第38話 静寂の嵐と、文化祭直前の告白大会

 穂状さんの怒りの突入によって、更衣室での甘い密室劇はどうにか(物理的に)強制終了させられた。


 ……が、一度火のついた少女たちの情熱と独占欲が、そう簡単に冷めるはずもなかった。


 翌日。

 更衣室での出来事を猛省――するどころか、才女たちの間には「もう遠慮も手加減もしない」という無言の協定のようなものが出来上がっていた。


「なつめ。今日の昼休み、屋上に来なさい。二人きりで話があるわ」


 登校直後、私の席へ真っ先に歩み寄ってきた三郷が、クラスメイトの視線も気にせず宣言する。


「ちょっと待ってよ三郷さん! 今日は私となつめくんが購買のパンを一緒に食べる約束をしてるんだから!」


 すかさず笹浪さんが割り込み、僕の右腕をしっかりと抱きかかえた。


「二人とも、廊下で騒ぐのは良くないよ。……なつめくん、放課後はモデルの撮影見学、一緒に来てくれるよね? 特別に楽屋に入れてあげる」


 凛花さんが優雅な足取りで近づき、僕の左耳元で悪戯っぽく囁いてくる。


「む、無茶言わないでよ立花さん! なつめくんは放課後、部活の応援に来てくれるって言ったもん!」


 天音さんが運動着姿で走り込んできて、僕の正面に立ちはだかる。


「……順番。なつめくんは、図書室で私と本を読む。……騎士の、義務」


 椎名さんが静かに教科書を差し出し、僕の制服の裾をキュッと引っ張った。


「伴侶。美術室。衣装の採寸、まだ途中。肌に直接、測る」


「直接測らないで浅利先輩!?」


 朝のホームルーム前だというのに、僕の席の周りはすでに小さく爆発したような修羅場と化していた。

 クラスの男子生徒たちからは「あいつ、マジで何者なんだよ……」「死刑、死刑だよ……」という殺気立った怨嗟の声が聞こえてくる。


「みんな、落ち着いて……! 朝からそんなに詰め寄られたら、僕の身が持たないよ……!」


 僕が頭を抱えると、三郷がふっと口角を上げ、僕の机に両手をついて顔を近づけてきた。


「なつめ。文化祭本番まで、もう時間がないのよ。……いつまでも『全員』なんて生ぬるい態度は許さないわ。あなたが誰を選ぶのか、はっきりさせてもらうわよ」


「三郷さん……っ」


「そうだよ、なつめくん」


 笹浪さんが僕の手をギュッと握りしめ、潤んだ瞳で僕を見つめる。


「私、なつめくんに一番好きになってほしい。文化祭のステージで、なつめくんの隣に立つのは私でありたいんだもん」


 笹浪さんだけじゃない。

天音さん、凛花さん、椎名さん、浅利先輩――全員の瞳に、逃げ場のない本気の好意と決意が宿っていた。


 今まで「背景」として生きてきた僕の高校生活。

 誰からも必要とされず、誰の特別な存在にもなれないと思っていた僕が、今や学校一の才女たちから全身全霊で求められている。


 甘くて、恐ろしくて、けれど胸が締め付けられるほど愛おしい、贅沢すぎる悩み。


「……分かったよ。文化祭の当日、僕もちゃんと……自分の気持ちに答えを出すから」


 僕が意を決してそう告げると、才女たちは一瞬驚いたように目を見開き、それからそれぞれのやり方で愛らしく、誇らしげに微笑んだ。


「約束よ、なつめ。私の『本当の彼氏』になる覚悟をしておきなさい」


「私だって、絶対諦めないんだから!」


 文化祭本番まで、あと僅か。

 六大才女たちの愛を一身に背負った僕の大舞台が、いよいよ幕を開けようとしていた。

 

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