雨に守られし少女。
抹茶坂
起
「私はね、雨が1番嫌い。遊びに行きにくいし、気圧で頭も痛くなるし」
「俺は案外好きだけどね、雨」
こんな他愛のない時間がずっと楽しかった。
鬱陶しいくらいの日差しの中、公園の池の周り歩きながら。
ただ、それを、何処か普通だと思ってしまっていた自分がいた。
ある時から彼女と学校で会うことは無かった。
そして、少年は雨の日、屋根付きのいつもの公園のベンチに呼ばれた。
少女は遠くを見つめ、こう言った。
「あのさ…私、もう、友達やめたい……だから、もう…私と会わないでね」
以降、少年は少女と音信不通となってしまうのだった。
「ありがとうございましたー」
テンプレートのセリフを精力なく発す青年。
早瀬雫(はやせしずく)。コンビニバイト中の高2男子。
「雫くん、お疲れ様」
「…店長、お疲れ様です」
「あまり調子が良くなさそうだね、こんな天気じゃ仕方ないけどねぇ」
60手前の朗らかな店長が言う。
雫は中2のあの日から3年弱、この調子であるため、それを天気に責任転嫁するのはいかがなものかとも思った。
が、そんなことが阿呆らしく感じるほどの雨に見舞われていた。
1月からバイト始めて5ヶ月、梅雨とはいえ、ここまでのものは始めてだ。
「雫くん、このまま店で雨宿りしていくかい?」
「いえ、これ以上強く降られるかもしれないですし、時間も……あと二十分で終わるので、それで帰ります」
「そうかい」
とまで言った店長はバックヤードへ戻る。
急な豪雨で傘が売れたからか、その足取りはいつもより軽く見えた。
「はぁ…あの日もこんなだったか…」
雫自身も3年前のことをここまで引きずっているのも良くはないとはわかっていた。
ただ、それを体が受け付けないのだった。
見慣れたはずの街灯が怪しく光る。
「今日も、帰りに行こうか」
あの公園を想い、手を動かした。
ピローンピロピン♩
入店音が鳴る。
降り始めこそ傘を求める客でごった返していた店内。しかし、雨が降ってからかなり時間が経った今、立地の悪いこのコンビニに来るなど珍しい。雫はそう思い、自動ドアへと目を向ける。
「いらっ……しゃい…ませ」
テンプレートが崩れるくらい、気が動転した。
一つは、入ってきたその人物が海から上がったのかと思うほど濡れていたから。
もう一つは、
「雨守……雨守だよな…?」
白い長髪、青い瞳、整った顔立ち。
忘れられるはずがない。
そこにいたのは、音信不通だった幼馴染、雨守せつな(あまもりせつな)だった。
ただ、せつなの綺麗な髪や瞳は全体的に少し、霞んで見えた。
「…!」
せつなも雫に気づき、確実に目が合う。
二言目を発そうとした時には既にせつなは自動ドアの隙間を縫うように未だ豪雨の外へ出ていた。
「店長…!先に失礼します!」
と、乱暴にエプロンを脱ぎ、スマホと財布だけを入れたポーチを握り、店を出た。
雫は、ひたすらに走った。
傘は持っていない。
だから、追ったところで何かできるわけでない。
霧と雨で視界は霞む。
生憎の向かい風。肌を掠める雨は刃物のように感じられた。
「雨守…!やっぱ、ここか…」
互いに住んでいたエリアは変わっていなかったらしい。
あの日の、あのベンチにせつなは腰掛けていた。
曇天を映し、濁った池を見つめるせつな。目は合わない。
「…体力、思った以上に落ちてるものなんだね」
雫の記憶の中のせつなは、才色兼備、文武両道を体現したよう、そんな印象があった。
「雨守……言いたいことは………嫌というほどある」
屋根に雨が跳ねる音を遮るように、切れた息を振り絞る。
この3年、後悔が積もり続けた。
だからこそ、雫はまず、これだけを聞く。
「…なぁ…あの…"友達やめたい"って言葉…あれ、本気だったのか?」
出来るだけ、笑顔を作ったつもりだ。
無理やり上げた口角は、操り人形のようだった。
「嘘に決まってるでしょ」
雫目線では、彼女も笑っていた。
しかし、以前の感情表現の鮮やかなせつなはそこにはいなかった。
大粒の雨が屋根に当たり、くぐもった音が響き続けるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます