No.7 繰り返す誘い



 森に潜む化け物の巣窟。

 誰にもその場所は知られることはなく、年月は過ぎ去っていく。



 *****




「柊先輩……。今生きていたら、もう36歳になってますよね」



 憧れの先輩が失踪したニュースから、およそ10年が経つ。

 かつて柊の背中を追い続けた、科学部だった少年は、今となっては白衣が似合う立派な青年だ。


「先輩……、聞こえてますか。俺、マジで必死に勉強して、アルタイル機関に入ったんですよ! 先輩と働きたかったのに、いなくなっちゃったから……」


 青年は、車のハンドルを操作しながらつぶやく。

 彼が向かっているのは、山奥にある広々とした森だった。


「……でも俺、覚えてましたからね。先輩が最後に俺へ言った言葉。『七夕研究所に行く』って……!」


 柔らかな笑みが似合う先輩の顔を思い浮かべ、青年はまぶたに熱いものを感じる。

 無理やり片手で拭い、青年は車から降りた。




 森の奥。道行く先に、白いかさが開いている。


「うわっ、なんだこのキノコ。名前忘れたな。危険なヤツだった気がする……」


 青年は身震いしながら、ぬかるんだ泥の道をしっかりとした足取りで進む。

 その先には、朽ち果てた研究所の入り口があった。


「柊先輩は、この中に入って行方不明になったんですね。何があったのか、俺が絶対に確かめてやりますから……!」


 傷跡のついた鉄の扉を、青年はそっと開いた。

 中は真っ暗だ。懐中電灯を取り出そうと思った青年だが、電源を入れるスイッチが壁にあるのを見つけた。


「なんだ、電源が生きてるのか」


 青年はホッとしてため息をつく。

 苔が生えた床には、乱暴に引き裂かれた紙の破片が散らばっていた。




 ツ――、ツ――……、ガガガ



「……えっ。なんの音!?」


 青年はビクッと肩を震わせた。

 周囲をきょろきょろと見渡すと、壁の隅にある棚の上に、黒く古びた通信機が置いてある。


 その小さな機器から――聞き覚えのある声が聞こえた。




『あぁ……やっと来てくれた。ボクを助け出してくれ』




 それは、二度と聞くことはないと思っていた声だった。

 冷静で丁寧な口調で、それでも少しいたずらっぽい一面がある、懐かしい彼の声。


「先輩……?」


 青年は思わずつぶやき、通信機に手を伸ばす。


「先輩、生きていたんですか!? 10年間も!?」

『生きていたとも。なんとかね。それより、瓦礫が邪魔で放送室から出られないんだ。助けてくれないか』

「えっ……先輩、どうやって10年間生きていたんですか」


 まさか、何年も前に失踪した人物が生きていただなんて。嬉しいような、それでいてどこか恐ろしいような……


 困惑しながら、青年は必死に状況を理解しようとする。

 すると通信機の奥から、声が返ってきた。


『フフッ……。知りたいかい? ボクが生きている理由』

「……先輩?」

『だったら、この研究所の地下7階……その最奥まで来るといい』



 その声はどこか――餌に釣られたウサギを嗤う、残虐な肉食獣のように聞こえた。



『ガラスの部屋で、ボクは君を待っている』

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【被験体77について】 紫煌 みこと @boll

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