第12話 死神の木札 肆
異界と現世の狭間、そこに『
店主曰く、「異界にあるから異界堂」らしい。
骨董界では実しやかにその存在が囁かれており、厄介な骨董品はここに持ち込むと良いなどと言われている。
「あら、懐かしいわね」
「これをご存じで?」
「うふふふふふ、そうね~」
ある骨董店の店主が異界堂にある物を持ち込んで来た。
その骨董店の店主曰く、毎夜枕元に死神を名乗る老人が立つと言う。
遺品整理で持ち込まれた品だということでこの骨董店に流れ着いた品であった。
価値としては無価値に等しい物なのであるが、何故か目を引く品で、興味を持ったある遺品整理業者の者が引き取ったらしい。
引き取った遺品整理業者の者の許にも毎夜毎夜死神を名乗る老人が現れた。
「その死神は何と?」
「『医者にならぬか?』と言って来るんですよ・・・」
「お医者様に?」
「はい・・・こちとら骨董屋ですから、今更医者になる為に勉強など・・・出来る訳ないのに言って来るんですよ」
「うふふふふふ、それはそれは」
「まぁそんな品だからこそ是非ともお引き取り頂きたい!」
「はい、はい、引き取らせて頂きましょう」
玉藻様はそう言って古ぼけた木札を引き取る。
骨董店の店主が店を去ると、また店を訪れる者が居た。
「ごめんなすって」
「あら?いらっしゃいませ」
「こちらに木札が収められたと聞き伺いました」
「ああ、これね」
「はい!」
店に入って来たのは老人の姿をした・・・
★~~~~~★
そんなある日、娘の美香が倒れたという。
急ぎ娘の許に行くと
『何故居る?』
娘の枕元に黒い人影。
そう、死神が娘の枕元に立っていた。
『どういう事だ?』
西医師の娘の美香はまだまだ若い。
若いという事は寿命はまだまだあるはず。
なのに今死神が立つ場所は足元ではなく枕元である。
「はぁはぁはぁ、お父さん」
「美香・・・大丈夫か?」
「大丈夫じゃないみたい・・・」
そう言いながら苦笑いする美香。
西医師は死神を一睨みするが、死神は何処吹く風である。
「冗談!冗談だから・・・気にしないで」
「大丈夫だからな!美香の事は俺が何とかする!」
「もう!お父さんは!本当に大丈夫!寝てれば治るから!」
美香は気丈にもそう言って西医師を宥める。
西医師が死神を睨んだことを何か勘違いした様で美香はそう言ってから眠りにつく。
『くそ!どうすればいい?』
一晩考えても良い考えは浮かばない。
しかし、一つだけ方法はないこともなかった。
落語話『死神』のオチとも言える話。
医者になった男は何故窮地に陥ったのか?
そこに答えがあった。
西医師は眠っている娘の許を訪れると唱える。
「アジャラカモクレン、キュウライス、テケレッツのパー!」
その呪文を唱えると死神は苦笑いをしながら消えて行った。
そして、その夜、西医師の許に老人の姿をした死神が現れる。
「またお会いしましたな」
「そうですね・・・」
老人姿の死神は困った様な顔で告げる。
「あなたの寿命は娘御に行きましたから後50年程は生きられましょう」
「へ~俺は意外と長生きだったんだな」
「のようですな」
「それで?俺を迎えに来たか?」
老人姿の死神は苦笑いし、告げる。
「いえね、もう昔の話ではありますが、本来はあなたの奥方を連れて行くのではなく娘御を連れて行く予定だったのですよ。それを部下が誤って奥方の方を連れて来た」
「あ・・・」
「代わりに娘御に奥方の寿命を与えたのですよ」
「それで今は?」
「今度はあなたの寿命が娘御に行きましたな」
「そうか・・・良かった・・・」
老人姿の死神は眉を潜め西医師を見詰める。
落語話『死神』のオチでは命の蝋燭を死神が男に与えるのであるが、代わりになる蝋燭は誰かの命の蝋燭である。
もし仮に用意するとすれば、誰かの命を代わりに奪うこととなる。
それは、未来に生まれて来る誰かの子供の命かもしれない。
「如何されます?」
「何をだ?」
老人姿の死神はそっと懐から1本の蝋燭を取り出す。
西医師はそれを眺め考える。
そして、死神に問う。
「誰の蝋燭だ?」
「娘さんのお腹の」
「・・・」
娘の美香は来春に結婚する予定であった。
そのお相手は西医師の部下の一人でもあった。
もうそんな仲だったのかと驚きつつも、まだ見ぬ孫の姿を夢想し微笑む。
そして、西医師は死神に告げる。
「その蝋燭は使う気は無い」
「左様で・・・」
「俺は死ぬだろうが、娘と孫は大丈夫なのか?」
「はい、帳尻は合いますから」
何の帳尻かは聞くまでもない。
その翌日、西医師は心臓発作でこの世を去った。
娘の美香は嘘のように回復し、精密検査の結果、妊娠していることが告げられた。
★~~~~~★
「そんなことがあったのですよ」
「左様ですか~」
老人姿の死神が玉藻様に語って聞かせた医師の物語であった。
「この木札に書いてある『キュウライス』って何ですの?」
「ああ、それは今年の死神を退ける合言葉ですよ」
「毎年変わるのです?」
「毎年変わりますね。それ位のセキュリティーは必要でしょ?そして、その木札を持つ者がそれを唱えると死神は去ることが義務付けられていますし、体制は万全ですよ」
「という事はこの木札は契約書の代りですか?」
「まぁそんなものですよ」
死神曰く、木札に書かれている文字こそが『合言葉』で、木札の持ち主がそれを唱える事で契約事項の行動を死神が取るという。
その契約事項には死神の立ち位置に関することも含まれているであろうことはお察しである。
玉藻様はその話を聞くと木札をそっと死神に差し出した。
「良いので?」
「私は医者になりませんし・・・使い所もありませんからね~」
「そうですね。あなた位力を持つ妖狐なら人の生き死に位どうとでも成りますな」
「殺すのは簡単だけど、生かすのは中々難しいですよ~」
「ほっほっほ、左様ですか」
「左様です」
死神は木札を懐に仕舞うと玉藻様にお暇の挨拶をして去って行った。
「玉藻様!」
「何?」
「さっきの方って多分菩薩様ですよね!!」
「どうかしら~」
「え~初めて見ましたけど、あんな格の高いお力を持つ方なんてそうそういませんよ!!」
「うふふふふ」
「又そうやって誤魔化す~」
阿弥陀如来は
他にも臨終のお迎えには諸説あるが、果たして何者がお迎えにやって来るのだろうか?
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