第17話 幼馴染に放課後連れ出された件

 詩の枠でのPR配信を終えて数日が経った。あの日のPR配信はどうやら大成功だったらしく、企業から感謝の手紙と、お礼としての商品が事務所へ送られてきたらしい。


 おじさんが車で持ってきてくれたが、引っ越しが終わったばかりだというのにまた段ボールの山を見ることとなっていた。


 どうやら詩はあの会社の製品が気に入ったらしく、早速鼻歌を歌いながら段ボールを開封していた。


 成功したのは何も詩だけではなかったようで、俺の方でもPR配信をやってほしい、という案件が事務所の方に届いているらしい。


 初めての試みで不安が残っていたが、無事終わってホッとした。


 そして、一段落ついた俺は今何をしているかと言うと……


「凛。どっちが似合うかな?」

「右。真冬は黒いTシャツばっかり着てるんだからカーゴパンツの1つくらい持ってていいんじゃね」


 真冬に、ショッピングモールに連れてこられていた。


 特に約束をしていたわけではなく、授業が終わった直後に不意に誘われたのだ。


 今日は詩も事務所の方で仕事があるらしく、帰りが遅くなるらしい。おじさんの送迎の車に乗る前にそう言ってくれていたのと、この後の予定も特になかったら真冬の誘いに乗ったのだ。


 そして今、俺は真冬の夏服選びに付き合わされている。


 真冬の右手にはカーキのカーゴパンツを、左手にはベージュのショートパンツを持っていた。


「ん〜じゃあ、凛の言う通りにしようかな」


 そう言いながら真冬はショートパンツを棚に戻す。


「にしても珍しいな、真冬が服買いたがるなんて。いっつもジャージとかだろ」

「んー……たまにはお洒落してみたくなってね」

「たまにって……お前年がら年中ジャージじゃないか」


 うっ、と言葉に詰まる真冬。


 顔が整っているからか全く気にならないが、真冬の私服はほとんどジャージである。


 高校に行く際には制服を綺麗に着こなす真冬だが、私生活を覗いてみると十中八九ジャージで髪もボサボサなのだ。


 端的に言うならば、お洒落無頓着女子であり、春になったばかりに夏服を購入するという女子高生みたいなこととは無縁な存在なのである。


 まぁ、でも化粧は好きらしく、肌のお手入れグッズから化粧品まで様々なものを持っており、単純にお洒落に全く興味がないというわけではないのかもしれない。


「今年の夏は色んなところに行ってみたくてね……もちろん凛も一緒だよ」

「聞いてませんでしたけど」

「今言ったからね」


 突拍子もないことを次々と口走る真冬だが、口元には笑みを浮かべており、上機嫌そうだ。


「海に行って、バーベキューして……夏祭りも行きたいな」

「お家大好きっ子とは思えない発言だな。どういう風の吹き回しだ?」

「ふっふーん。それは夏になってからのお楽しみだね……あ、これとこれはどっちがいいと思う?」

「あー……どっちでも似合うんじゃね?」

「適当になってないか?」

「なってないなってない」


 疑いの眼差しを向けてくる真冬から逃れるように、店内を見渡すと、めちゃくちゃ可愛いシアーのポロニットが目に留まった。え、これいいじゃん。


 色も黒で真冬が好きそうだ。


「これは? これめっちゃ可愛くね?」


 服を真冬に渡しながらそう言うと、思いのほか真冬は渋そうな顔をした。


「うーん……可愛いけど私には似合わないし」

「は? 似合うが?」


 何故かふてくされたような顔で言ってくる真冬に対し、俺は間髪入れずにそう返す。


「り、凛? 目が少し怖いよ?」

「お前、自分の可愛さを理解してないのか? 確かにお前はボーイッシュだしカッコいいと巷では持て囃されているだろうが、あくまでもボーイッシュなのであってボーイではないぞ?」

「かっ、可愛い!?」


 何を驚くことがあろうか、俺は美に対しては正直な男である。


 学校では女子たちに大人気を誇るほどのかっこよさを持ち合わせ(さすがに俺の方がカッコいい)、近所に住む女子大生は猫なで声で真冬に話しかけることがあり(それでも俺の方がカッコいい)、お祭りに行けば溢れ出る美のオーラで大抵の店で割引をしてもらえるほどの顔面だが(もしかしたら俺よりカッコいいかもしれない)、女の子らしい面もちゃんとあるのが真冬だ。……俺より全然カッコいい可能性があるな。


 美から目を背けるように真冬を見ると、真冬はひどく赤面していた。


「そっ、そんなオレが可愛いとかないから!」


 尚も否定する真冬に俺はため息をつく。


「自らの価値を理解してないのは由々しきことだぞ? 俺がもし真冬の顔面を持って生まれてたのなら、男子も女子も侍らせる学園生活を送るけどな」

「私は凛ほど歪んでないから」


 ヤバい思想の一端に触れたせいか、すぐに一人称が戻った。


「まーそんなに嫌がるなら無理強いはしないけど」


 そう言いながら真冬の手元から服を貰って元あった位置に戻そうとした時、真冬がバッと俺の手元から服を取り上げた。


「別に……嫌とは言ってない」


 そっぽを向きながらそう言う真冬。


「本当に似合うと思う?」


 少し不安げな顔で聞いてくる真冬に対して、俺は大きく頷いた。


 逡巡していた真冬だったが、試してみることを決めたのか、服を持って試着室の方へ歩き出した。


 そんな真冬の背中に俺は言葉をかける。


「もし似合わなくても俺が着るから大丈夫だぞ!」

「やめて服がのびる」

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