第8話 神の白菜と、極上のモフモフ神聖鍋
「よし、今日も元気頑張ろう! みんな、冬に備えて『白菜』を植えるぞ!」
「ガルルン!(はくさい! 鍋の主役ってやつなのね!)」
「きゅきゅーっ!(お布団みたいに大きくて丸いやつなのー!)」
「ワン、ワン、ワン!(ボク、お鍋楽しみなの!)」
サツマイモの収穫を終え、神木ログハウスでの生活もすっかり板に付いてきた頃。
俺は菜園の新しい区画を耕していた。地上の元ギルドが完全に解体され、国の上層部が「奈落の神聖リゾート地」への貢ぎ物(という名の和解の使者)を誰にするかで血眼になっているらしいが、地下数千メートルに引きこもっている俺たちの知ったことではない。
今回の種は『白菜』。
冬の寒さに当たることで、葉にデンプン(糖分)を蓄えて劇的に甘くなる野菜だ。
「ポテト、少し深めに畝を作ってくれ。白菜は根を深く張るからな」
「ワン!」
ポテトが三つの首でフフンと鼻息を鳴らし、器用に前足でふかふかの土を整える。
俺はその中心に白菜の小さな種を等間隔に蒔き、仕上げに泉から汲んできた特製聖水を優しく注いだ。
『――ピキィィィィィィンッ!!』
もはやお約束となった、世界の概念がひっくり返るようか高音が響き渡る。
土の中から、エメラルドと
みるみるうちに葉が何重にも重なり合い、がっちりと「結球」していく。
完成したのは、一玉で軽自動車ほどもある、内側から淡い黄金色の後光を放つ超巨大な『神聖白菜』だった。
「おおう……相変わらず規格外だな。よし、さっそく収穫して今夜は『神聖白菜のミルフィーユ鍋』だ!」
俺は収穫用ナイフ(という名の、聖域の魔力で聖剣化した道具)で白菜の根元をザクッと切り落とした。
溢れ出る水分は、それ自体が万病を忽ち癒やす最上位の回復薬。
これを神木の枝から作った特製の特大土鍋に敷き詰め、プランターの隅で育った神の豚(のような野生魔獣が、聖域のクワの葉を食べて勝手に最高級の霜降り肉へと進化したもの)のバラ肉を、白菜の葉の間に交互に挟んでいく。
味付けはシンプルに、聖水、少しの塩、そして昆布(なぜか真水の泉から自生した神の出汁昆布)のみ。
ログハウスの暖炉に土鍋をかけ、じっくりと火を通していく。
コトコト、コトコト……。
「ほうら、良い具合に火が通ってきたぞ」
パカッと土鍋の蓋を開けた瞬間、菜園全体に、言葉を失うほど優しく、そして濃厚な「お出汁と白菜の甘い香り」が爆発的に広がった。
白菜はトロトロに透き通り、お肉の旨味をこれでもかと吸い込んでいる。
「ガ、ガルルン……(この匂い、優しすぎて逆に破壊力が凄まじいの……)」
「きゅきゅーっ!(早くハフハフしたいのー!)」
「ワン、ワン、ワン!(よだれで泉が増水しちゃうの!)」
三匹のモフモフ超越種たちが、お行儀よくお座りをして、目をこれ以上ないほど輝かせている。
俺は特製の器にたっぷりと盛り付け、みんなの前に並べた。
「よし、熱いからフーフーしてな。いただきます!」
みんなで一斉に、トロトロの白菜とお肉を口に運ぶ。
ハフ、モグ……じゅわぁぁぁぁぁっ!
「っ~~~~!! うっま……!! 何これ、出汁の旨味と白菜の甘みが完全に一体化して、噛まなくても口の中で消えていく……!」
「ガ、ガルゥゥゥン!?(な、何これ!? 身体の芯からポカポカして、無限の慈愛に包まれているような感覚なのー!?)」
「きゅきゅきゅーっ!(お出汁を一口飲むたびに、ボクの魔力回路が新築リフォームされていくのー!!)」
「ワン!(三つの首でハフハフするの最高なのー!)」
『個体名フェンリル、ヴォーパルバニー、ポテトが【翡翠の神白菜鍋】により、固有加護【神聖絶対全回復】を獲得。あらゆる傷、疲労、魂の摩耗が永続的にゼロになります』
極上の「神の鍋」に身も心もとろけ、みんなでログハウスのリビングに雑魚寝する。
俺の右脇にはフェンリル、左脇にはポテト、そしてお腹の上にはバニー。全員が「ふにゃぁ……」と緊張感ゼロの声を漏らし、極上のモフモフ毛布と化していた。
◇
だが、そんな天国の癒やし空間のすぐ外――。
クワの木の生け垣(神聖結界)の前に、一台の『超豪華な馬車』が静かに停車した。
そこから降り立ってきたのは、天穿ギルドの支部長(パンツ一丁で強制送還された男)とは比較にならない、圧倒的なオーラをまとった人物だった。
白銀の美しい髪に、長い耳。
異界・ノルウェー帝国最高峰の魔導師にして、世界に数人しかいない最高ランク『SSS級冒険者』――エルフの賢者、エレノアだった。
彼女は国家からの全権委任を受け、「奈落の毒沼に突如出現した、神の領域の主」と交渉(あるいは調査)するために、命がけでこの最深層までやってきたのだ。
「……信じられない。あの忌まわしきデスゾーンの猛毒が、完全に『
エレノアは、目の前にそびえ立つエメラルドのクワの木の生け垣を見上げ、驚愕に身を震わせていた。
彼女ほどの最高峰の魔導師だからこそ分かる。この壁に一歩でも悪意を持って近づけば、世界の
「は、話の通じる相手だと良いのだけれど……。もし、世界を滅ぼす邪神のような存在がここに引きこもっているのだとしたら、人類は終わりよ……」
エレノアは生気のない顔で冷や汗を流し、覚悟を決めて、生け垣のゲートの前で深く頭を下げた。
「わ、私は地上を代表して参りました、エレノアと申します! この聖域の主よ、どうか、不躾な訪問をお許しください……!」
彼女の声が、静まり返った最深層に響く。
その頃、ウッドハウスのリビングでは――。
「ん? なんか外で綺麗な声が聞こえたような……気のせいか?」
「ガルルン……(主、ただの羽虫なの。それより、もっとここを撫でるの……)」
「きゅきゅー(お外寒いから、お鍋の残りで雑炊にするのー)」
「あ、それいいね。じゃあ、ちょっとご飯持ってこよう」
世界最高峰の賢者が、外で文字通り「命がけの歴史的ファーストコンタクト」を試みてブルブルと震えていることなど露知らず。
ハルトと最強のモフモフたちは、今夜の『締めのお雑炊』のことだけで頭がいっぱいなのであった。
次の更新予定
2026年5月28日 08:07
『戦闘力ゼロの【プランター】スキルだけど、ダンジョンの最凶毒沼にネギ植えたら最高級の聖域が爆誕した 〜追放された園芸職人、絶滅種のモフモフ魔獣たちに囲まれて無自覚に神の野菜を育てる〜』 冰藍雷夏(ヒョウアイライカ) @rairaidengei
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