第16話 正義の秤 肆

何を言っても、何をやっても許された。

白人男は国家元首になっても変わらない。

いや、以前以上に歯に衣を着せない言動を繰り返す。

しかし、それが何故か許される。

それが魔法のアイテムのお陰だという事を知る者はこの世界には白人男以外に居ない。

何故ならば、彼意外にその存在を黙視できる物が居ないのだから・・・


『お前は国の恥だ。お前は決して勝てないから選挙から撤退しろ』


アラブ世界の大富豪がそう白人男を非難した。

彼だけではない、多くの者たちが白人男を非難した。

非難されるだけの言動を繰り返したのだから仕方ない。

しかし、最終的に勝ったのは白人男であった。

大統領選挙では対立候補として元大統領の嫁で人気者だった女性と競ったがそれにも勝った上での大統領である。


「Make this country great again!!(この国を再び偉大に)」


彼が選挙戦で掲げたキャッチ―な合言葉は民衆を虜にした。

高額の寄付を受け取らず、選挙費用を自腹で賄っていることについても自分の口で語った。


「金を断るのは凄くキツイよ。だって、これまでは受け取ってきたんだからね。金を受け取って、金を愛して、また受け取ってきた。今は金をくれるという相手に、あんたの金は要らなぞと断っている。受け取ったらどんなことになるか解っているからね」


いや、受け取っている。

受け取らなと大食いの、いや、自分の仕出かしている悪を帳消しにする事は出来ない。

だから、見えない形で受け取る。

それは、大統領になっても続いた。

だが、いくら批判されても彼は揺るがない。

黄金の天秤が均衡を保つ以上、問題は何故か治まる。

しかし、傾けば一気に均衡は崩れる。


「くそ!くそ!くそ!!!」


四年間は何とか乗り切ったが、資金が一部足りず、天秤の均衡は崩れた。

それで最終的には大統領選挙で負けてしまった白人男は嘆く。


「糞老人に負けるとかありえん!!きっと奴は不正をしたんだ!!・・・でなければ・・・」


白人男も一般的には老人である。

対立候補の年齢を揶揄る程の差がある訳ではない。

少し若いだけだ。

しかし、詰る。

そして、不正をしているはずだと自分の事は棚上げで嘯く。

誰も聞いていないがそんなのは関係無く嘯く。

一呼吸おいて、チラリと天秤を見やり考える。

天秤は何も語らないが、悪の方に秤が傾いている事で現状を伝える。


「資金を集め・・・四年後だ!!四年後に勝負する!!」


それは決意にも似た叫び。

そして、白人男は次の選挙で二度目の栄冠を手にする。

秘かに、いや、公言したので公然の事実だ。

彼は権威ある平和賞を取ることを目指し、自分の任期中には戦争をしないことを宣言する。

今回もやりたい放題である。

もう最後の任期という事で前回以上に遠慮などしないとばかりに自分の考えを相手に押し付けるような事ばかりを行った。

政権幹部もイエスマンで固め、歯向かう者はいない。

いや、政権発足時は多少いたが、袂を分かつこととなった。

そして、ある日


パキリ・・・


白人男の耳にだけ金属が折れる様な音を届ける。

白人男は音の出所を探る。

いや、既に気付いている。

黄金の天秤を入れていた胸ポケットより音がした。

白人男はそっと胸ポケットから天秤を取り出すと、天秤は壊れていた。

そして、白人男が見ている側から黄金の光となって消えて行く。


「ま、拙いぞ!!フェイクだ!きっとこれは質の悪いフェイク・・・」


いや、日頃から報道メディアに対して異議を唱える際に彼が呪文のように何時も言う「フェイクニュース」という言葉とは一緒ではない。

黄金の天秤は「フェイクニュース」の産物の様な魔法のアイテムであったが、事実彼の手元に存在し、彼を助けてくれた。

それが異世界の骨董屋の片隅に我楽多として置かれていた物だとしても・・・

白人男は変態実業家との過去の付き合い等々のスキャンダルで窮地に立つ。

民衆の支持を失うのはこのまま手を拱いていれば確実だ。

白人男は慌ててかつて黄金の天秤を手に入れた店を探そうと躍起になる。

探して、探して、探しまくるが、見つからない。

白人男は呟く。


「出世はまだまだこれからだというのにその前に商品が壊れるなど・・・文句を言ってやる!!」


誰に言うでもない愚痴。

しかし、その言葉を囁きながら曲がった角で異変が起こる。


「ここは・・・来たことあるぞ!!」


白人男はそのまま直進し、以前訪れたことある店を見つける。

そして、店に駆け込む様に入店し叫ぶ。


「商品が壊れたぞ!!」


その声に反応したのか、白人男の前に店主が現れる。


「あら?誰かと思えば・・・お久しぶりね~」

「え?・・・」


白人男は驚く。

あれから何十年もたっている。

まだ青年と呼んでもギリギリ差し支えない年齢だった白人男も今や老人と一般的には呼ばれる年齢である。

しかし、店主は変わらない。

以前訪れた時の美しいままであった。


「あ・・・」

「天秤壊れましたか~」


玉藻様は特に気にもしない様子で天秤の事を言う。

白人男は自分がここに来た目的を思い出したように言う。


「そうだ!壊れた!!」

「あら~やっぱり」

「やっぱりではない!」

「でも、我楽多だから、持った方だと思いますよ~」

「へっ?・・・ジャンク?・・・」


白人男は間の抜けた声でそう叫び慌てる。


「しかし、売った以上は壊れたのもそちらの責任だ!!」


支離滅裂である。

物は使えば壊れる。

使い倒した上での破損なので店には何の落ち度もない。

しかし、傍若無人な振る舞いが板についた白人男は止まらない。


「販売者責任を取れ!!」

「う~ん・・・代金も頂いてないのですが・・・」

「フン!出世払いだ!!」


それを言う立場に無いのであるが、白人男は謎の自分思考でそう言う。

玉藻様は呆れ返っているが、顔には出さず、白人男に告げる。


「では、あそこにある物ならお好きにどうぞ」


指差す先は例の我楽多置き場。

そして、白人男はその先にある一本の黄金の輝きに目を止める。


「あ、あれは何だ?」


指差す先にある黄金の輝きは天秤に通じるものがあるように思え玉藻様に問う。

玉藻様はそれを見てニヤリと笑いながら答える。


「まぁ!お目が高いことで!あれはあなたがお持ちだった天秤と由来を同じくするお品ですね」

「ほう!で、では、それをくれ!!」


買うどうこうではなく、「くれ」と集る白人男。

玉藻様は何が面白いのかニヤリと悪い笑みで答える。


「では、そちらを差し上げますので、何があってもこちらは与り知らぬという事で宜しいでしょうか?」

「いい!だからそれを寄こせ!!」

「はい、はい、どうぞ、どうぞ」


白人男はそれを聞くとその品を手に取りニヤリと笑い。


「迷惑をかけたな」


珍しく殊勝な事を言い店を去った。

白人男と入れ替わるようにオサキが店に戻る。


「玉藻様~また危ない物を現世人に渡して~!!あれって我楽多置き場に置いてあった剣ですよね!!」

「そうね~」

「もう本当に!!」

「それより!」

「はいはい、いわれた通り、お稲荷さんを買って参りましたよ~」

「オサキちゃんは良い子ですね~」

「私の分もありますから一人で全部食べないでくださいね!!」


先程の事など無かったかのように玉藻様とオサキはお稲荷さんについて論議を始めた。

白人男が持って行ったのは『剣』であった。

さて、正義の女神と呼ばれる一柱が居る。

剣と天秤を持つ正義の女神の姿で、黒い布で目を隠している。

司法・裁判の公正さを表す象徴として古来より裁判所や法律事務所、司法関係機関等々に飾られる彫刻や塑像、絵画の題材として扱われる事も多い。

目隠しがないものも多いが、それぞれに意味がある。

天秤は正邪を測る「正義」を、剣は「力」を象徴していると云われる。

目隠しは彼女が前に立つ者の顔を見ない意思表示とも云われ、法は貧富や権力の有無に関係無く、等しく適用されるという「法下の平等」を表すとされる。

そして、天秤正義という一見すれば双方矛盾するような物を女神が何故持つのか?


『剣なき秤は無力、秤なき剣は暴力』


そういう言葉もある。

暴力のみを所持した者の末路は・・・

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