第9話 加賀里水瀬 Ⅰ
友人を迎えに行った
ちなみに挨拶を終えてからの自分は、まるで存在しないかのような扱いだった。
「じゃあ、そろそろ帰ろっか」
「えぇっもう帰るの?なら私、美琴ちゃんのおうちにいきたい」
「……えと、いいよ」
「やったあ!ふふっ!嬉しい!今日は何をしましょうか!」
首肯きを見た水瀬はぱあっと
その表情からは先ほどまで見せていた姉の顔は見えない。同性の
そして思い出す。ゲーム内の彼女は幸瀬に姉らしい顔をしていなかったことを。
何が彼女をこうも変えたのかはわからない。けれども、この表情を自分に向けてくれていることを思うと一端は自分にあるのではないかと思ってしまう。
人は小さなきっかけひとつで変わるもの。彼女が良い意味に変われるきっかけを作れたのが自分なのならば、そんなに嬉しいことはないのにと思った。
◇ ◇ ◇
水瀬と自宅で遊び、彼女が来たことにはりきった母は腕によりをかけて夕飯を作った。誘われるままに夕飯を共にしてくれた彼女を母の運転で自宅まで送り届け、家に帰ると母の手伝いをする。
浸けておいたグラタン皿のふち、チーズとホワイトソースが焦げ固まったところがアクリルタワシでするりと取れて気持ちいい。かたくこびりついているところは少し力を入れて擦り洗いをするとぽろぽろと落ちてくれる。
料理をするのはあまり好きではないけども、洗い物は好きだ。汚れていたものが綺麗になっていくのが気持ちいい。同じ理由で掃除も好きである。
「美琴ちゃん、水瀬ちゃんがお泊まりに来るのって今度の土曜日と日曜日よね?」
「うん。そうだよ。お母さんとお父さんが旅行に行く日」
ペアの旅行券が当たった両親は、来週末に温泉旅行へ向かう。年度末ということもあって父は仕事が特に忙しく、家で過ごす時間も少なかった。ようやく仕事も落ち着いてきたため、ふたりでゆっくりしてほしいという娘の気遣いである。
最初は誰かに譲ろうかという話をしていたのだけれども、以前から水瀬に「卒業前にお泊まり会をしたい」と言われていたのを思い出したのだ。こどもだけでと悩ましげにする母に対して、水瀬の母が「なにかあったらすぐに向かう」と言ってくれたこともあり許可が下りたのだが──両親の説得はそれなりに大変だったことを思い出す。
ちなみに説得が成功したというより、家に何度も遊びに来ている水瀬が母からの信頼を得ていたことと彼女の姉力の高さ、しっかりしているところが評価され、「水瀬ちゃんなら」と母が折れたのだ。その代わり、当日は他の友達を呼ばないこと、水瀬母の送迎以外で外に出ないことを約束している。
「ふたりだけで楽しいとは思うけど、危ないことはしちゃ駄目だからね。もしお外で遊びたいなら、水瀬ちゃんのお母さんと行くのよ」
「うん」
「……あれこれ言ってごめんね。美琴ちゃんもしっかりしているのはわかってる、でも心配で」
「ううん。気にしないで、お母さん。私はまだまだこどもだし……心配してもらえるのは、幸せなことだってわかってるから、だいじょうぶ」
推しカプの壁になりたい! あめのちゆき @snowyxof
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