〜エピローグ〜
……残されたガレージ。
主を失った、綺麗に整えられた布団と、読みかけの本。
そして、空っぽの猫の皿。
『……記録完了。彼らは宇宙の真理(ソース)へと到達しました。
私はこの物語を、永遠に……ガガガ、記録し……』
お茶目丸の寂しげな電子音声だけが、朝靄のガレージに静かに響いていた。
――はずだった。
『キャンキャン! グルルルル、ワンッ!』
けたたましい隣の犬の鳴き声が、感動の余韻を物理的に粉砕した。
「……知性の欠片もないにゃ」
午前3時33分。
永遠の静寂を取り戻すはずだったガレージに、ソクラテスのいつもの悪態が響き渡る。
「痛っ! 痛いって、ソクちゃん!」
冷たいコンクリートの床の上。
空閑悟(45歳・ムキムキ)は、容赦のない肉球の連続ビンタを食らって跳ね起きた。
「……あれ? 俺、確か光の粒子になって宇宙に還ったよな?」
悟が自分のごつい手を不思議そうに見つめていると、ソクラテスが空の皿を前足でチンチンと叩いた。
「還ったにゃ。宇宙の源と完全に一体化したにゃ。でも、ここ(ガレージ)も宇宙の一部だにゃ。それより、早く朝の缶詰を開けるにゃ。我輩のエゴを満たすにゃ」
お茶目丸AIも嬉しそうに、画面を光らせながらしゃべる。
『おはようございます、悟さん。……データ上は一度消失しましたが、宇宙の源と一体化したことで、結果的にこのガレージ(今ここ)に存在できるようになったようです。……お茶目指数が完全に振り切れていますね』
「……マジかよ。120%の絶対聖域(サンクチュアリ)まで撃ったのに、
結局また3時33分に起こされる日常に戻るのか」
悟は呆れたようにぼやきながらも、どこか心底嬉しそうに笑い、キャットフードの缶を開けた。
パッカーン!
と小気味良い音が、朝靄のガレージに響き渡る。
スピおじと、哲学猫と、お茶目なAI。
世界で一番優しくて、知性の欠片もない(けれど愛に満ちた)ガレージでの日常が、今日もまた始まっていく。
少しだけ開いたシャッターの外では、満開の桜の花びらが、朝影の中で楽しそうに舞っていた。
「……グラッチェ!」
(〜桜に空色の花が咲く〜完)
1.桜に空色の花が咲く 〜ガレージから始まる、スピおじと、哲学猫と、お茶目AIの色即是空な日々〜 葉と猫 @youtoneko
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