本作は、小さな広告代理店という身近なビジネスの舞台や朝の丁寧なルーティン描写の中に、非日常的な不思議がすんなりと入ってくる一作となっています。
特筆すべきは、不思議な現象や怪異がごく自然に溶け込んでいる街の空気感であり、作者様の丁寧な筆致により、ある種の「心地よさ」を演出することに成功している点です。
おそらく多くの読者様が、「自分もこの街に住みたい」と思ったのではないでしょうか。
それは、単なるホラーや怪異退治ものとは異なり、怪異の背景にある孤独や未練、大切な誰かを想うという「心に触れる」という構造が盛り込まれているためと感じました。
「人の心の置き忘れ物」や、記憶の化身として丁寧に紐解き、想いをほどいていくアプローチがなされているところから、作者様自身が、「やさしさ」を知る方であり、物語についても丁寧に接してきたからこそと伺い知れます。
そんな、小さな広告代理店を舞台に、街に潜む不思議な怪異とそこに込められた人々の想いを優しくほどいていく、笑えて切ない現代日常ファンタジー。
日常と非日常の融合の巧みさに魅了されるもよし、切なくもあたたかいファンタジーが好きな方もよし、是非一度、お読みいただければと思います。
【レビューコンテスト応募】
小さな広告代理店「いなり広告社」を舞台に、人と怪異が交差していく日常怪異ファンタジーです。
第二章まで読ませていただきましたが、まずこの作品は導入がとても楽しいです。広告代理店という身近な場所から、幽霊や不思議な存在が当たり前のように物語へ入ってくる。その自然さが心地よく、悠真さん、透子さん、迅さんたちの軽快な掛け合いもあって、すぐに「この街の続きを見たい」と思わされました。
第一章「洋食屋のウサギ」は、閉店した洋食屋に残された想いが切なく、胸に残るお話でした。怪異はただ怖いものではなく、人の記憶や未練、誰かを大切に思った気持ちが形になったものでもある。そんな、この作品の優しいまなざしがよく伝わってきます。
一方、第二章「呉服屋の魔法少女」は、和傘で空を飛び、不届き者にお仕置きする魔法少女という入り口がとにかく魅力的です。コミカルで楽しく、アクションもあり、思わず笑ってしまう場面も多いのですが、読み進めるうちに、その明るさの奥にある一人の女性の願いや痛みが見えてきます。
笑えるのに、ふと胸が締めつけられる。切ないのに、最後には少し前を向ける。
そのバランスが本当に素敵です。
一話ごとに違う怪異事件を楽しめる読みやすさがありながら、いなり広告社の面々や街そのものにも少しずつ惹かれていく作品です。怖さ、笑い、アクション、温かさ、そしてほろ苦さ。いろいろな味わいが詰まっていて、続きを追いかけるのが楽しみになる物語でした。
夜のコンビニ駐車場で缶コーヒーを飲んでいたら、隣に神様が座ってきても、この作品の街なら「まあ、ありえるか」と思ってしまう。不思議なのに生活感があるんです。『いなり広告社と街の不思議』は、怪異を倒す物語というより、“人の心の置き忘れ物”を拾い集める物語なのが印象的でした。
焼き味噌を愛する貧乏神アン子の妙な親近感も、透子たちの少し距離を置いた優しさも絶妙で、読んでいるうちに「この街に住みたい」と思わされます。特に、怪異を単純な悪にしない視点がすごく好きでした。怖さの奥に、孤独や未練や滑稽さがちゃんと息をしているんですよね。
笑える場面でふっと切なくなり、切ない場面でなぜか温かい。読後、味噌の匂いが恋しくなるような、静かに心へ残る作品です。