三又
終了
第1話
朝日が、ぎらりと僕を睨みつけた。
僕は弱々しく布団から出た。
窓際にある壊れかけのラジオを着けた。
「皆様おはようございます。
本日は7月3日。最高の夏をお楽しみください。」
何のシミかも忘れた黒い何かが所々にある薄い畳に足を右、左と付いて行く。
仕事を果たしているのかすら分からない冷蔵庫を開け、昨日の晩飯の食べ残しを手に取り、机へ置いた。
そしてポケットに入れておいた割り箸を使い食べ始めた。
味はよく分からない。
しょっぱい気がする。
食べ終わると、皿を適当に洗って棚へ入れた。
そして教科書を適当に詰めた鞄を持ち、適当に着た制服姿で学校へ向かった。
3本の杉の木。
青い滑り台がある公園。
ゴミ箱。
電柱。
君は朝日と共に起きた。
君は普通に布団から出た。
君は周りの音など気にせずラジオをつけた。
「ミュージックレディオ。
本日7月3日の主役はコイツだ。
スターフィンガーズ。」
そして足を左、右と汚い畳へ付いて行く。
歯磨きだけを済ませ、リボンを着け、軽い見た目のバックを持ち、几帳面な制服姿で学校へ向かった。
いくつか並ぶ尖った木。
汚いベンチ。
中身が溢れ出し、悪臭を放つ箱。
根元に雑草が生え散らかした電柱。
彼女は起きた。
起きたと同時にボロボロの窓を強く閉めた。
そしてキッチンへ向かう。
右、右、左、左。
机に皿を置いた後、ラジオを叩くようにつけた。
「ハロー。
本日は7月3日。
本日のキーワードは、歪みです。
トゥデイもハッピーにレッツゴー。」
彼女はパジャマのままタバコを吸いに外へ出た。
早く切ってほしいデカいだけの木。
吸い殻にまみれたベンチ。
ホームレスの残飯がまみれているゴミ箱。
彼女はベンチに腰掛け、口から尖るような煙を吐き出した。
煙臭い。
僕は嫌々する。
この辺りは喫煙者にまみれているのだ。
高校生である僕からすれば迷惑極まりない。
嫌悪感に包まれながら、少し歩くと目の前には僕の通学先である大山高校が見えてきた。
偏差値49
公立
僕は校門を抜け、校内の急な階段で息を切らしながら教室へ入った。
僕の席は黒板から遠く、見えにくい。
嫌な限りだ。
だが文句を言う事が面倒臭い。
自分に必要な事以外全てが面倒臭い。
友達は居ない。
親も居ない。
だが辛くない、面倒臭い。
おや、朝礼が始まるようだ。
君は歩道に可愛らしく産み付けられていた鳩の卵を踏みつぶした。
君は下を見ない。
君は上も見ない。
君は周りしか見れない。
君は変なデザインの校門を1つも気にせず高校へ入った。
1段1段が妙に大きい階段も気にせず登った。
そして黒板から一番離れた席へ座った。
君は担任の顔を2つの目で見つめた。
彼女は歩道に痰を吐いていた。
そして目の前を歩く老人を睨みつけた。
彼女は朝が嫌いなのだ。
彼女は遅い物、無駄な物、自分に不利益な物全てが嫌いだ。
生憎朝はそれらで溢れている。
特に彼女は近所のバカ高校のチャイムがうるさくて嫌いだ。
静かにタバコを吸いたいのだろう。
彼女は吸い終わったタバコをベンチの下に放り込み、再び歩道へ痰を吐いた。
僕は1時間目の古典が嫌いだ。
難解で面倒臭い。
それに僕は何故過去の人物の日本語などを勉強しなければいけないのか理解出来ない。
考えれば考えるほど面倒臭い。
それに古典の教師は変に若々しい。
フレッシュとでも言おうか。
フレッシュは僕の性分に合わない。
半分腐りかけぐらいが丁度良い。
何故かと言うと、僕が腐っているからだ。
腐りを楽しんでいるからだ。
あぁチャイムが鳴った。
うるさいんだよな、このチャイム。
君は機械の様に次の授業の準備をした。
教科書、筆記用具、ノートを無駄にテキパキと用意する。
そして全て机に並べ終わると、君はひたすらその長い髪を櫛でとかし始めた。
上から下へ。
チャイムが鳴ると、手を止めた。
そして鼻歌を歌い始めた。
スターフィンガーズのブレイキングミラー。
30秒程歌うと、きっぱりと辞めて黒板を見つめた。
彼女は近所のコンビニへとぼとぼ歩き、缶ビールを手に取った。
店を出るとすぐに開け、ごくごく飲み始めた。
缶が空になるまでは一瞬だ。
満足したように彼女はベンチへ戻り、タバコに火をつけた。
そして、空を見上げながら独り言をぽつんと漏らした。
「デカ山高校の小堀気持ち悪い。」
すると、目の前に保育園児の集団が現れた。
彼女はそれらを睨みつけ、タバコを投げ飛ばした。
僕は2時間目の準備を全て終わらせたので、スマートフォンで最近の流行を調べてみた。
なるほど、スターフィンガーズというバンドが流行っているのか。
僕は全く知らなかった。
その全く知らない事に対して馬鹿にされそうという予想が面倒臭い。
こんな事を考えるのであれば寝れば良かった。
眠たいしな。
だがもうチャイムは鳴ってしまった。
数学だ。
この教師は過去1番嫌いだ。
毎回ビール缶を手に持ちながら授業をする。
現代に居てはならない人間だ。
確か、名前は凛花だったな。
君は2時間目が始まるまでずっとラジオに耳をくっつけていた。
「ミュージックレディオ。
本日のゲストには、スターフィンガーズのケイゴに来ていただきました。
ケイゴさん、ようこそミュージックレディオへ。
僕なんかを呼んでいただき、光栄です。
なんかだなんて言う必要が無いほどのスターでしょあなたは。
滅相もありません。
では、1つ目の質問をしますね。
ケイゴさんの出身校はどちらですか。
僕の出身校は速水高校ですね。
そこでの軽音楽部で活動した日々を僕は忘れません。
軽音楽部、良いですね。」
チャイムが鳴った。
君は笑顔で授業を迎えた。
彼女は家から持ってきたラジオを乱暴につけ、聴きながらタバコに火をつけた。
「ハッピー、ラッキー、〜
〜な皆さん今日は〜な〜
歪みにまつわる〜」
あまりのラジオのボロさで音は途切れ途切れだ。
だが彼女は慣れていたので気にしなかった。
タバコを吸い終わると、一人の保育園児が彼女の足元へ来た。
そしてボールを彼女の足の上へ置いた。
彼女はそのボールを地面へ置き、保育園児の方へ転がした。
保育士はそれを見て、焦って来た保育園児を抱えて、元の集団へ戻した。
彼女はそれを見て少し笑った。
そしてタバコの箱をポケットへ入れ、ふらっと立ち上がった。
僕は3時間目が始まるまではただ席に座り、どうでもいい事を考えていた。
楽に暮らしたい。
母ちゃんっていつ死んだっけ。
父ちゃんまだ風俗行ってるのかな。
凛花先生は全くフレッシュじゃないな。
暑いな。
母ちゃんのご飯が食べたいな。
あぁ面倒臭い。
歴史、受けたくないな。
帰りたいな。
あぁチャイム鳴っちゃったよ。
君は2時間目が終わると、購買へ向かいただの食パンを買った。
そして前と横を交互に見ながら食パンを齧った。
食パンを食べ終わる頃には教室の中だった。
そして、やはり機械のように席に着く。
そしてラジオを再びつけ、気持ち悪い笑顔を浮かべながら鼻歌を歌い始めた。
すると、ある一人の生徒が君の肩を叩き、話しかけた。
「沢田さん、消しゴム貸してくれない?」
君は何も言わずに消しゴムを渡し、再びラジオに引っ付いた。
彼女は再びコンビニに立ち寄っていた。
だが今回は一人ではない。
友人と共にだ。
彼女がビールを手に取ると、同じ物を友人が手に取る。
彼女がライターを手に取ると、同じ物を友人が手に取る。
彼女が飲み物売り場へ戻り違う種類のビールを手に取ると、同じ物を友人が手に取る。
そして彼女がレジを終えると、友人もレジを終えた。
彼女は友人がコンビニから出てきた所に話しかけた。
「やっぱお前変だな。」
「変なんて言わないでよ。
悲しいじゃん。」
「お前酒クセェな。
お前は飲むなよ。」
「いいじゃん。
疲れただけ。」
「ダメだろ。」
「そんな事より早くいつもの公園行こうよ。」
「別にいいけど。」
ベンチに座った2人はビールを一瞬で飲み干し、タバコに火をつけた。
2人の口から出た煙で、歩道を歩く老人達は煙たがっている。
そんな様子を気にするはずもなく2本目、3本目と火をつけていく。
ある時、彼女は痛がった。
友人が心配すると、彼女は起こった事を説明した。
タバコの灰がたまたま長い髪に落ちてしまったようだ。
彼女は不機嫌そうな顔をしながら再びタバコを口に加えた。
僕の高校の授業は3時間目までしかない。
よって僕はもう今日の学習を終えたのだ。
僕はどこにもよらず、下校した。
下校する際、凛花先生とすれ違った。
やはりビール缶を手に持っている。
凛花先生とは挨拶すらせず、そのままお互い離れていった。
僕は家のドアを開けると、いつもの臭さが残る小さな部屋に安心した。
やはり小綺麗は性分に合わない。
寝るまではひたすらラジオを聞くだけだ。
「お悩み相談チャンネル。
本日の相談者さんは、Sさんです。
いきなりですが、Sさんはどのようなお悩みをお持ちでしょうか。
それがですね、最近離婚したんですよ。
妻と。
完全に僕が悪いんです。
娘と妻に乱暴な扱いをしてしまったんです。
今思えば、なんて自分は愚かだったのだろうかと反省が募ります。
妻から、離婚を伝えられる際にこう言い放たれました。
梨花がこんなのになったのはあんたのせいでしょ。
あんたなんて早く死んでしまえばいいのに。
僕は何も言い返す事が出来ませんでした。
僕はこれからどうして行けばいいのでしょうか。
それは大変ですね〜」
馬鹿らしい男だ。
君は4時間目が始まるまで、一言も喋らなかった。
周りはそれを不気味がった。
君はお母さんに似て美人なのに。
彼女は友人と別れてからは近所の子供と遊んでいた。
その子供が産まれて間もない小さな頃から、彼女は少し世話をしている。
その子供は、よく彼女に紙芝居の読み聞かせをお願いしている。
彼女はそれを快く承諾し、日々新しい話を読み聞かせてやっているのだ。
紙芝居を読んでいると、その子供はやがて眠くなり、最終的に眠りにつく。
その子を彼女はおんぶして、自分の部屋に連れて行く。
そして親がしばらくすると彼女の部屋へ赴き、その子供を連れて帰る。
その親は、彼女の事を友人だと思っているようだ。
彼女は、その親の行動が不思議な事もあり少し気味悪がっている。
だが友情は確かにある。
僕はもう空が暗くなった事を確認し、冷蔵庫から餃子のような物を取り出した。
しょっぱい。
ただそれだけ。
腹が満ちたので、僕は家を出て、銭湯へ向かった。
銭湯に入ると、いつものおばあちゃんが出迎えてくれた。
僕はいつも通り必死に値下げの要求をした。
おばあちゃんは慣れたようにそれを無視した。
僕はため息をついて、お金を払い湯船へ入った。
僕が黙って湯船に浸かっていると、太ったおじさんが僕のほうへ向いてこう言った。
「気味悪い。」
僕はそれに反応する事が面倒なので、気にせずゆっくりと湯船に浸かった。
君は全ての授業が終わって、どこにもよらずに家へ帰った。
君の家は立派な一軒家だ。
君が家へ入ると、父親は忙しそうにパソコンを打ちながら電話している。
君はそれを見て何も感じずにいた。
君は自分の部屋に入り、ラジオをつけた。
君は泣いてしまった。
今日の分のミュージックレディオはすでに終了していたのだ。
君はひたすらにラジオを叩いた。
だがミュージックレディオはつかなかった。
君はスターフィンガーズのブレイキングミラーを歌いながらベッドに寝転んだ。
彼女はいつもとは違い、その親の家までついて行った。
その親は彼女にタバコを奢ると言ったのだ。
彼女はその子が家に入る事を笑顔で見送り、その親と2人きりになった。
その親は彼女の肩を弱々しく掴み、膝から崩れ落ちた。
その親の瞳は濡れていた。
「梨花、梨花。
梨花の事を思い出しちゃってね、ごめんね。」
「可哀想に。」
彼女はその親に肩を貸しながらコンビニへ向かった。
僕は朝、曇りのせいか弱々しい朝日に見つめられて起きた。
君は暗い部屋で起きた。
彼女は友人の事を心配しながら起きた。
僕は見た、心臓を無惨に何度も刺された小さな子供の死体を。
君は見た、包丁が刺されたままの小さな子供の死体を。
彼女は見た、その子の信じたくもない状態を。
僕はすぐに警察へ通報した。
すぐにその死体の周りに何台ものパトカーが集まった。
そして僕は事情聴取の為にパトカーに乗せられた。
僕は本当に何も分からなかった。
だから何も言わなかった。
僕は警察署から出て、時計を見た。
高校の授業が既に全て終わってしまっている時間だ。
僕は不憫に感じながらとぼとぼ家へ帰った。
君は警察官に強気な事情聴取を受けていた。
君は分からない、知らない、朝初めて知ったの3点しか口に出さなかった。
君の目が光ったのは警察官の携帯からスターフィンガーズの曲が流れた時だけだ。
それ以外は機械のような君。
そして警察署から出た君。
君は家へ機械のように帰った。
彼女はすぐにその親の元へ向かった。
その親はすでに部屋で失神に近い状態だ。
彼女はその親の頬を優しく叩きながら意識を必死に戻そうとした。
彼女の口からはごめんなさいとか死にたいとか言っても当たり前ではあるが、悲しい事ばかりだ。
彼女はその親を抱きしめた。
その親は限界が無いと思わせる程に常時涙で目が潤んでいる。
するとその親は彼女の耳にそっと告げる。
私の子を殺したのは
僕は家でラジオをつけて、いつも通り寝転んでいた。
「ミュージックレディオ特別編。
本日のミュージックレディオは一味違います。
なんと、いつもの放送時間である7.30〜16.30までの所を7.30〜19.00まで延長します。
そんなスペシャルな日も後半へと差し掛かって参りました。
そこで、今からスターフィンガーズスペシャルとして、メドレーをお送りします。
まずはこの曲ブレイキングミラー、どうぞ。
私を殴るお前。
お前に殴られる私。
お前を死ぬほど潰してやりてぇよ。
血が黒くなるまで潰す。
私を捨てたお前。
ゴミになった私。
綺麗なゴミに夢中のお前。
殺してやりぇよ。
潰す。
殺す。
消す。
燃やす。
私達の地獄の業火で。
〜
ブレイキングミラーでした。」
すごい曲だな。
君は家で口に食事を入れて、飲んで、また入れて、終了した。
君は食事を終えると、家から外へ出た。
沢田と書かれた表札がある家から。
そして大山高校の前に立ち、少し口を開いて、閉じてを繰り返した後、家へ戻った。
彼女は、その親の様子が戻るまで家に泊まり込み世話をしている。
その親は、急に何かを思い出したかと思うと何回もごめんねと言い続ける。
彼女には、何故その親がここまで罪悪の念に駆られているか分かっていた。
その親が抱えている問題は複雑であり、怨念や恐怖や悲しみが混ざり切ったような物だ。
だがその親も悪いのだ。
彼女が世話をしなければいけないのは、その親の夫が遊び人だからだ。
馬鹿な男と再婚したと心から思う。
彼女の友人、小堀凛花よ。
とにかくこんな無駄な事を考えている暇はない。
彼女は友人の世話をしなければならない。
友人は震える手で私の手を握り続けている。
タバコを吸いたいので困る限りだ。
僕は、少し寝坊をしてしまったので急いで家から出て高校へ走った。
すると道の途中で、高校生の女の子がラジオを異常な程耳に近付けながら歩いていた。
僕は不思議な子がいるものだなとしか思わなかった。
僕は校門に足を踏み入れた時、急に激しい頭痛に襲われた。
僕はその場に倒れ込んだ。
君は今日もラジオを聞きながら歩いている。
君の目の前に1人の中年ぐらいの女性のような男性が急いで走っている。
君は気にせずラジオを聞きながら歩いた。
行き先も無く歩いた。
すると、君の母親が弱々しく君の方へ歩いて来ている。
君はその母親を無視して、ラジオを聞いている。
母親は、死にそうな声で、梨花、梨花と君に言っている。
君は無視して、ラジオを聞いている。
梨花ちゃん、待ってあげてと君の後ろから男性の声が聞こえる。
男性の声はどんどん君に近付いてきている。
君は焦りもせず、ただラジオを聞いている。
男性は、ついに君の肩を掴んだ。
君は後ろを見ざるを得なかった。
後ろには、先程走っていた女性のような男性が居た。
「梨花ちゃん、自首しようよ。」
君は言葉を発さなかった。
彼女は友人の所まで戻り、肩を貸して君の所まで来た。
「梨花、ごめん。
私があなたを救えなかったせいで、いいえ捨てたせいよね。」
君は言葉を発さなかった
僕は凛花先生が危険な状態てある事を感じ、話を進めた。
「梨花ちゃん、なんで結菜ちゃんを殺したのよ。」
君は口を開いた。
「ー」
佐藤優作は君を抱きしめた。
「ごめんね。
あなたはもう。」
佐藤優作は、沢田梨花の手を優しく握り、共に歩いた。
3本の杉の木。
汚いベンチ。
ホームレスの残飯がまみれてるゴミ箱。
今にも壊れそうなアパート。
小堀の表札。
沢田の表札。
大山高校。
速水高校。
おばあちゃんの銭湯。
あの頃お父さんとお母さんと遊んだ公園。
凛花と知り合ったあの道。
沢田哲司さんと一緒に食べに行ったレストラン。
一又の大きな道。
三又 終了 @polopolomango-
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