承
この天気を象徴したかのような空気感。
「何から、話すか」
耐えきれず雫が声を発す。
一応は同じベンチに座っているが、心の距離に比例し、2人の間にはかなりの距離が空いている。
「…何、聞きたい?」
諦めたような声でせつな。
「そう…だな……。何で傘持ってなかったんだ?」
「傘、風で壊れちゃって。というか、当たり障りないとこから聞くんだね」
「…ごめん」
「悪いわけじゃないし、謝らないで」
互いにあまり声を張らないため、所々風雨に掻き消される。
「聞くこと考えるのも難しいよね、私から話すよ」
「…いいのか?…雨守」
「そんなこと言ってるけど、ここで逃げてもどうせ捕まえるんでしょ?」
「……そう、だな、俺も話したかったし」
絶妙な間を保ちながら、二人は互いの出方を探っていた。
雨足が更に強まるのを感じる中、少しずつ、ゆっくりとせつなは語り出した。
「私、病気なんだ。ちょっと、こう、珍しいやつ」
「病名も決まってないやつ、でさ、治し方も、分かってない」
「最初は、手先を怪我しやすいな、ってくらいだった」
「晴れてる日に、段々、全身に、ヒビみたいのが入ってきて」
「お医者さんには、湿度80%以上で生活してって」
「元は湿度が高いなら、いつでも、外出てたけど、雨の日しか出れなくなって」
「雨の日でも、ちょっと怖くて」
ここまで聞いて、雫はやっと理解できた。
が、理解したのはその状況のみ。
この空気。詳しいことなど聞けるはずもなく、その原因なんかは、想像する他になかった。
「じゃ、そろそろ、行くね」
微妙な空気を遮るように、せつなは立ち上がる。
「ちなみに、私、これあんま悪くないと思ってるから。雨に強くなるから、風邪引かないんだ」
明るい声色で言うせつな。
屋根の外に出たその横顔には、大きい雨粒が滴り落ちていた。
「じゃあね」
その去る背中を、雫はそのまま送ってはいけない気がした。
少し走り、雫は上に羽織っていたアウターをそっとせつなに被せる。
「雫?」
「家までついてく」
「そんなことしなくても…風邪引かないし」
「してもしなくてもいいなら、このままで」
先程と違い、せつなは少し言葉に詰まっていた。
二人は共に歩いた。
雨が止む気配は、まだ、なかった。
雨に守られし少女。 抹茶坂 @matchazaka
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