の日常へと帰って来た。市豪や酒田も、これまで通りの生活を送れるほどに復帰した。
市豪は前に九条と会話した喫煙所で、九条と弐式と共に一服していた。
「九条さん、これ、この前貰った時のお返しでっす」
「おぉ、覚えててくれたか。ありがとう」
「いえいえ」
「手巻きか……何を巻いてるんだ?」
「それは……な、い、しょ」
「怖いな……」
「イリーガルなのは巻いてないですよ!?」
「そ、そうか……?」
九条は市豪から渡された手巻き煙草を恐る恐る吸った。
「……うん。おいしい」
「ホントか?」
「弐式さんも吸います?」
「え……まぁ、それじゃあ」
弐式も市豪から受け取り、同じように煙を吸った。
反応は、九条と同じだった。
「今度は、どこか食べ行った時に吸いましょうよ。食後の一服って美味しいんですよね!」
「確かにな」
「剣先さんは吸わないんですか?」
「剣先さんは元々吸わないし、今吸ったら色々まずいからな……その時は三人でな」
「色々……?」
「察しろよ市豪。今は、もう一人でも二人でもないんだ」
「あっ……! なるほどぉ! それはおめでた~」
剣先は現在、四谷と共に軍を離れている。彼女にも新たに守るものが、見つかったのだ。
「おーれも混ぜルォォ?」
大声が聞こえたかと思ったら、泥酔状態の酒田が喫煙所に入って来た。一升瓶を片手に、重そうな瞼をしている。市豪はいつものように迎えたが、弐式は相変わらず少し嫌そうな顔をしている。
「酒田って吸うのか?」
「たまーになぁ。気管支弱いけど」
「じゃあ吸っちゃダメだろ」
「あれぇ~? 弐式さ~ん! もう歩けるようになったんすねェ~」
「うっせぇ……」
弐式は煙たがるが、酒田は構いはしない。
「……なぁ、酒田」
「なんすか~弐式さ~ん」
「その……はぁ……市豪から聞いた。お前、活躍したそうだな」
「えっへへへぇ~! そーなんすよ!」
「……俺、お前をただの飲んだくれのクソバカヤローだと思ってた」
「ひっど」
「でも……あの戦争に貢献したなら、軍人として認めなければいけない。認めよう。酒田。よくやった」
「おおおぉ!? なんだなんだ~? どういう風の吹き回しだぁぁぁ?」
「……だぁぁぁうっせぇなぁ。これが無きゃお前は天才なんだがなぁ……」
「天才ってのは、意外と抜けてるもんなんすよ。弐式先輩だってそーでしょ?」
「…………はぁ。全く。この
文句を言いつつも、その顔は、一人の仲間を認めた軍人の微笑をしていた。
「よっしゃ! 弐式先輩に認められちった~!」
「取り消そうかな……」
「え────ぇ! そんなこと言わんでくださいよぉ~! 俺の相棒なんですから弐式先輩はぁ~~! 俺も誤解してたとこあるしぃ~」
「全く……どういう風の吹き回しだ?」
そう言って、二人は小さく、微笑み合っていた。
和解とは違う。でも、その顔には、少しだけ芽生えた友情が滲んでいた。
夜になり、市豪は屋上で夜空を見上げていた。この日は、いつもよりも星が綺麗に見えた。夜風が傷が癒えた身体を優しく撫でていく。夜空なんてテント暮らしだった頃にも腐るほど見て来たが、この夜の星空は、いつもよりも、綺麗だった。
「おい、もう寝る時間だろ」
「……あ、
そこに高梨が来た。彼は隣町の別の病院で治療を受けており、先日退院したばかりだった。彼に会うために、わざわざここまでやって来たのだ。軍の施設に入ることが出来たのは、市豪の関係者であることが事前に知られていたからだった。
「お前……まだここにいる気か?」
「えぇ?」
「もう戦争は終わったんだろ? 日本政府も停戦を申し込んだらしい。もうここにいる理由はないだろ?」
高梨は市豪に一緒に帰ろうと言った。もちろん市豪には当てはない。それを受けて、高梨は自分の部屋のひとつを市豪に貸すと言った。いわゆる、シェアハウス形式で生きていこうと言ったのだ。
だが、市豪の答えはこれだった。
「俺、次は別の相手と戦うって決めたんだ」
「は……? 別の相手?」
「次はさ、この国を脅かすような奴ら。犯罪組織とか、テロリストとか」
「何言ってんだよ市豪! このまま俺と一緒に暮らせばいいだろ!」
「俺さ……迷惑かけっかもしれない。お前が殴りたくなるほどの。でも、ここにいれば、俺も持ってない何かが手に入ると思うんだ。酒田や弐式さん、剣先さんに六波羅さん、その他色んな仲間と過ごして来て、この世から争いをなくすことはできないけど、その争いの炎から、お前とか
「お前なぁ……」
高梨は頭を抱えた。彼の言うことは本当に突飛なもので、相変わらず受け入れるには簡単じゃない。でも、そんな彼の生き様も、どこか泥臭く、生々しく、そして、一番「生きている」感じのするものだと、高梨は初めて、認められるようになっていた。(そうでなければ、あの時、自分を助けることも、出来なかっただろうから。)
「はっ……そうかよ。じゃあ、しばしの別れだな」
「……そういうことになるな」
「でも、連絡はしろよ? 別れと言えど、今生の別れなんかじゃないからな」
「ハハハハハハ! だろうな! あたりめぇだ!」
そう言って、最後に二人は、握手を交わした。
「元気でな。高梨」
「お前もな。市豪」
そう言って、市豪は先に部屋に戻っていった。
「全く……
高梨は星が満天に輝いている星空を、ジッと見上げていた。あの星の向こうには、どんな名前の星があるのだろう。そこには、どんな世界が広がっているのだろう。脳彗脊界なんていう摩訶不思議な世界があったんだ。星の向こうにくらい、何かがあってもおかしくない。もしそれを、また彼と見つけて、名前をつけられたら……。
なんて、考えてしまう。
「今日は冷えるな……」
高梨はそっと、屋上を後にした。
『脳彗脊界で俺は{君}を救う』 完。
脳彗脊界で俺は{君}を救う 伏見翔流 @Fushimi_Syouri
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