概要
文子は、達者かね。──三分ごとに戻る問い
午後の光、ラジオの雑音、色褪せた菓子箱。訪問介助者の葵は週に三度、認知症の老女・静枝に古い手紙を読み上げる。差出人はすべて妹の文子。返信のない一方通行の束。写真の左端は鋏で切り取られ、仏壇の位牌は二つきり。静枝がかつて「忘れると決めた」もの。そして束の底に、ただ一通だけ切られていない封が残る——。忘れることを選んだ記憶と忘れゆく記憶。読む声が絶えたとき、名はどこへ降りるのか。
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