第13話 正義の秤 壱

異界と現世の狭間、そこに『異界堂いかいどう』の屋号の骨董店がある。

店主曰く、「異界にあるから異界堂」らしい。


「今日もお客様は来ませんね」

「今日も?」

「いえ・・・今日はの間違いでした」

「うふふふふふ、事実、ここ最近来ていないからで合ってるわよ~」

「そ、そうですよね!あら?噂をすればご来店みたいです!」


店先に人影、店の入り口を開けは言って来た白人男性は開口一番問う。


「ここは何処だ?」

「異界堂という骨董店ですよ」


オサキが店員として白人男性に答える。


「フン!アンティークショップか・・・見れば古臭い物ばかり置いているな」

「冷やかしですか?」

「客に対して何だ?その口の聞き方は!そんな事じゃ真面まっとうなディールは出来ないぞ」


横柄な白人男は鼻で笑いながらオサキにそう言って悪態をつく。

オサキはムムムとなりながら笑顔を引き攣らせて何かを言おうとする。

しかし、そこに割り込む様な形で玉藻様が声を掛ける。


「ここは何処かお知りになりたいという事は迷子ですか?」

「ビ、ビューティフル!!」


玉藻様が声を掛けたことで、その存在に気が付いた白人男は玉藻様を見てそう叫び、玉藻様に寄って行く。


「是非とも俺と夜明けの朝食を!!」


行き成りの口説き文句、それも下品な口説き文句を言う白人男性にオサキがキレる。


「玉藻様になんて無礼な!!」

「オサキちゃん!一応お客様だから、ドウドウ、押さえて~」

「う・・・玉藻様がそう言うのであれば・・・」


客商売というものはこのような変なお客様を相手にする事もままある事であり、玉藻様は気にした様子もなくそれに答える。


「生憎と私は娼婦では御座いませんので、それ以上言うようでしたらお引き取りを」

「ソ、ソーリー、ワハハハハハ、軽いジョークだよ。ジョーク!怒らないでくれよ、美しい顔がだいな・・・いや、怒っても美しい!!」


白人男の調子の良い言葉に毒気を抜かれる玉藻様であった。

玉藻様はコロコロと笑い、白人男の疑問に再度答える様に問う。


「ここが何処かお知りになりたいという事で宜しいかですか?」

「オー!そうそう、ここは何処だ?」

「異界、貴方様が元居た場所から言えば、別世界と言う事になりますね」

「アナザーワールド・・・ジャプのオタクとかいう連中が夢想する場所か?」

「うふふふふふ、似た様なものですね」

「オー!クレイジー!!俺はそんな場所に来た?」


オーバリアクションで驚く白人男。

玉藻様は興味有り気にその男を見詰める。


「そんな場所に来たのなら記念にこの店で何か買おう!」

「毎度あり!!」


まだ買っていないというのにオサキは白人男に購入後の挨拶の様なセリフを吐いて揉み手に笑顔で愛想を振りまく。


「よし!少し店の商品を見せて貰うぞ!」

「どうぞ、どうぞ!!」


オサキは商売っ気を出して先程までの態度を改め、愛嬌を振り撒く。

白人男は興味深げに店の商品を見て行く。

白人男が店の片隅に置かれた品々の中から一点を凝視し、近寄って行く。


「これを売って欲しい。幾らだ?」

「そちら売り物では御座いません」

「フン!客が欲しいと言うのだから売るのがグッドディールだぞ」


白人男が指差した先にある物を玉藻様は確認し、売り物ではないと御断りを入れたのであるが、白人男は納得しない。


「そちらをどうしても欲しと?」

「欲しい!」

「はぁ~どうしてもですか?」

「どうしてもだ!」

「・・・分かりました」

「フン!客が望む物を売るのが商売だぞ!しかと覚えておくとよいぞ」

「うふふふふふ、左様ですか」


白人男は自分の物になったと言わんばかりにその品を手にして頷く。


「幾らだ?」

「そうですね・・・本来売り物でも御座いませんので」

「金を払うと言うのだから貰っておけ!それがディールというものだ!」

「そう申されましても・・・では、出世払いでは如何でしょう?」


白人男は「出世払い」というものを知らなかった様で説明を受ける。

説明を受けて面白いと思ったようで、玉藻様の提案を受け入れる。


「グッドディールだった!出世したらまた来るから楽しみにしていろ!俺はビックになる男だからな!ワハハハハハ~」


白人男は意気揚々と自分の求めた品を確りと持ち、店を出て行った。

騒がしかった白人男が店を去ると一気に静寂が訪れたように静かになる。


「玉藻さま~」

「なに?オサキちゃん」

「さっきのあれが持って行ったのって」

「うふふふふふ」

「うふふじゃないですよ!また神に纏わる品ですよね?」

「そうね~」

「なのに我楽多?」


オサキが見る方にはいくつかの品が並んで居るが、木札に大きく『我楽多置き場』と書かれている一角だった。


「そうね~あの人は我楽多なんか持って行ってどうするんでしょうね~」

「です、です!どうすると言うか、あの天秤ってどちらの神の所有物だったんです?」

「うふふふふふ」

「また~そうやって誤魔化す~・・・あ!目隠ししてた女神様がこの間お見えでしたよね?」

「そうだったかしら?」


オサキはそれ以上聞くのを諦めて先程の客の白人男が我楽多とはいえ神の元持ち物を持って行ってどうなるかを考えるのであった。

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