第8話 加賀里姉弟


 加賀里かがり幸瀬ゆきせ──彼は『巡世めぐせか』の攻略対象のひとりである。

 主人公よりも二学年上の彼は先輩キャラクターでありながら、無邪気さを含んだ幼さと諦念とどこか達観した視点を合わせ持つ、不思議な大人さで成り立っているキャラクターだった。


 そして、その姉である加賀里かがり水瀬みなせ──自分にとっては、親友と呼べる間柄の女の子。彼女は『巡世』内において、弟に歪んだ執着心を向ける妖艶な美女として描かれていた。

 ゲームにおいては所謂悪役のようなポジションで、主人公ヒロインに直接関わってくることはあまりない。けれども、多くの時間を水瀬と過ごす幸瀬の口から語られる話は明るいものでないことがほとんどだった。

 

 加賀里姉弟は水瀬が前妻の子であり、幸瀬は後妻──前妻の妹──の子である。水瀬の母が水瀬を産んでから体調を崩しがちになり、暫くして亡くなってしまう。すると水瀬の父は彼女の記憶に本当の母が強く刻まれぬうちにと、良かれと思って前妻の妹を娶った。

 今この世界の水瀬がどうかはわからないが、『巡世』内の水瀬はとても聡い女の子だった。家族から愛されていることを理解しつつもどこか疎外感を感じており、そんななかで幸瀬が生まれる。血を分けた、確実に自分と両親を繋いでくれる弟を姉として慈しみ、彼も同じものを返した。

 しかし、彼女はいつの頃からかそれがもっとほしいと願うようになり、返されるものが家族の延長にある感情でしかないことに物足りなくなる。そして、幸瀬が自分の手元から飛び立たないように精神的に支配し、果てには性的なことにまで及ぶようになってしまう。

 彼が絶対に自分のそばから離れないように、様々な形で枷を嵌める──うつくしく、残酷な人だった。


 ただ、この一瞬だけでわかる違いがある。『巡世』の水瀬は弟を「せーくん」と呼んでいた。

 目の前の親友は弟を「ゆきくん」と呼ぶ。ふたりの関係は一般的な姉弟きょうだいのようなものに近いか、弟のほうが姉を慕っているように見える。

 ゲームのような関係性であれば、遠くに姉の姿が見えたからと言って駆け寄ってきたりはしないだろう。嬉々とした表情で寄ってきていたのに、私の姿を認識した途端に面倒臭そうな反応を覗かせたくらいなので、むしろシスコンのケがあるのではないかと思う。


「ゆきくん、お友達を迎えに来たんでしょう?早く行ってらっしゃいな。きっと待ってくれてるわよ」

「…………うん」

「ふふ。まだまだ甘えんぼさん」


 家に帰ったらいつでも会えるじゃないかとか小学校三年生の男子小学生にしては幼過ぎないか?とか、いろんな思いが頭に浮かぶけれども口にはせずにふたりを見守る。

 幸瀬のその姿は水瀬の別れ際によく似ていて、ふたりの血の繋がりを感じさせた。母が違うと言っても母同士は姉妹である。そういうこともあってか容姿も結構似ていて、ふたりが姉弟ということに違和感はまったくない。

 水瀬は日に当たると青光りする黒髪に瞳は透明感のある紫水晶アメジスト、全体的に少し儚さを覚える容姿だ。

 対する幸瀬は全体的に色合いが深い。黒髪は濡羽色だが、日に当たると僅かに青みを帯びる。瞳は角度や光の加減によって色味の強さを変える、鮮やかながらも深みのある青紫で──黝簾石タンザナイトを思わせる。


 水瀬に甘える幸瀬の表情にゲーム内の水瀬が重なる。彼女はゲーム内では伏目がちな表情でいることが多く、ハイライトが描かれていなかった。今の彼女からは想像がつかない。


「……そろそろ、行くね。じゃあ、姉さん!家で!」

「はいはい。いってらっしゃい」

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