第6話 のっぺらぼうの手鏡 弐

「うう~一緒に泣いちゃいました!」

「うふふふふふ、オサキちゃんは感動屋さんね~」

「それより!手鏡の代価のそれ・・・」


オサキは机の上に置かれた手鏡の代価として玉藻様が求めたそれを指さし、顔を歪める。


「いい品が手に入ったは~」

「いい品って・・・それって呪物ですよね?」

「そうね~」

「それも特にヤバいヤツ!」

「うふふふふふ」

「うふふじゃないですよ!!間違いなく特異点になるレベルのヤツですよね!!」

「そうね~既に小地獄と化してるわね~」

「うげっ!」


件の品は櫛であった。

手鏡を購入していった女の母の形見だという。

櫛は一般的には『苦』と『死』を連想させるという事で、贈り物などには向かない品と言われている。

しかし、江戸時代頃はプロポーズの際に櫛を贈る事もあったという。

『苦楽を共に過ごし、死ぬまで添い遂げよう』という意味が込められたとも・・・

件の櫛はまさに彼女の父が母に対して贈った品であった。

それが何故に呪物になっているのか。

闇は深い。

オサキは渋い顔で、玉藻様は意味深な笑顔でその櫛を見詰める。


★~~~~~★


のっぺらぼうの手鏡を購入した女の名は華御無かおなし杏香きょうかと言う。

数奇な運命の女性で、杏香の母は杏香を産んだ際に産後の肥立ちが悪く鬼籍に入った。

杏香の父は片親で杏香を育てたが杏香が17歳の時に大病を患い、19歳の時に亡くなった。

臨終の際の言葉は「お前さへ生まれて来なければ」であった。

そして、顔の火傷はこの父による仕業であった。

10歳の時、杏香は父から熱湯をかけられた。

それも、カップ麺を作る為のお湯をかけられるという何とも言えない出来事だった。

杏香の不注意でお湯が顔にかかったという事にされたが、明らかに父親の故意であった。

現在の杏香は天涯孤独の身で、現在24歳であった。

仕事は普通にOLをしているのであるが、人間関係が上手く行っていない。

顔に火傷の痕があった為、それを隠す様に前髪を長く伸ばし、片方の目が隠れている髪型は杏香の印象を悪くした。

その為、会社では日陰者と言ってもおかしくない程の待遇であったが、生きて行く為には仕方ないと半ば諦め働いていた。

そんな杏香に今まさに転機が訪れたのである。


「えへへへへへ・・・えへへへへへ・・・」


件の手鏡ではなく家に元から在る鏡で自分の顔を眺めながら変に気持ち悪い笑い声を出しながら微笑む杏香。

端から見たら気持ち悪い構図ではあるが本人は今は気にしない。

しかし、それも仕方ない事であろう。

杏香にとって一番のコンプレックスであった火傷痕が綺麗さっぱり無くなっているのである。

のっぺらぼうの手鏡の能力は顔のパーツを落とすといったもので、杏香の火傷痕は異界堂で玉藻様の手解きで杏香の顔から取り除かれていた。


「火傷痕以外では使わない方がいいわよ~」


玉藻様がそう杏香に忠告していた。

ふとその事を思い出した杏香は付属で渡された木の箱を見やる。

中には件の手櫛が収められているのである。

玉藻様は杏香に他にも幾つかアドバイスをしていた。


「この木箱に入れておけば安心よ~」

「安心ですか?」

「そうそう、この手鏡はモノノ怪の道具だからね~」

「そ、そのモノノ怪の道具だと何かいけないのですか?」

「モノノ怪の道具にはね妖力があるの」

「ようりょく?」

「そう、妖力!持っているだけでもその妖力に中てられて」

「中てられて?」

「モノノ怪に」

「モノノ怪に・・・ゴクン!」

「なっちゃうかも・・・しれないわね~」


冗談めかしに玉藻様はそう言ったが、店員のオサキさんが言っていたことを杏香は思い出す。


「いや、いや、いや!絶対そうなるヤツじゃないですか!!絶対、絶対、絶対に!これ以上使っちゃだめよ!!」

「は、はい・・・分かりました」


本当に心配してくれたのだと判り、その言に従おうと心に誓う。

杏香は封印でもする様に手鏡を鏡台の奥に仕舞った。


「あら?華御無かおなしさんイメチェン?」

「あ、はい・・・そんな感じです」

「へぇ~良いんじゃない!」


次の日から杏香は前髪をサイドに流し、今まで隠す様にしていた部分を隠さないようにした。

最初は恥ずかしかった。

しかし、数日もすると慣れた。

そして、その変化は周りにも波及した。


「杏香ちゃんこれお願い」

華御無かおなしさん今日のランチ一緒しない?」


老若男女、今まで杏香の事を見向きもしなかった周りが声を掛けて来る。

特に独身男性陣は色めき立った。


華御無かおなしさんてあんなに美人だったんだな」

「何で今まで気が付かなかったんだ?」

「いや、半分顔隠してたし」

「それでも気が付かないとかあるか?」


そんな話が杏香の居ない所で囁かれたりもした。

火傷痕を理由に顔の半分を隠す様にしていただけの影響とは思えない。

そう、実は親の形見の櫛の影響も多大にあったのであるが、杏香は勿論、その事は知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る