第7話 神のサツマイモと、聖域(ひきこもり)の完成

​「おーい、みんな。今日はサツマイモの苗を植えるぞ。秋には最高に甘い焼きイモが食べられるからな!」

​「ガルルン!(焼きイモ! 新しい響きだけど、絶対に美味しいやつなの!)」

「きゅきゅーっ!(甘いおイモ、早く食べたいのー!)」

「ワン、ワン、ワン!(ボク、いっぱい土を掘るの!)」

 天穿ギルドの支部長たちをパンツ一丁で強制送還してから数日。


 俺たちの菜園は、さらにのどかで平和な時間を刻んでいた。地上で元ギルドが「神の領域を侵した罰で全裸にされた」とか何とか言われて社会的・組織的に完全崩壊しかけているらしいが、地下深層にいる俺には関係のない話だ。

 今回の主役はサツマイモ。

 実家から持ってきた『紅はるか』の苗だ。サツマイモの栽培は、あえて少し痩せた土や乾燥気味の土地の方が甘みが強くなると言われている。

「よし、ポテト、そこへうねを高く盛ってくれ。水はいつもより少なめでいくぞ」

 ポテトが三つの首で器用に土を盛り、綺麗な畝を作っていく。


 俺はそこへ、サツマイモの苗を斜めに一本ずつ差し込んでいった。そして、仕上げにクリスタルの聖水をほんの少し、霧吹きでサラサラと吹きかける。

『ピキィィィィィィン!』

 空間が心地よく弾ける。

 植えられた苗から、一瞬にして鮮やかな緑色のツルが四方八方へと力強く伸び広がっていった。土の奥深くに眠る【プランター】の概念が、サツマイモの「甘みを限界まで溜め込む」という性質を神の領域へと引き上げていく。


 ツルの葉はまるで紫水晶アメジストのような高貴な輝きを放ち、菜園全体にどこかお菓子のような、優しく甘い香りが漂い始めた。

「よし、サツマイモは収穫までゆっくり待つとして……そろそろ、この菜園を本当の意味で『我が家』にしよう」

 これまではベンチとテント代わりの布一枚で過ごしていたが、モフモフたちも増えたことだし、しっかりとした拠点が欲しい。

「スキル発動――【プランター・大農園拡張】」

​俺が胸の奥の魔力を一気に練り上げると、ぽんぽんぽんぽん!と心地よい音が連続して響いた。


 焦げ茶色のプランターが、元・毒沼エリアの全域を埋め尽くすように出現。それに伴い、直径数キロメートルに及ぶデスゾーンのすべてが、完全に『最高級の肥沃な大自然の聖域』へと上書きされた。

 さらに、中央にそびえ立つクワの神木から、サラサラと頑丈な枝が伸びてくる。


 その枝は俺たちのベンチを包み込むようにして自動で編み上げられ、気がつけば、木の温もりあふれる広々とした『2階建てのウッドハウス(神木製)』が完成していた。


​「うわあ……! ログハウスまで自動で生えてくるなんて、最近の園芸スキルは至れり尽くせりだなあ」

 窓からはクリスタルの泉が見え、リビングにはフェンリルが丸くなれる特大のスペースもある。


 完全に最高級リゾート地の別荘だ。


​「きゅきゅー(氷水晶がなくても、お部屋の中がすっごく涼しくて快適なのー!)」


 バニーがリビングのふかふかの芝生の絨毯の上をピョンピョンと跳ね回る。


 クワの神木が放つ結界のおかげで、室内は常に完璧な温度と湿度に保たれており、ほのかにトマトやネギのみずみずしい良い香りが漂っている。

「ガルルン……主、ここは最高の巣なの。我、一生ここで暮らすの……」


 フェンリルも床にゴロンと横たわり、すでに完全な野生を忘れてリラックスモードだ。

「よし、家が完成したお祝いだ。ちょっと早いけど、サツマイモを試し掘りしてみよう!」

 俺が外の畑に向かい、アメジスト色のツルの根元にシャベルを入れる。


 ザクッ、と土をかき分けると――。

ピカァァァァァァァッ!!!

 中から現れたのは、まるで巨大なルビーのように赤紫色の光を放つ、丸々と太った超特大のサツマイモだった。

『個体名【極光の神蜜芋紅はるか】が収穫されました。一口食べるだけで、あらゆる魔法や物理攻撃を無力化する【神聖絶対障壁】が常時発動します』

「うお、重いっ……! よし、これを作ったばかりのウッドハウスの暖炉で『石焼きイモ』にするぞ!」

 俺はクワの木の雷撃で適度に熱せられた上質な石を暖炉に敷き詰め、リュックの中にあったアルミホイルに包んだサツマイモを投入した。


 じっくり、じっくりと時間をかけて熱を通していく。

 数十分後。

 アルミホイルを開いた瞬間、部屋中に「とろり」とした、脳がとろけそうなほどの圧倒的な甘い香りが爆発した。


 ナイフで割ると、中は完全に黄金色のジャムのようになっており、蜜がポタポタと滴り落ちている。

「はい、みんな、熱いから気をつけて食べてね」

 フーフーと息を吹きかけながら、みんなで一斉に黄金の果肉を口に含む。

ねっとり……じゅわぁぁぁぁぁ……!

「な、何これ……! 砂糖なんて比べ物にならないくらい甘いのに、上品で全然くどくない! 濃厚なスイートポテトをそのまま食べてるみたいだ……!」

​「ガ、ガルゥゥゥン!?(あ、甘い……! 甘美すぎて、我の魂が天に召されそうなのー!?)」

「きゅきゅきゅ、きゅーーーっ!!(お口の中で、お星様がビッグバンを起こしてるのー!!)」

「ワン! ワン! ワン!(美味しくて、三つの首が全部幸せなのー!)」

『個体名・フェンリル、ヴォーパルバニー、ポテトが【極光の神蜜芋】により、【神獣:超越種】へ完全覚醒しました。世界の理から完全に逸脱しました』

「ふぅ……最高に美味かったな。これでいつでも、美味しいおイモが食べ放題だ」

 俺は蜜のついた指をペロリと舐め、窓の外に広がる広大な菜園を見渡した。

 水は綺麗、空気は美味しい。


 セキュリティは自動迎撃(&肥料変換)の神木製生け垣で完璧。


 家は快適なログハウス。


 そして、隣には世界最強にして、世界一可愛いモフモフの家族たちがいる。

「うん……やっぱりダンジョンの奥地って、静かで誰にも邪魔されないし、最高の『ひきこもり家庭菜園スポット』だな」

 地上では、天穿ギルドの崩壊に伴い、この『奈落の聖域』をめぐって国や世界中の超大物ギルドが「一体どんな神の職人が潜んでいるんだ……!?」と、おこぼれを預かろうと大争奪戦の準備を始め、歴史的な大激震が起きているのだが――。

「みんな、明日は何を植えようか? キャベツや白菜もいいな。冬にはみんなで鍋を囲もう!」

「ガルルン!」

「きゅきゅー!」

「ワン、ワン、ワン!」

 戦う気のまったく無い無自覚な園芸職人と、彼を溺愛する最強のモフモフたちによる、極上のスローライフ大農園。


 その平穏な扉は、誰にも破られることなく、地下深くでどこまでも幸せに開かれ続けるのだった。

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