おっ、桜咲いてんじゃん。ちょっと見ていくか(ウィーン)

青柴織部

桜舞い散っとる(笑)

 桜が咲いていた。

 満開だ。連日の冷たい雨でどうなるかと思ったが、しっかりと枝にしがみついてピンク色の花びらを開かせている。桜の下には死体が埋まっているというのは擦られまくったフレーズではあるが、なんとなくそう感じてしまうのは分かる。

 まあ私にもそれなりの情動は存在するもので、桜が咲いているのを見ると嬉しさを覚えたりはする。

 あ、なんか昔「私……感情ないんだ……(暗黒微笑)」していた頃を思い出してきたな。強く唇を噛むことでなんとか正気を保った。


 仕事場の近くの広場、最近整備されたばかりのベンチで私はパリパリチキンを齧っていた。

 この時期の昼時間、いつもの食堂は人事異動で別れた人と愚痴を言い合ったり、あるいは初対面同士が腹の探りあいをしていたり、新入社員が各々の弁当と希望に満ちた会話を広げており、とてもにぎやかだ。

 だから4月からゴールデンウィーク明けぐらいまで私は晴れていればそのへんの公園で昼を食べている。

 それを越せばまあまあ落ち着いてくる。新社会人のみんなもそのぐらいには会社に慣れというか諦めが出てくるぞ、頑張れ。

 私のいる部署は「みんなでお昼食べよ♡」ということはなく、それぞれが昼になるとひとりまたひとり消えていく。どこで食べているかも知らない。

 休憩時間ぐらいはほっといてくれ……のスタンスが全員にあるのでいいが、これ仮にお話し好きの人が異動してきたら困惑はするだろうな。


 ぼんやり空と桜を眺めているとおそらく近所の人に挨拶をされたのでにこやかな笑みで返す。

 もう今日のパワー20%消費した。社会人の礼節があれどコミュ障が強ければこんなもんである。

 頼む、これ以上近寄らないでくれと祈っていると通じたのか桜を写真にとり去っていった。勝った。勝ってねえよ。勝負でもない。なんなら負けてんだよ、世界に。


 桜と言えば、この時期に出る桜風味のお菓子好きなんだよな。なんならめちゃくちゃ楽しみにしている味でもある。

 ほんとうに桜の味か? っていうか桜の味ってなに? という疑問からはとっくに遠のいている。人生深く考えていないことも必要だ。

 たまにイチゴ味がひっそりと桜味の中に隠れているが、あれは誰も幸せにならないから止めてほしいなと思っている。

 あと桜餡とかも買ってパンにつけて食べたり、桜の塩漬けにされた花びらを水で軽く洗ってサイダーに入れて飲むのも好き。花より団子とはこういうことである。

 一か月もしないうちに店頭から消えてしまいさみしい。花びらのように儚いな、季節商品というのは。


 風がつよい。秒速五センチメートルよりも速いスピードで花が散っていく。

 くるくると空中を舞い、土の上に落ちていった。

 昨日まで降っていた雨によって湿り気を帯びているからなのか、それとも誰かが同じように桜を見に来ていたのか、無数の桜が地面にはりついていた。

 うっすらと色づいたピンク色はなりを潜めて大地に分解される様を嘆いているかのように変色している。

 いや、どうなんだろうな。花びらに感情なんてないだろうし、大地に戻ることを嘆くということももしかしたらないだろう。それって私の感想ですよね? むしろ私以外に誰がいるんだよ。


 上を向けば私を覆うようにして桜の枝が伸びている。その向こうには濃い青色が広がっていた。

 そういえばずいぶんと花見をしていない気がする。――いや、これも花見の一種だろうか。

 友達と花見をしたのは十年以上前だ。その時は日が傾くにつれて寒くて、それにライトアップもずいぶんとケチくさくて幹に光が当たっていた。

 でも騒ぐのが目的だからな。あの時はマジで帰りたいと思っていたが、こうして振り返ると……やっぱり帰りたい。私にアウトドアは難しいらしい。


 休憩時間の終わりが近い。ごみをまとめて私は立ち上がる。

 明後日には葉がちらほら見えているだろう。気づいたらピンクは緑になり、初夏が来る。その前に藤の花が咲くか。近所のごく小さな広場で紫が垂れ下がるのだ。あのもったりとした香りに会うこともまた楽しみだった。

 風でグワングワン揺れる枝に苦労しながら一枚桜の写真を撮った。最近のスマホは高性能で、ずいぶんときれいな写真が撮れた。

 帰る前、桜の木の下を見てみた。


 死体は埋まっていなかった。

 

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おっ、桜咲いてんじゃん。ちょっと見ていくか(ウィーン) 青柴織部 @aoshiba01

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