第5話 のっぺらぼうの手鏡 壱
異界と現世の狭間、そこに『
店主曰く、「異界にあるから異界堂」らしい。
「え~と・・・すみません」
「おや、現世人が来るとは珍しい・・・いや、最近も来たんわね」
「現世人?」
疲れ切った顔の女は会社と家の行き帰りで通る何時もの道に見慣れぬ横道を見つける。
何時もならばそんな道を見つけても気にせずに通り過ぎるのに、その日はどういう訳かその見慣れぬ道へと歩を進めた。
それはまるで何かに引き寄せられるように。
そして、辿り着いた一軒の骨董店、『異界堂』という看板がある。
女は気になりその骨董店の入り口を潜る。
中には様々な品物が並んでおり、疲れ顔の女はその疲れを忘れたように一つ一つの品々興味深げに見て歩く。
そんな中、一点の手鏡に吸い寄せられるように目が行き、目を離すことが出来ない。
一目惚れというものがあるが、まさにそれであった。
女は周りを見回し、店員を見つけ声を掛ける。
その店員は女の事を「現世人」と呼んだ。
ホモ・サピエンスが現世人類の祖と言われているが、店員がそう言う意味で自分を「現世人」と呼んでいないのは何となく理解出来たが、意味は解らない。
「あ~現世人の意味が解らないって顔ですね」
「はい・・・その・・・」
疲れ顔の女は聞いて良いのか分からずに口籠る。
それを見た店員は説明を始める。
「今、貴方様が居るここは隠世」
「かくりよ・・・」
「そう!貴方様の元居た世界から言うとここは異界ね」
「え?・・・異界ですか?」
「そうそう!貴方様の許いた所を
疲れ顔の女と店員が話していると、奥より声がする。
「オサキちゃん、お客様でも来たのかしら?」
「そうです!玉藻様!!お客様ですよー!!」
どうやら店員の名はオサキさんという名らしいという事と、『様』付けで呼ばれたという事は綺麗な声の主は店主なのだろうと思い、疲れ顔の女はその声のする方に顔を向ける。
「いらっしゃいませ~」
「いらっしゃってます・・・」
現れた玉藻様を見て女は固まる。
そして、動揺した為変な返しをしてしまい、顔を赤らめる。
そう、女の見た玉藻様はどんなモデルよりも女優よりも綺麗で、同姓ですら魅了されてしまいそうな圧倒的な美がそこに在った。
「何かお聞きしたいので?」
「え?」
「うふふふふふ、さっきからそっちの手鏡を熱心に見ていらっしゃいましたよね?」
「あ!はい!その手鏡が気に入りまして・・・出来れば購入したいと思いまして、その・・・」
「左様でしたか!良い品ですからね~」
「そ、そうなんですね・・・」
疲れ目の女は高いだろうなと思い、委縮する。
それに、さっき店員のオサキさんに聞いていた話の続きも気になっていた。
しかし、それ以上に手鏡に魅了されている為、先に購入したいという思いが強く、如何したら買えるかを模索する。
疲れ目の女は気が付かないが、その様子を玉藻様は興味深げに観察するように見ている。
その様子を更に見ているオサキは「またか」と思い、その様子をジッと黙って見つめる。
「あの!」
「はい、何で御座いましょう?」
「どうしても欲しいので売ってください!足りなければ、後で足りない分をお持ちします!!」
「そんなに欲しいのですか?」
「はい!」
「どうしても?」
「どうしてもです!!」
疲れ目の女の購入意思は固いようである。
玉藻様はにんまりと笑顔である提案をした。
「ほ、本当に良いのですか?」
「勿論です」
「本当に、本当に良いのですか?」
「本当に、本当に良いですよ~」
「あ、ありがとうございます!!」
「いえ、いえ」
「それで・・・」
疲れ目の女はもう一つ気になった「異界」について聞こうとしたが、玉藻様は何を勘違いしたのか手鏡の事について説明しだす。
「その手鏡はのっぺらぼうが廃業するからとここに置いて行った品でしてね」
「え?のっぺらぼう?・・・のっぺらぼうってあの?」
「あののっぺらぼうがどののっぺらぼうかは存じ上げませんが、顔に目・鼻・口の無いあやかし、妖怪ですね」
「そっぺらぼうが廃業?・・・職業なんですか?」
「うふふふふふ、お客様は中々面白い事をお言いですね~」
「あ・・・すみません・・・」
「いえ、謝る事では御座いませんよ~そうですね・・・のっぺらぼうはタヌキやキツネ、ムジナといった人を化かす獣が化けているなどと言われる事もありますが、列記としたモノノ怪でしてね、最初はちゃんと顔があるんですけど、相手を驚かす段階でその今お手元にあります手鏡で顔を弄るのですよ」
「顔を弄る?」
「そうそう」
「と、いう事は・・・」
「はい!その手鏡で顔を変えることが出来ますよ~」
疲れ目の女は驚き、更に玉藻様に質問する。
「例えばですが・・・これも消せますか?」
疲れ目の女は髪で隠れていた左目の辺りを髪をかき上げることで玉藻様に見せる。
そこには火傷の痕であろうか、少し爛れ、ケロイド状になった部分を露わにした。
「あ~その位の傷なんて一発ですね~」
「一発!!」
「試して見られます~?」
「是非!」
その後、使い方を教えられた疲れ目の女はその火傷痕を消し、涙を流し、大泣きしてしまった。
落ち着いてから店を後にした。
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