第30話 氷の令嬢の「最終宣告」は、永遠の檻の完成を告げる
秋の麗華祭(文化祭)の舞台裏、旧校舎の最奥に位置する密室での「ロングメイド服メルトダウン」を経て、僕たちの関係はいよいよ最終フェーズ(神代凛花による完全統治)へと突入していた。
進路希望調査票による未来の婚姻ルートの確定、そして文化祭での事実上の生涯パートナーシップ宣誓。外見こそ、他者を寄せ付けない「絶対君主」たる氷の笑みを崩さない凛花さんだったが、僕と二人きりになった瞬間に脳内で発生する精神的メルトダウンの熱量は、日に日に出力を増し、もはや学園の全インフラを過熱させるレベルに達していた。
そんな中、秋の終わりを告げる冷たい風が校庭の木々を揺らすある日の放課後。
すでに「僕の席の周囲半径5メートル」を最高級絨毯と特注ソファで新婚部屋へとリフォームされた2年A組の教室で、凛花さんは机の上にカチャリと静かな音を立てて、一枚の「漆黒の特製カードキー」を滑らせてきた。
カードの表面には、神代家の家紋とともに、金色の文字で【永久主権統治コード:誠】と刻印されている。お揃いの青いサファイアのブレスレットがきらめく彼女の右手は、冬の気配を感じる寒さのせいではなく、これから下す「最終宣告」への尋常ではない緊張と熱量で、小刻みにガタガタと震えていた。
「……誠くん。本日、高校2年生の後期課程における『最終安全保障条約』として、貴方にこの永久カードキーを強制授与(エスコート)してあげるわ。……ふん、勘違いしないで頂戴。これは単なる学園生活の鍵ではなく、これからの貴方の人生、未来、そして私への永久就職を物理的かつ合法的にロックするための『最終防衛システム(愛の檻)』よ」
凛花さんはいつもの高級な扇子をパタパタとエレガントに仰ぎながら、冷徹極まる聲音で僕を睨みつけてきた。
しかし、その白い耳の裏から、セーラー服の襟元から覗く細い首筋に至るまでは、すでに隠しきれないほどのチェリーピンクに染まり上がっている。
「凛花さん……これって、もしかして別荘やこれからの未来の、文字通りの『鍵』なの? 僕をそんなに閉じ込めておきたいんだね」
「……当然よ、誠くん。貴方が私の管理領域(テリトリー)から一ミクロンでも外れて、野良の雌どもにその笑顔を向けられるリスクを、私の独占欲――いえ、神代家の統治体制が許容するわけがないでしょう。貴方の身も心も、そして将来の戸籍も、すべて私の腕の中に永久監禁(チェックイン)されることが、この世界で最も不条理かつ絶対的な真理(ルール)なのだから……っ!」
(((((((((((((((((((((((((((((((((((ギエエエエエアルアアアアアアア!!! 最終回よ!! ついに第三十話、私たちの『新婚監禁カウントダウン』が最終局面(フィナーレ)を迎えたのよおおおおお!!! 『閉じ込めておきたい』!? そうよ、閉じ込めておきたいわよ! 私のこの重すぎる愛の檻の中に貴方を永久に幽閉して、毎日毎日、朝から晩まで私の薔薇のアロマと手料理(花嫁修業の成果)でドロドロに溶かして、私なしでは呼吸すらできない身体にしてあげるんだからあああああ!!! 好き! 大好き!! もう高校卒業なんて待てないから、今すぐこの教室のドアを神代重工の防弾シャッターで完全封鎖して、このソファの上で終わらない私たちの新婚生活を今すぐスタートさせなさいよおおおおお!!!))))))))))))))))))))))))))))))))))))))))
卒業を待たずに教室を封鎖したら流石に学園大パニックだが、彼女の脳内システムは、ついに最終回を迎えたことで、かつてないほどの最大出力を叩き出していた。
凛花さんは真っ赤になった顔を扇子で必死に覆い隠しながら、机の下で、僕の制服の袖をちぎれんばかりの強さでぎゅっと掴んで引き寄せてくる。
「……さあ、誠くん。貴方の口から、私への『永久服従(生涯の誓い)』を迅速に記述(エディット)しなさい。拒否権は我が家の最高裁判所がすべて終身刑として棄却したわ……っ!」
強気な言葉とは裏腹に、彼女の潤んだ瞳は「私から離れないで」と健気に訴えかけていた。お揃いのサファイアのブレスレットが、窓から差し込む夕暮れ時の琥珀色の光を浴びて、カチリと微かな音を立てて重なり合う――。
漆黒のカードキーに刻まれた【永久主権統治コード:誠】の文字。そして、机の下で僕の制服の袖をぎゅっと掴んだまま、不安と期待でガタガタと震えている凛花さんの白い指先。
思えば、誰もが恐れる「氷の令嬢」だった彼女とこうして机を並べ、半径5メートルの新婚部屋(リフォームされた席)で過ごすようになってから、たくさんの「重すぎる愛」を受け取ってきた。
監禁寸前の軽井沢の別荘、時空を歪めて大学生活までフライングした進路調査、そして旧校舎の最奥でのメイド服メルトダウン――。そのどれもが、彼女の不器用で、重くて、どうしようもないほど純粋な僕への愛の裏返しだった。
僕は深く息を吸い込むと、デスクの上の漆黒のカードキーをしっかりと自分の手で握りしめた。そして、驚いて顔を上げた凛花さんの潤んだ瞳を、真っ直ぐに見つめ返す。
「――うん。喜んで監禁されるよ、凛花さん」
「――ッッッ!?!?!??」
本日、そしてこの物語のすべてを通して最大級の直撃。神代凛花という絶対君主の全精神防衛システム(セキュリティ)が、根こそぎハッキングされるどころか、宇宙の彼方まで吹き飛ぶほどの衝撃が彼女を襲った。
「誠くん、貴方、今、何を……何を言っているの……っ!? 監禁よ!? 私の愛の檻に永久に閉じ込められるという意味が、その論理的思考回路で理解できているのかしら……っ!」
「うん。凛花さんが僕を誰にも渡したくないのと同じで、僕も凛花さんの隣を誰にも渡したくないんだ。だから、このカードキーは僕が一生持っておくよ。高校を卒業して、大学に行って、その先の未来もずっと――僕を凛花さんの『永久の檻』の中に閉じ込めておいて」
「――――――――――ッッッ!!!!」
凛花さんの白い肌が、耳の裏から首筋、そしてセーラー服の襟元から覗く肌のすべてに至るまで、一瞬にして沸騰したように鮮やかな大輪の深紅へと染まり上がっていく。彼女の瞳からは、ついに堪えきれなくなった幸せの涙がポロポロと溢れ出していた。
(((((((((((((((((((((((((((((((((((((((ト、ト、ト、ト、トカシタアアアアアアアアアアアアア!!! 完全融解!! 完全に私の心臓が、誠くんという名の太陽にドロドロに溶かされて消滅したわ!!! 『喜んで監禁される』!? 『僕を凛花さんの永久の檻に閉じ込めておいて』!? これ、全宇宙の恋愛最高裁判所が満場一致で『人類史上最も甘い事実上の永久婚姻宣誓』と採択する、歴史的グランドフィナーレじゃないのよおおおおお!!! 違うの誠くん! 私は貴方を支配する主権者のはずなのに、貴方のその底なしの優しさと覚悟の前に、私の方が貴方の愛の檻に一生監禁(メルトダウン)されてしまったじゃないのよおおお!!! 好き! 大好き!! もう世界中の全ての法律を書き換えて、今この瞬間から私たちを『佐藤凛花』――いいえ、『神代誠』として、永久不滅の新婚生活へ強制チェックインさせなさいよおおおおお!!!)))))))))))))))))))))))))))))))))))))))))
彼女の脳内システムは、ついに最終回の爆発によって完全に限界を突破し、幸せの熱核爆発を起こしていた。
凛花さんは真っ赤になった顔を隠すことも忘れ、泣き出しそうな笑顔のまま、僕の胸元へと激しく飛び込んできた。
長い黒髪から、冬の訪れを予感させる冷たい空気の中で、最も濃厚で甘い薔薇のアロマが弾け飛び、僕たちの世界を完全に満たしていく。僕は彼女の細い背中に腕を回し、その壊れそうなほど愛おしい身体を、強く、強く抱きしめた。
「……不条理よ、誠くん。……本当に、貴方って男は、私の予測演算(知性)をいつも簡単に狂わせてしまうのだから……」
「あはは、ごめんね。でも、これが僕の本当の気持ちだから」
「……もう、絶対に離してあげないわ。貴方が自ら私の檻を選んだのだから……これから始まる大学生活も、その先の未来も、貴方の全人生の主権は、この神代凛花が永久に独占(愛)し続けてあげるんだから……っ!」
彼女は僕の胸に顔を埋めたまま、そう愛おしそうに、けれど最高に重く甘い「最終幸福宣告」を呟いた。
机の下で、お揃いの青いサファイアのブレスレットがついた二人の手が、指を絡め合うようにして固く、固く結ばれる。
窓の外、夕日に染まる夕暮れ時の美しい校庭。
僕たちを繋ぐ手首のサファイアは、これから始まる二人の終わらない「永久監禁(新婚生活)」への誓いのように、未来の光を浴びて、どこまでも眩しく輝き続けるのだった。
学園一の嫌われ令嬢(実は超絶不器用)が、隣の席の俺にだけ「心の声」がダダ漏れな件について 宵月綴 @tsuzuri_y
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