我が家が心スポに

白川津 中々

◾️

 久々に帰省するかと思い立ち、いやぁ25年ぶりかぁ懐かしき故郷に何か変化はあったかなぁと調べてみると、実家が心スポになっていた。


「夜な夜な白装束の霊が現れ、奇声を発しながら周りを徘徊する。かつて結核で死んだ女性だという」


これは結核患者の霊ではなく確実にオカン。「やっぱり女は白じゃなきゃ」と謎のポリシーを持っていたから間違いない。しかしなぜこんな事に。真相を確かめるべく、俺はすぐさま電車に飛び乗り地元へと向かった。到着すると日が落ちかけてノスタルジー。そこから15分、やたらと長い坂を上り見晴らしの悪い丘にある我が家へと到着。開錠。


「ババァ〜いるかぁ〜?」


 ドカドカと家に入る。人の姿は見当たらないが、テレビが流れ茶と煎餅が置かれている。逃げられたか? そう思った矢先に台所から物音が聞こえた。なんだなんだと移動してみると、母親が包丁を持って立っていたのだった。


「泥棒風情がぁ〜盗れるもんなら盗ってみぃやぁ〜」


 完全に切った張ったの台詞である。胡乱な瞳の奥には俺に対する警戒心と恐怖心。そしてぶち殺し上等の覚悟が完全にキマっている。アカン。


「落ち着けババァ。俺や。息子や」


「息子は小学生じゃ馬鹿タレぇ〜おどれのようなしょうもないおっさんのわけあるかぁ〜い」


 残念ながらしょうもないおっさんである事実は否定できない。


「分かった。おっさんでいいから包丁を置こう。一旦。な?」


「あ〜?」


 聞く耳持たず睨み合いが続く。これはポリス案件かとスマートフォンを手にした時、突然外からガンダーラが流れ始めた。あったあった。18時になると流れる帰れの合図。緊張感ねぇなちくしょう。


 と、その時。母動く。臨戦体制が解かれたと思ったら、急に勝手口から外に向かって走り出した。


「息子〜息子〜」


 近所を駆け回る母親。幽霊の、正体見たり呆け実母。しかしなぜこんな真似を。そう思いながら追いかけていると、ある思い出が蘇った。プレステを買ってもらえず家出した夜。行くあてもない俺の前に汗だくの母が現れた時の思い出が。呆けた母は、あの時の俺を探しているのだ。


 芽生える子心。なんと健気ではないか。あまりにも哀れで愛おしく、居ても立ってもいられなかった。


「母さん。俺はここだよ。一緒に帰ろう」


 ダッシュして追いつき抱きしめる。薄く、細く、異臭のする体から母親の温もりを感じる。「ごめん母さん」そんな言葉が溢れる直前だった。耳を劈くような声で叫ばれたのは。


「強姦魔ぁ〜!」


 直後、腕が振り解かれ躊躇なく包丁の斬撃が首を掠める。こいつ本気だ。本気で殺す気で切り付けてきたのだ。


「ヤレるもんならヤってみぃや〜」


 完全に切った張ったの台詞である。今度こそこいつは殺す気だ。俺は背中を向けて逃げ出す。しかし、背後からの足音が一向に消えない。


「待てやぁボケェ〜」


 しゃがれた声で向けられる恫喝。もうどうにもならん。母にはもう少し怪異でいてもらうしかないと思いながら、俺は地元の道を走り続けたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

我が家が心スポに 白川津 中々 @taka1212384

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ