第12話 組織 ④
「賢治? 大丈夫か…」
「…………」
俺の問いに賢治は応えない。
青ざめていた顔色はさらに蒼白になり、完全に血の気が引いていた。
(けんちゃん? ご飯にしよ? なに、どうしたの…)
「理久…お前…」
(…………)
「くっ…、う…っ」
賢治が、怯えてるような顔で額に掌を押しつけた。
もう片方の手で理久の肩を掴むと、賢治は必死に何かを考えるように、喉の奥で低く唸った。
(けんちゃん…)
「理久…、なんで…」
(見えんの? やっぱ隠せないか、ふぅ)
「なんで? 理久、あんなに嫌がってたのに…。なんで?理久っ、分かってやってんの? あいつらが――」
(だってしょうがない。オレ、ここで“エス”って呼ばれてるんだよ…、どうしようもないよ…、逆らえない…逆らったら…)
「理久っ、オレが…オレのことはいい…、いいから…理久――!」
(ダメだよ…、けんちゃん…)
「理久っ!」
殴りかかるように理久の胸倉を掴んで詰め寄るその形相は、俺が知ってる賢治じゃない。
あの賢治がそんな顔もするのかと、ただ驚くばかりだ。
小さな子供に暴力を奮う一歩手前にしか見えなくて、気づけば、俺は二人の間に割って入っていた。
「賢治っ、やめろってっ、どうしたんだよ、なに…いったい…」
「…………」
(…………)
賢治はその場に、膝から崩れるようにペタンと座り込んだ。
そのまま、遠くを見つめて動かなくなってしまった。
「賢治?」
「…………」
俺も一緒になってしゃがみ込み、賢治の顔を覗き込むが、まるで反応がない。
すぐそばで立ち尽くしている理久の顔を見上げると、視線が合う。
(ごめんね…、驚かせちゃったよね、蒼井君。なんでもないよ。ちょっと…、けんちゃんが、自分のPSYで…、オレが外で見てきたものが“見えちゃった”みたいで興奮してるだけ)
「…………」
(十年もこんなとこにずっといたらさ…、やっぱり、その…、外の世界って刺激が強いから)
「……理久」
違う…ってすぐに思った。
理久は嘘を言ってる、ほんとうのことを言ってない。
賢治の様子が普通じゃない、理久も…いつもと違う。
(蒼井君?)
「…………」
なに…
なにかが……
俺の中に流れ込んでくる。
これは…なに…
悲しみと怒りと…、黒くて重い巨大な塊が…
裏切り。疑心。孤独。
絶望。虚無。
負の感情のすべて。
っ……
何もない。
真っ暗な世界が、目の前に広がっていく——
(蒼井君っ、 ちょ…、けんちゃんっ、蒼井君にマインド“解放”しちゃダメだっ、)
「え……」
賢冶が理久の声にビクッと反応して、振り向いた。
ああ…よかった…
いつの賢治の顔だ、ちょっと不安気で…でも…
賢治の良さが滲み出ていて…優しくて…見てる方が安心するような…
最初に俺が見た時の賢治の顔だ…
(蒼井君っ、 しっかりして、蒼井君っ)
「っ……蒼井君っ、ごめんっ、オレ…、どうしよう…、蒼井君っ」
なんで……
なんで二人してあわててんの……
そんなに肩を揺するなって、痛いじゃん……
俺は大丈夫、それよりも…これって……
(けんちゃんっ、 彰朗ちゃん呼んでっ 、急いで、早くっ)
「………」
(賢治っ、急げって言ってんだろっ)
「っ…、ごめん、ごめん蒼井君っ」
理久が怒鳴っている。
そんな理久…初めて見るかも。
見た目が十二歳の理久が、大人の賢治を怒鳴ってるなんて……
なんか、面白い図だな。
相手は章朗なのか、賢治が半べそをかきながらここの通信機で何か話している。
(蒼井君っ、 蒼井君っ、 オレの声が聴こえないのっ、蒼井君っ)
~ N ~ Time Stranger 達月実 @Rukanoa1234
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