Liner Notes-Case.2

・タイトルの元ネタは劇場版仮面ライダーカブトのタイトル『GODSPEED LOVE』。GODSPEEDとは「神の祝福」という意味で、つまり『愛に髪の祝福を』というタイトルなのだが、劇中ライダーの能力のこともあって「神速の愛」だと思った人は多いと思う。本作のGODSPEEDはもちろん神速の方の意味だ。


・凶器が太陽光というのはこの世界観でなければ不可能なトリックで気に入っているのだが、光ファイバーの照明なんて読者のほとんどが知りもしないだろうし、そういうのを真相に持ってこられても……と思っている読者がいたら申し訳ない。光ファイバー照明の存在があまりにもトリックとの距離が近すぎるため、適度な伏線が思いつかなかった。


・「吸血鬼の宗教団体」というアイディアは、近年チリで悪魔崇拝が流行っているという話から着想を得ている。ニュースで知った程度の知識しかないのだが、その教団の司祭曰く「本当に崇めているわけではなく、児童への性的虐待など醜聞の続くカトリック教会からの離反のシンボルである」と語っていて、この世界観では悪魔崇拝を吸血鬼崇拝に置き換えても成立するのではないかと考え、今に至った。


夜久やく逸彦いつひこのテロ計画は桃野雑派の『星くずの殺人』の動機が元ネタ。舞台設定を活かしきったあまりにも壮大なワイダニット、同じツアーに参加しただけのメンバーを皆殺しという非道な手段さえ否定しきれなくなってしまう、現在の世界情勢の救いのなさ。全てが結実した本当に素晴らしい動機だと思っている。


夜久やくの行動は月生げっしょうが言っている通り安易な暴挙でしかないわけだが、ヰ坂自身、彼のような思いを抱くことが度々ある。「下」からの暴力は否定される一方で「上」は軍や警察と言った暴力装置を独占し、「下」を服従させる権威を作り出しているのだ。暴力では何も変わらないとはよく言うが、暴力が世界の秩序を成り立たせているのは紛れもない事実であり、所与の暴力を透明化する欺瞞がそこには潜んでいるのではないか。


夜久やくを突き動かしたものは、近年よく聞く「ナラティブ」に他ならないと思う。夜久やくのテロ計画は彼のターゲット以外の人々だって当然に巻き込まれるわけだが、そういう個々の事情は弱者対強者、という俯瞰的な構図の前に必要な犠牲として矮小化されてしまう。太陽が悪魔派への破れかぶれな報復に出たのだって吸血鬼対人間というナラティブに囚われた結果だ。人間は自分の身の丈を超えたものに寄りかかってしまう。個別具体的に、矮小な自分と向き合い続けることに時に耐えられなくなるからだと思うが、やはりそれは、少なくとも本作においての正しい生き方から遠ざかる道にちがいない。


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吸血鬼たちの殺人 ヰ坂暁 @sunlight

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